第二話:『初期スキルの規約払い戻し』
第二話:『初期スキルの規約払い戻し』
――ガヤガヤと、騒がしい人間の声が鼓膜を叩いた。
「おお、よくぞ召喚に応じた、勇者よ! どうか我ら人類を魔王の手から助けてほしい!」
マッドが意識を取り戻したとき、最初に視界に飛び込んできたのは、見たこともない異国風の大広間だった。
大理石の床、豪奢な装飾が施された高い天井。そして、一段高い玉座から身を乗り出し、大仰な身振りをしている贅沢な衣をまとった老人――国王らしき男が、期待に満ちた目をこちらに向けている。
「……チッ」
マッドは端正な顔立ちを不快そうに歪め、盛大な舌打ちを漏らした。
つい先刻、自分が生み出した最高傑作に消し飛ばされたはずだった。あの圧倒的な破壊の余韻に浸っていたというのに、不躾に邪魔をされた気分だ。
「おぉ……! 国王、この勇者のステータスをご覧くだされ!」
国王の傍らに立つローブ姿の男が、怪しく光る水晶を覗き込み、狂喜に満ちた声を上げる。
「【スキル・身体能力2倍】【スキル・光魔法】【スキル・連続攻撃】【スキル・魔法同時発動】……なんという祝福スキルの数々なのでしょう! 歴代の勇者を遥かに凌駕する、至高の逸材にございますぞ!」
魔導士の言葉と連動するように、マッドの視界の前に、半透明の光る画面――ステータスウインドウが浮き上がった。
そこには男が読み上げた通りの文字が、大層な飾り文字で羅列されている。
だが、マッドはその画面の構成を凝視すると、冷酷な失笑を漏らした。
「なんだこれは。操作方法がまるでお話になっていないな。スワイプの感度も悪い。よくもまぁ、こんなお粗末なインターフェースをデフォルトに設定できたものだ」
「な、何だと……? 勇者よ、何をブツブツと――」
困惑する国王と魔導士の視線を完全に無視し、マッドはその場にどさりと座り込んだ。
そのまま、目の前の空間に浮かぶ画面へ迷いなく指を伸ばす。
「それに、この『祝福』とやらは何だ。誰の許可を得て、勝手に固定パックでインストールしている。不愉快だな。俺のビルドは、俺が欲しいものだけで構成させてもらう」
マッドは画面の隅にある小さな『設定アイコン』をタップし、階層化された詳細メニューを開いた。
利用規約のテキストを高速でスクロールし、最下部に隠されていた「取得スキルの初期化・還元項目」を迷わず選択する。
ヘルプテキストを読めば、この世界におけるスキルの構成変更手続きは明確に記載されていた。
画面上の警告ポップアップを淡々と『承認』していく。
指先を正確に動かし、システムの手順通りにガチャガチャと操作を完了させると、初期設定されていた複数の祝福スキルが、未割り当ての純粋な『経験値』へと綺麗に解体・分解されていった。




