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月の惨劇

【章のあらすじ】

(アルタイルの記憶を遡り、過去の絶望的な出来事と背景をフラッシュバックで追体験する。

「ギャハハハハハ!」


「シーザ、お前は本当に能無しだぜ! 俺が十本の槍をぶち込んだってのに、お前はたったの八本じゃねえか!」


エリスは、円陣を組む兄弟たちの中でシーザを嘲笑した。

彼らはすでに、オリアの肉体に無数の槍を突き刺し、月の荒野を彼女の青き血で染め上げていたのだ。


シーザは、眠たげで冷え切った両眼で弟を一瞥した。

だが、まともな関心を払うことはなく、すぐに視線を落とす。

彼はただ静かに、皇帝が占領した都市のホログラム地図を見つめ続けていた。


赤髪のエリスは、瞬時に激しい怒りに囚われた。


ギリッ……!


両拳を強く握り締め、そこから猛烈な炎を噴き上がらせる。


「てめぇ……俺を無視する気かよ!?」


シーザは極めて聡明であった。

エリスが激昂しやすく、容易に挑発に乗る単細胞であることを熟知している。

ゆえに、あえて沈黙をもって侮辱することで、その怒りをさらに煽り立てたのだ。


「争いはやめるべきです。あなたたちは過剰な騒音を発生させている」


「アルタイルの絶叫だけで、すでに十分なノイズですから」


冷徹な声の主は、ヴィクターであった。

彼は手元の端末に没頭し、マリクからの要請に基づき、彼らの王国の最新状況を監視する制御パネルを構築している真っ最中だった。


それでもなお、拘束されたアルタイルが母を呼ぶ絶叫は、決して鳴り止むことはなかった。


チャリン……チャリン……。


「彼女はまだ死なないんですか?」


ダンテが、黄金のコインを指先で弾きながら、ひどく退屈そうに呟いた。


「ウフフフ……。ねえ、シラスお兄様。私にその毒を渡してくださらないかしら?」


リリスが口元に手を当て、蠱惑的に微笑む。

毒の小瓶を受け取った彼女は、優雅な足取りで左右に揺らめくように歩き出した。

その顔には、底知れぬ悪意に満ちた笑みが張り付いている。


彼女はオリアの顎にそっと手を添え、その唇に致死の毒を流し込んだ。


ポタッ……。


液状の毒が唇に触れた瞬間、絶望的な浸蝕が始まった。

オリアの肉体は、血管を駆け巡る猛毒に全霊で抵抗しようとする。

しかし、リリスが調合した極毒は、オリアの耐久限界を遥かに凌駕する代物であった。


ピキッ……ピキキッ……。


皇帝がかつて愛した、純白で無垢な肌がひび割れていく。

豊かな白髪が束になって抜け落ち、無重力の空間を彼女の顔の周りでふわりと漂った。


「ガハッ……! ゲハァッ!」


オリアは激しく咳き込み、大量の血と共に、ドロドロに溶け去った肝臓や内臓の破片を吐き出した。

それらは醜悪な泡のように虚空を舞い、アルタイルの目の前へと散らばっていく。


「うわっ、最悪ですね!」


ダンテが不快げに顔を顰め、高級な革靴に付着した血の滴をハンカチで拭き取る。


「リリス、もっと視覚的(ビジュアル)にマシな副作用の毒は作れなかったんですか? この靴のクリーニング代は、アルタイルの遺産から天引きさせてもらいますよ」


リリスは可愛らしく首を傾げ、口元に指を添えた。

実の母の死にゆく様を見つめながら、甘ったるい声で笑い声を上げる。


「あらぁ〜。愛しのダンテお兄様、素晴らしい芸術(アート)には、多少の犠牲がつきものですわ」


その時、リュウが静かな足取りで進み出た。

彼の手には、異様な蒸気を立ち昇らせる金属の鉢が握られている……沸騰した水銀である。


「これも呑ませるでござる。さすれば、散らばる臓物も治まるであろう」


リュウは、一切の感情を排した冷徹な声で言い放った。


ガシィッ!


エリスが暴虐な膂力でオリアの頭を鷲掴みにし、その顎を無理やりこじ開けた。


ドクドクドクッ……!


リュウは躊躇うことなく、煮え滾る水銀を彼女の喉の奥深くへ、そして両耳へと直接流し込んだ。


オリアは、両眼と口を極限まで見開いた。


絶叫……!


精神の限界を破壊するほどの激痛。宇宙を揺るがすほどの悲哀の叫び。

だが、暗黒の月の真空において、その音は一切響かなかった。


完全なる無音。


ただ、母の首筋の血管が今にも破裂しそうに膨れ上がる様だけが、磔にされたアルタイルの心をズタズタに切り裂いていく。

彼には、母の最期の呻き声すら聞こえなかったのだ。


ついに、オリアは完全に抵抗を諦めた。

その鼓動が、永遠に停止する。


ピキピキピキッ……!


数秒のうちに彼女の肉体は急速に凍結し、完全に硬直した。

あらゆる尊厳を奪われた氷の彫像と成り果て、荒涼たる虚空をただ虚しく漂い始める。


アルタイルは、充血しきった両眼を見開いたまま、そのすべての惨劇を目に焼き付けていた。

呼吸は詰まり、頬を伝う涙さえもが冷たい真空で凍りついていく。


(父上は殺された……故郷の星は破壊された……兄弟たちは化け物になり果てた……)


(そして、母上は……俺の目の前で、嬲り殺しにされた……!)


底知れぬ絶望が彼を呑み込み、血を流しながら自らの魂に問いかける。


(どこにある……!? 母上が言っていた、強大な『宇宙の記録(アカシャ)』の力はどこにあるんだ!?)


(なぜ発動しない!? どんな地獄を味わえば、その力は解放されるっていうんだ!?)


(母上……あなたは、俺に嘘をついていたのか……!?)


——異端の理:時空裂断(アノマリー・アクシオム:じくうれつだん)。


深い悲壮と絶望の頂点で、アルタイルは大きく口を開き、絶叫した。

狂気に満ちた、極めて純度の高い怒り。


生への希望を完全に捨て去り、死の淵を見据えた彼から放たれたその咆哮は——。

音も風も存在しないはずの月の荒野に、絶対的な轟音として響き渡った!


ドゴォォォォォンッ!!


彼の肉体から爆発的なエネルギーが迸る。

彼を縛り付けていた鋼鉄の手枷も、巨大な十字架も、まるで細い糸のように容易く粉砕された。

その衝撃波により、目の前にいた八人の兄弟たちが一斉に吹き飛ばされる。


ズバァァァァンッ!


アルタイルの眼前で空間が大きく歪み、時空の布地が引き裂かれた。

そこには、部屋一つ分ほどもある巨大な漆黒の亀裂(クレバス)が形成されていた。


(——飛び込め)


彼の中の何かが、本能的にそう告げた。


残された全エネルギーを振り絞り、アルタイルは亀裂へ向かって駆け出した。

吹き飛ばされたリリス、マリク、シラスが辛うじて身を起こし、彼を仕留めようと手を伸ばす。


だが遅い。


収縮し、虚無へと消え去ろうとする亀裂の中へ、アルタイルは間一髪で飛び込んだのだ。


——太陽軌道帝国・後宮(ハレム)のメインホール。


ドサァァァッ!


アルタイルは、硬い大理石の床に勢いよく叩きつけられ、無様に転がった。

肉体は深い傷と打撲に覆われ、衣服はズタズタ。

そして『異端の理(アノマリー・アクシオム)』を解放した代償として、彼の両眼は白目を失い、完全に漆黒へと染まりきっていた。


ハァッ……ハァッ……。


途切れ途切れの息を吐きながら、彼はゆっくりと顔を上げる。

そこは、彼がよく知る場所でありながら——絶対に存在するはずのない場所だった。


目の前には……皇帝(父)が立っていた。

そしてその傍らには、大きなお腹を抱えた、生きたオリア(母)の姿が。


(ここは……天国か? 俺は死んだのか?)


(それとも、あの地獄はすべて悪夢で、俺はまだ母上の胎内にいるのか?)


(だとしたら、ここにいる俺は誰だ……? あのお腹にいるのは、弟なのか?)


思考が霞む。肉体は完全に限界を迎え、指先を動かす力すら残っていなかった。

傷だらけの片膝をつき、絶望と涙に溢れた両眼で、愛する二人の姿を見つめる。

そして、微かに震える声で、ただ一言だけを紡いだ。


「父……上……。母……上……」


ドサッ。


未来の恐るべき真実を背負ったまま、アルタイルは糸が切れたように意識を失い、皇帝の御前へと崩れ落ちた。


【作者ノート】

子供の頃から、タイムトラベルの物語が大好きでした。アルタイルは誰を彷彿とさせますか?そして、彼がこれからどこへ向かうと予想しますか?


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