地獄に咲く千と一の華
オリオン星の辺境において、昼はすでに漆黒の宵闇のごとく沈み込んでいた。
大地は二つの涙を流して慟哭している。頭蓋を満たし都市を飲み込む粘り気のある青い血と、息の詰まるような炎と煙の海だ。
その凄惨な光景は、圧倒的な力と栄華を誇った魅惑的な超文明が、完全に崩壊したことを残酷なまでに告げていた。
数千年にも及ぶ進歩と歴史の結晶が、遥か彼方の忘れ去られた銀河からやってきた一人の皇帝と、彼が引き連れる「八つの厄災」の手によって、一時間足らずで文字通り歴史から抹消されたのである。
この絶対的な廃墟の中心で、『太陽軌道帝国』の旗が空高く掲げられ、燃え盛るオリオンの空に重苦しい影を落としていた。
星は陥落した。百二十億もの膨大な人口を抱える民が、たった一人の暴君の足元に平伏している。
極めて優れた頭脳と、莫大な富に溢れた星。地殻に含まれる黄金の量だけでも、地球の全埋蔵量の実に一万倍に匹敵するほどだ。
もし皇帝がこの星だけを奪い、そのまま帰還したとしても、彼は間違いなく全宇宙で最も裕福な存在となっただろう。地球を丸ごと手に入れた者でさえ、その足元にも及ばないほどの莫大な富を築けたはずだ。
だが、黄金など初めから彼の目的ではなかった。
彼の野望はさらに深く、底知れぬほど強欲であった。狙いは、太陽系には存在しない何十億トンもの希少鉱石や、比類なき宇宙資源。帝国の進化を現在の何倍、何十倍へと飛躍させるための絶対的な糧である。
皇帝がオリオン王国の宮殿の回廊に足を踏み入れると、その足音が死刑宣告のように冷酷に響き渡った。
そこは畏怖と恐怖が滴り落ちる空間だった。玉座の間へと続く道は、見渡す限り純度百パーセントの古代金で舗装されている。
その圧倒的な権化の周囲を、妻たちが静かな、しかし底なしの傲慢さを湛えた瞳で付き従う。
第六夫人カミールは、巨大な彫像や宮殿の装飾を眺めながら、視線をあちこちへと彷徨わせていた。
彼女の瞳は、狂気じみた芸術への渇望と、果てなき挑戦的な光を放っている。
「ああ……陛下……私の愛しい旦那様……」
カミールは熱に浮かされたように囁き、ふわりと身を揺らした。
「私、とっても誇らしいわ……。この宮殿のあちこちに、貴方様の彫像をいくつも彫り上げることができたら、どんなに素晴らしいかしら。ねえ、ご存知? この傲慢な文明の建築って、本当に退屈なの。魂も、大胆な芸術性も、何もかもが足りていないわ……」
皇帝は彼女に視線を向けることすらしない。
絶対的な傲慢さを纏いながら、ゆっくりと歩みを進め、冷酷な声で断ち切った。
「今はまだだ、カミール。奴らに底なしの屈辱を与えるまではな」
宮殿のメインルームを閉ざす鋼鉄の扉に近づいたその時――柱の陰や暗がりから、絶望的な動きがにわかに生じた。
生き残った近衛兵と、恐怖に引きつる貴族たちが、最後の防衛線を張ろうと試みたのだ。彼らは震える手を武器へと伸ばし、自分たちの最後の聖域を死守しようと身構える。
だが、彼らが次の一歩を踏み出すよりも早く、第一夫人ヴェロニカが進み出た。
氷のように冷たい視線と、一切の隙もない厳格な佇まい。彼女は武器を抜くことなどしなかった。
ただその唇を開き、静かで、しかし確かな声で紡ぎ始める。
それは脅迫などではない。極めて正確なデータの羅列だった。
彼ら一人一人の名前、隠された一族の真名、下劣な個人的秘密、そして司令官や貴族たちが手を染めてきた汚職のスキャンダル……。そのすべてを、身の毛もよだつほどの恐るべきアルゴリズムの精度で、淡々と読み上げていったのだ。
彼らの血管を流れる青い血が完全に凍りつき、四肢が麻痺した。
その致命的な瞬間に、誰もが悟った。自分たちのすべてはとうに暴露され、完全に計画の掌上で踊らされていたのだと。少しでも動けば、それが即座に「絶対的な抹殺」を意味するということを。
力なく開かれた手から武器が滑り落ち、彼らは己の絶望的な運命に完全なる降伏を示した。
ヴェロニカは皇帝へと振り返り、わずかに頭を下げ、極めて事務的かつ完璧な敬語で報告する。
「対象の無力化を完了いたしました、陛下。希少金属の包括的な採掘作戦はすでに開始されており、この星は今や、貴方様の絶対的な支配下にございます」
「粛清を始めよ、ヴェロニカ」
その短く冷酷な一言が、惑星全体の玉座を根底から揺るがした。
ヴェロニカは絶対的な冷徹さでその勅命を受け入れると、死を告げる巫女のごとく、燃え盛る空へと両手を高く掲げる。
瞬きする間に、真紅の鋼の瞳の海が不気味な輝きを放ち始めた。
――無数のロボット軍団が、都市と大地を蹂躙する鋼鉄の疫病のごとく解き放たれ、容赦なき魂の刈り取りを開始したのである。
帝国(我ら)の処刑台には、首斬り役人など不要だった。
死を執行するのは、無慈悲で盲目的なアルゴリズムである。ロボットたちは頭蓋の奥深くまで見透かすような眼光で標的を縫い止め、帝国が定める厳格なる基準――肉体の均整、遺伝子の純度、そして容姿の美しさ――を満たした者だけが、『太陽軌道帝国』の所有物(奴隷)として新たな命を許された。
だが、機械の審美眼をわずかでも満たせなかった者は……瞬きする間に、文字通りミンチ(挽き肉)へと変えられたのだ。
ほんの数時間。
それだけで、オリオン星のいくつもの村落が、存在の痕跡すら残さず地図から消え去った。時のはじまりから脈々と受け継がれてきた由緒正しき血統が、根こそぎ途絶えた。
壁が粘り気のある青い血の涙を流すほどの大虐殺。幼子の無垢も、老人の無力も、怯え震える無抵抗でさえ、一片の免罪符にはならなかった。冷徹なる人工知能の前にあっては、すべての命は単なる「肉の駒」、処理されるべきサンプルの群れでしかなかったのだ。
忘れ去られた貧民街の路地裏。絶望と貧困が吹き溜まるその場所で、一台のロボットが泣き声の漏れる古びた木の扉を蹴り破った。
薄暗い部屋の隅には、悲嘆に暮れる若き未亡人が身をすくめていた。彼女の夫は貧困から抜け出そうと、マディ・ロール将軍の部隊に志願したばかりだったが……その肉体は数時間前、すでに宇宙の虚空でチリと化していた。
女は嗚咽を漏らしながら、四歳になる息子を死から隠すようにその胸郭の奥深くまで強く抱きしめ、もう片方の震える手で、まだ一歳にも満たない赤ん坊の揺りかごを必死に掴んでいた。
だが、鋼鉄の死神が彼女の頭上を見下ろし、銃口を突きつけた瞬間、女から恐怖が消え失せた。その瞳には野蛮なまでの母の防衛本能が鋭く宿り、我が子を守るためなら己の歯でその鋼の体を噛み砕いてみせるとばかりに、純粋な怒りで機械を睨みつけたのだ。
たった三秒。
その三秒間で、機械のプロセッサは顔の造形を計測し、遺伝子を読み取り、一切の感情を排した氷の判決を下した。
音のない閃光が、部屋を焼いた。
ロボットは完全に機械的な動作で踵を返し、振り返ることすらなくその場を立ち去った。
後に残されたのは……温かい青い血の池の中で、たった独り泣き叫ぶ赤ん坊だけだった。
今日の呪われた太陽が昇る前、そこには確かに四つの命が息づいていたというのに。
* * *
血の粛清はとどまることを知らない。
腹を裂く即決処刑、生者を灰に変える絨毯爆撃、そして存在そのものを消し去るピンポイント爆撃。オリオンの流血は一瞬たりとも止まらなかった。
殺戮の車輪が惑星の骨をすり潰す第一段階が進行する中、浄化作戦の「第二段階」が、欲望と傲慢の糸によって静かに紡がれ始めていた。
それは、皇帝の果てなき自尊心を満たすためだけに特別に立案された計画。
――千輪の華の収穫。
この惨めな星が生み出した最高峰の美と完璧さを誇る、選りすぐりの千人の女たち。彼女たちは皇帝への貢物、ただの所有物(奴隷)として献上されるのだ。
そして、それに加えられる「最後のひとひら」。皇帝自らが選び抜き、己の昏き欲望のために取っておいた、ただ一つの宝石。
血に穢れた玉座の間の中央へ、カミール、レイラ、そしてイザベラが優雅な足取りで進み出ると、皇帝の前で深い服従と畏敬の念をもって跪いた。
彼女たちこそが、主人のために人間という名の戦利品を数え上げ、選別する絶対的な『選定委員会』である。
猛毒の蜜が滴るような声で、レイラが恭しく囁いた。
「我が君……戦利品の選別が進んでおりますわ。現在までに、千のうち五百の処女をよりすぐりました。この星が生み出した奇跡のごとき美しさを持つ特級品……貴方様の威光にふさわしい者たちだけでございます」
皇帝は数など気にも留めず、むしろ悪魔のような飢えをその瞳にギラリと宿し、低く這うような声で尋ねた。
「それで……余の『特別なお気に入り』はどうしている?」
三人の妻たちは共犯者のような視線を交わし合い、イザベラが意地の悪い笑みを浮かべて答えた。
「心配いらないわよ、アタシたちの愛しい旦那様。彼女なら、とっても……『手厚い』おもてなしを受けてる最中だからね」
皇帝は玉座から立ち上がった。
宮殿の地下牢へと続く冷たい石の廊下に、死の秒針のような重くゆっくりとした足音を響かせながら歩を進める。
彼は、頼りない一筋の光だけが差し込む薄暗い独房の前で立ち止まり、背中で手を組んで氷のように冷たく見下ろした。その唇には、彼特有のサディスティックな笑みが深く刻まれている。
皇帝の姿を視界に捉えた瞬間、囚われの女は狂暴な獣へと豹変した。
恐ろしいほどの殺意を剥き出しにして跳ね起き、彼の喉笛を食い破ろうと飛びかかったのだ。しかし、彼女の華奢な四肢と首を戒める太いチタンの鎖が容赦なく彼女を後ろへと引き戻し、冷たい壁に激突させ、強制的にその膝を折らせた。
女は激しく喘ぎ、純粋な憎悪と怒りによって胸を大きく上下させていた。
彼女が受けたのは、極めて緻密に計算された「拷問」だった。魂の誇りをすり潰し、精神を粉砕し、希望を根こそぎ刈り取るための拷問。
それでいて、彼女の放つ雪のように透き通った白い肌や、息を呑むほどに美しい顔立ちには、かすり傷一つ、ただの痣一つとして残されていないのだ。
皇帝は、彼女が放つ濃密な憎悪を極上の美酒のように堪能していた。
オリオン星の王冠を飾る最高の宝石が、惨めな奴隷のように鎖に繋がれ、もがく姿を心底から愉しんでいる。
その無力な囚人こそが、この血祭りに上げられた星に残された、最後の誇り。
オリオンの王女――『オリア姫』。
皇帝の座乗艦の舳先で、今も上半身を切り離されたまま血を流し、生きたまま磔にされているマディ・ロール将軍の、愛しい娘であった。




