第十九話:『簡易転送システムと歪な謙虚』
第十九話:『簡易転送システムと歪な謙虚』
拠点の宿屋。マッドが全権を握る実験室の内部には、重々しい金属の駆動音と、火花の散る熱気が充満していた。
「よし、ベータ。これで最低限の準戦闘兵装の組み込みは完了だ。まぁ、前世で使っていたような大型火力兵器や、街一つを消し去る大規模兵装は、外部の武装保管倉庫と空間転送システムを常時連動させないといかんから、この手狭な部屋ではまだ物理的に無理だがな……。いっそ、この宿屋をもう一室借りるか? いや、効率を考えるなら全室丸ごと買い占めるべきか……」
ウインドウに表示された兵装ステータスを眺めながら、マッドは顎に手を当てて深刻に悩んでいた。
彼の横には、背部に鋭利な翼のごとき銀色のブレード羽を装着し、全身のフレームを新調したベータが佇んでいる。
水色の髪をかすかに揺らし、彼女は自身のメタリックな手のひらを見つめた後、申し訳なさそうにぺこりとお辞儀をした。
「マスター、まだ私は不完全なのですね。お手数をおかけして、本当にごめんなさい」
その歪なほどに謙虚な態度に、マッドは作業の手を止めて不快そうに眉をひそめた。
「何を言っている。俺は世界征服と、俺自身の技術的欲求という目的のために、自分の意志でお前をビルドしているだけだ。そんな生ぬるい謙虚な態度を見せるな。お前は、前世のあの忌々しい一号機を超えるために生み出された、悪の組織の最終兵器なんだぞ」
「悪の組織の、最終兵器……。はい、マスター」
ベータは大きな瞳を瞬かせ、その言葉を処理容量の奥底へと刻み込む。
マッドはすぐに興味を失ったように視線を戻すと、新たに採取したタングステン合金を削り出し、榴弾を多数連続展開できる簡易転送システムの自動リロード機構を、ベータの背部補助砲身へと取り付ける最終調整に入った。
――その時、宿屋の薄い壁を突き破るように、外からけたたましい怒号と悲鳴が響き渡った。
「つ、ついに魔族軍の本隊が攻めてきたぞーーっ!!」
「魔王様直属の軍勢だ! もうおしまいだ、逃げろ、逃げろぉ!」
地鳴りのような足音と、村人たちの絶望に満ちた喧騒が、静かな研究室の空気を無遠慮に掻き乱し始める。
四天王をすべて失った魔王軍が、ついに本格的な軍事行動を起こしたのだ。
「チッ、また作業の邪魔が入ったか」
マッドは工具を握ったまま、忌々しそうに窓の外の空へと視線を向けた。




