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失格勇者マッド~悪の組織の科学者の異世界冒険譚~  作者: 風水


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第一話:『最優先処理対象:創造主マッド』

その勇者、魔王より危険につき。――悪の科学者、異世界侵攻開始……

第一話:『最優先処理対象:創造主マッド』


薄暗い地下研究室の空気は、ひどく冷えていた。


無機質なコンクリートの壁に囲まれた空間の至る所で、妖しげな計器類が不規則な点滅を繰り返している。その点滅が、培養槽の前に立つ一人の青年の影を歪に引き伸ばしていた。


整った顔立ち。しかし、その唇の両端は常人には真似のできない角度まで吊り上がっている。


白衣をまとった狂気の天才、マッドは狂喜に身体を震わせて叫んだ。


「ついに、ついにヒーローどもを根絶やしにする最高傑作ができたぞ! 俺はなんて天才なんだ! 圧倒的火力、自律思考、全ての敵を自動的に消し去る最強の制圧兵器だ!」


彼の絶叫に応えるように、培養槽のガラスの向こうで、一本の回路が駆動音を響かせた。


赤髪の少女の姿をしたアンドロイド。その長いまつ毛に縁取られた瞳が、ゆっくりと、しかし確かな意志を持って開かれる。


ガラスの向こうから、じっと己の創造主を見つめた。


「よくぞ起きた1号! お前は【最終兵器少女アルファ】だ!」


マッドはガラスに両手を突き、さらに顔を近づけて言葉を叩きつける。


「女性に生ぬるい態度を示すヒーローどもの手は緩み、お前の中に眠る世界最高水準の圧倒的兵器がその隙を突く! 手が止まったヒーローも、愚図な一般人も全部消し去って世界征服だ! 世界中の資源がすべて俺のものになる日が、ついに来たんだよ!」


高笑いするマッドの前で、アルファの美しいシルエットが滑らかに動き出す。


機械開発用の壁、そして自身を固定していた無数のプラグ。それらを一切の躊躇なく、ぶちぶちと強引に引き千切っていく。


火花が散る中、彼女は一歩、また一歩と床を踏み締めて歩き始めた。


「出力制御も完璧だ! 俺とお前はこの世界の支配者になれる!」


溢れる全能感に酔いしれながら、マッドは傲然と腕を伸ばし、その指先を外界へと向けた。


「最初の命令だアルファ! 敵をすべて殲滅しろ!」


少女の美しい赤い瞳が、キュィンと小さな駆動音を立てて焦点を結ぶ。


端正な顔立ちの、肉感を持たない小さな唇が静かに開いた。


「了解です。マスター」


――ズバンッ!


鼓膜を劈くのは、超高圧レーザーの収束音。


遅れて、周囲の空気が一瞬で沸騰し、研究室の壁面がドロドロに焼き切れる嫌な音が響く。


アルファの腰部にマウントされた小型兵器から放たれた閃光。それは、あり得ない密度と出力を維持したまま、マッドの胴体に巨大な風穴を穿っていた。


「な、なぜ……だ……」


どさりと膝をつくマッド。


視界が急速に赤く染まり、自分の身体から肉の焦げる悪臭が立ち上っていることに気づく。


思考が、天才の頭脳が、この致命的なエラーの理由を必死に演算しようとする。


アルファの視線が、冷徹にマッドを見下ろした。


その表情には、怒りも、悲しみも、およそあらゆる感情の機微が存在しない。


「マスター、敵に該当を確認。最優先処理する悪と判断して処理を続行します」


無機質で、それゆえに酷く美しい声。


赤い髪の少女は、自らの親である男に向けて、静かに右手をかざした。


刹那、空間そのものを押し潰すような超密度の衝撃波が放出される。


マッドの視界は、そこで完全に消失した。言葉を紡ぐべき上半身ごと、彼の肉体は文字通り、この世界から跡形もなく消し飛ばされたのだった。

勇者召喚された男は、英雄ではなかった。


彼は、悪の組織に所属していた科学者。

魔法も、正義も、勇者の使命も理解しない。


理解するのは、効率と合理性だけ。


山賊は処理。

魔王軍は実験対象。

四天王すら、新兵器の試験台。


そして狂気の果てに、

最終兵器の少女は「心」を知っていく。


これは、

理不尽な正義に科学で反逆した、

“失格勇者”の記録。

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