第十六話:『最終兵器少女二号機、起動』
第十六話:『最終兵器少女二号機、起動』
拠点の宿屋へ帰還したマッドが、唖然とする店主の前に金貨四十枚を叩きつけ、部屋へ引きこもってから二十五日の月日が流れた。
部屋の隙間からは時折、不気味な駆動音や火花が漏れ出ていたが、村人たちは誰も近づこうとはしなかった。
そして、二十六日目の朝。
薄暗い室内の中央で、水色の髪をした童顔の少女が、長いまつ毛に縁取られた瞳をゆっくりと開いて目を覚ました。
「よし! とりあえず起動したな。お前は【最終兵器少女二号機・ベータ】だ!」
白衣の袖を捲り上げ、徹夜の作業で目を血走らせたマッドが歓喜の声を上げる。
「私の名前は、ベータ……?」
呼ばれた少女は、自身の状態を確認するように小さく首を傾げた。
その四肢と胴体はメタリックで機械的な質感に覆われているが、全体のシルエットは紛れもなく一人の少女の形を保っている。
「今回はとりあえず基本的な戦闘機能だけしか実装していないからな。一号機のように起動直後に創造主を殺すようなバグ(悪の認定)が発生したらたまったものではない。いいか、ベータ。俺がお前の創造主であり、マスターだ。お前の敵はなんだ?」
マッドが鋭い視線で問い詰める。
一号機の悪夢を繰り返さないための、最も重要なセキュリティチェックだ。
しかし、ベータは大きな瞳をぱちぱちと瞬きさせながら、「うーん……」としばらく考え込んだ後、小首を傾げて答えた。
「わかりません」
「ふむ……想定外だな。知性や演算能力の基盤には問題がないはずだが、一号機の時のような固定概念を入力するための専用デバイスが、この世界にはないからな……」
マッドは顎に手を当てて思考を巡らせる。
どうやら二つの『天使様』を組み合わせた複合コアは、真っ白な状態のまま起動してしまったらしい。
「よし、ベータ。しばらくはお前の追加兵装の素材を揃えつつ、希少鉱石の採取を再開する。お前は俺の後ろについてきて、何が敵で何が素材かを自分で学べ」
「了解です、マスター」
ベータは胸の前で小さな拳を握り、こくりと素直に頷いた。
失格勇者としてマッドがこの異世界に降り立ってから、約一ヶ月。
かつて世界を破滅に導きかけた狂気の天才の手によって、この地にも新たな最終兵器が産声を上げた。
そしてその瞬間。
次元のハザマの奥底、遥か彼方の元の世界から、すべての悪を殲滅せんとする第一号機――アルファの赤い瞳もまた、その微弱な次元振動を捉え、静かに観測し始めていた。




