第十八話:『風の弾道計算とタングステンの価値』
第十八話:『風の弾道計算とタングステンの価値』
海岸のあまりの惨状と、人類の背後に未知の脅威が存在する可能性。
そのすべてを魔王城への通信水晶に吹き込み、帰還しようとしていた風の四天王ゼファーの背後に、二つの影が猛烈な速度で着陸した。
「まだ採掘予定の現場に邪魔者が沸いているな。効率が悪い」
「マスター、あれは敵ですか?」
白衣を翻すマッドの横で、水色の髪を揺らすベータがのんきに首を傾げる。
「あぁ、あれは俺たちの邪魔をするオブジェクトだ。敵でいい」
「あれと、宿屋の女将さんはどっちがもっと敵ですか?」
「宿屋の女は不味いが食事を運んでくる。俺の作業時間を担保している以上、合理的に見て味方に分類される。だが、あいつは俺が今からやろうとする採取活動を妨害する可能性がある。つまり、純度の高い敵だ」
「ベータが、やっつける?」
平然と会話を交わす二人を前に、ゼファーは全身の血が逆流するほどの怒りを感じていた。
即座に臨戦態勢をとり、白銀の甲冑の周囲に牙のような突風と、巨大な竜巻を幾重にもまとわせる。
「我は魔王四天王の最後の一人・風のゼファー! まさか……貴様らが、この拠点を消滅させた張本人ではあるまいな!?」
「マスター、したんですか?」
「ベータ、会話は有益な情報を得るためにある。あれはすでに答えが確定している、返答の必要がない無駄な質問だ」
マッドは冷淡に言い捨てると、左手の義手をゼファーに向けてかざした。
「大方、風の障壁が強いからどんな攻撃も届かない、とでも言い出すのだろう。中学生の妄想のようで教育に悪いな」
「いかにも! 我が強風の絶対防御の前には、いかなる弓矢も、槍も、剣も、そして人間の生ぬるい魔法さえも――!」
――ダァァァァンッ!!
大気を切り裂く、苛烈な単発の発射音が海岸に轟いた。
わずかにマッドの義手の銃口から、白い硝煙が立ち上る。
「弾丸が風の影響を受けて曲がるのは、質量に対して表面積が大きすぎたり、素材が軽すぎるせいだ」
マッドは冷酷に、自身のシステムコードを確認する。
「ダイヤモンド級の硬度を持つタングステンで作った、超小型・高密度の弾薬。これを無尽蔵に精製・採取できる環境が整っている以上、お前の起こす空気の揺らぎなど、弾道計算の壁にすらならんよ」
絶対の防壁を誇っていたはずの風は、瞬時に霧散していった。
額の中央、頭蓋を正確に粉々に砕かれたゼファーは、何が起きたのかを理解することすらできず、そのまま力なく砂浜へと崩れ落ちていった。
四天王の全滅が確定した瞬間だった。
「タングステン! ベータにも、それがとても大切なものだと分かりました!」
目の前の即死劇を見て、ベータは嬉しそうに瞳を輝かせた。
「ふむ、素材の価値が理解できるようになったか。一歩前進だな」
マッドは小さく頷くと、死体には一切の興味を示さず、ベータを伴って海岸線の奥に眠る人工ガーネットの鉱脈へ向けて、淡々と歩き出した。




