第三章:灰燼の上の九つの影
マディ・ロールは膝をついていた。
深い傷を負い、その巨体と眼下の床を青い血で染め上げながら死の淵を彷徨っていたにもかかわらず、彼は決して動じることのない山のように毅然と耐え忍んでいた。呻き声を殺し。激痛を呑み込み。一滴の弱みすら見せることを拒絶した。
彼が心を折られることは、すなわち自身と彼の民にとって、この怪物どもの前での絶対的な屈辱を意味することを痛いほど理解していたからだ。残された気力の全てを振り絞り、ただ強さと忍耐を希求しながら、彼は気高く首を垂れなかった。
皇帝は玉座からその姿を見下ろし、顔にサディスティックな笑みを深く刻み込んでいた。
一言も発することはなく。ただゆっくりと手を挙げ、第一夫人ヴェロニカへと視線を向けた。絶対的な命令を宿した、無言の合図。
ヴェロニカは、いつもの冷徹さでその意図を汲み取った。そして、ロボット軍団へ向けた簡潔な命令として、暗号を口にする。
「プロトコル実行:B-714」
その瞬間、天王星のドームから、超巨大電磁砲の砲口が宇宙空間へと向けられた。標的は――マディ・ロールの宇宙艦隊。
死の光条が放たれた。艦隊に着弾。
ほんの一瞬の間に、オリオン軍の誇る数千の最精鋭たちが虚空へと飲み込まれた。オリオンの王冠の宝石、彼らの誇り、そして無敵の盾……その全てが完全に粉砕された。オリオンの頭脳が到達した宇宙戦争技術の最高峰は、今や絶滅の風に吹き飛ばされる塵芥へと成り果てたのだ。
皇帝は、最初からボタン一つで全てを終わらせることもできた。マディ・ロールも、その艦隊も、虚無の中へ叩き潰すことなど造作もなかった。
だが彼は、あえて敵を誘い込み、己のサディスティックな渇きを満たすために、妻たちが直接その手で獲物を引き裂く「娯楽」を与えたのだ……。
そして今、彼はオリオンの最高位たる将軍を、徹底的な敗北の鎖に繋ぎ、拘束し、屈辱を与え、血まみれにして引きずり回している。
マディ・ロールは数秒間だけうつむいた。殉職した同志や兵士たちへの張り裂けんばかりの悲しみが胸を締め付け、彼らと共に過ごした美しき日々や、肩を並べて戦った輝かしい武勲の数々が脳裏をよぎったのだ。
しかし、彼はすぐに顔を高く上げた。自らの部下たちが、指導者の屈辱に塗れた姿や、うなだれる様など決して望まないことを確信していたからだ。
だが、第三夫人ロキシーは彼に猶予を与えなかった。
鋼鉄のような脚で彼の広い背中を蹴りつけ、残された脊椎の骨を無慈悲に砕き始めた。その顔には、決して消えることのない野蛮な笑みが張り付いている。
それでも将軍は耐えた。片腕を失いながらも、神話的なまでの沈黙をもって、その苛烈な打撃を受け止め続けたのだ。
その時、第四夫人レイラが歩み出た。
絹のように滑らかな黒髪を腰まで揺らし、彼女は優雅に気取った足取りで進み出る。その圧倒的なまでの優雅さが、広間の空気を支配する。華麗なドレスが彼女の魅力を際立たせ、高価な宝石が光を浴びて輝きを放つ中、ナイフの刃のように鋭いハイヒールが、静かで致命的なリズムを床に刻んでいく。
レイラは将軍に近づき、オリオン艦隊の残骸が散らばる窓の外へと視線を向けた。そして、作り物の優しさが滴る表情と、猛毒の蜜を帯びた声で将軍へと言い放った。
「あらあら……なんとお可哀想に。あの哀れな者たちは、その無知ゆえに、私の愛しい旦那様の対等な敵になれるとでも思い上がっていたのですね……。本当に、どこまでも愚かなことですわ」
レイラの唇には、無邪気さを装った極めて邪悪な笑みが浮かんでいた。彼女はさらに将軍へと近づくと、軽やかで唐突な動きとともに脚を振り上げ、その鋭くとがったヒールの踵を、マディ・ロールの腹部へと深く突き刺した。
床に大量の青い血が溢れ出し、ついに限界を超えた。
彼が負った傷は、もはや一つの肉体が耐えうる許容量を遥かに超えていた。力を失い、その巨大な身体と誇り高き頭は、ついに床へと崩れ落ちた。
倒れ伏した将軍の上に立ったレイラは、鋭利なヒールで、彼に残された唯一の健全な目を無慈悲に踏み躙った……。完全に眼球を破裂させ、彼から永遠に光を奪い去りながら、我が子を慰める母親のような声で首を振り、こう囁いた。
「可哀想に……可哀想に……可哀想に」
眼球の体液にまみれたヒールを引き抜き、彼女は元の立ち位置へと戻りながら、心底不愉快そうに、しかし上品に呟いた。
「本当に悲しいですわ。彼の血で、私の新しいドレスが汚れてしまいましたもの」
肉体的な拷問のショーは終わった。ここからは、精神的ドグマの地獄の幕が開く。
玉座の上から、氷のように冷酷な声で皇帝が広間の沈黙を破った。
「口は利けるか、マディ?」
盲目となった将軍は一言も発さなかった。極限の出血と苦痛のあまり、まともに思考することすら不可能な状態だった。
そこで第二夫人アイヴィーが歩み寄り、極めて事務的な動作で彼の首筋に注射器を突き立てた。
化学物質が彼の静脈へと流れ込み、ほんの一秒のうちに……彼のあらゆる痛みが完全に消失した。
それは痛覚のみを遮断し、思考を極限の覚醒状態に留め置くために特別に調合された、完璧なる尋問用の麻酔であった。
皇帝は再び尋問を開始した。暗闇に沈む将軍の意識に、その声が直接響き渡る。
「最初の問いだ、マディ……隠された惑星シールド発生器のアクセスコードはどこにある?」
将軍は沈黙を貫いた。
「第二の問い……深宇宙における貴様らの艦隊集結地点の座標はどこだ?」
将軍はなおも完全なる拒絶を示し、怒りに身を任せて歯を食いしばる。
「ならば第三の問いだ……王はどこに隠れている?そして、要塞化された緊急避難室の暗証番号は?」
マディ・ロールは、残された軍人としての誇りの欠片に必死にしがみつき、声なき咆哮を上げた。決してオリオンを裏切るものか。
その時だった。皇帝が四つ目の問いを投げかけたのは。
それは、将軍の中に残されていた最後の精神的防壁を木っ端微塵に打ち砕く、悪魔の問い。
「そして……『オリア』の様子はどうだ?近々、彼女を嫁がせる計画があると聞いたがな」
マディ・ロールの巨体がビクンと跳ねた。盲目となり麻痺した肉体でありながら、絶対的な恐怖と激しい動揺が彼を支配する。
オリア……彼の愛娘。オリオン星の誇り高き王女の一人。
なぜ、この悪魔が彼女の名を知っているというのだ!?
皇帝は彼の答えなど待っていなかった。
たった今投げかけた全ての問いに対して、自らの口で答え始めたのだ。
オリオンの政府構造、王の正確な潜伏場所。さらに、彼らの通貨単位や国民が好む伝統料理に至るまで……そして、将軍の私生活の極めて個人的な細部に至るまでを、淀みなく語り尽くした。
その恐るべき情報収集の秘密は、惑星への奇襲攻撃が開始された「最初の十分間」に隠されていた。
自爆ドローンがオリオンの防衛シールドに激突した際、爆発の飛沫と共に、何十億ものナノチップが散布されていたのである。
そのサイズはわずか一ナノメートル――ウイルスの三分の一という極小サイズ。それは沈黙の疫病の如く大気中へと広がり、この星で呼吸をする全ての生命体の肺へと吸い込まれた。
ナノチップは直接脳神経と記憶中枢へと侵入し、アイヴィーのデータベースに向けて全データの送信を開始したのである。
そこで待つ人工知能(AI)システムが、どんな些細な情報であろうとも全て解析・分類し、整理されたデータとして抽出した。
旧式の偵察機を模したたった一度の攻撃で、オリオン星の全機密から将軍の心の奥底に秘めた願望に至るまで、全てが皇帝の手中に収まっていたのだ。
皇帝は玉座から降り立ち、将軍の耳元で冷酷に囁いた。
「もし貴様自身で素直に情報を吐いていれば、貴様の民と交渉し、無条件降伏の道を用意してやったものを。だが……貴様が拒絶した以上、我々の『本命の計画』へと移行することにしよう」
ヴェロニカが一歩前に出て、完璧な礼節と共に告げた。
「陛下。艦の準備が整いました」
一団のロボット兵が現れ、将軍を特殊手術室へと引きずり込んでいく。
そこで彼に施されたのは、下半身を上半身から切断するという、身の毛もよだつような手術であった。生かしたまま、極限の屈辱を与えるための処置。
そして、残された彼の無残な肉体は、皇帝の座乗艦の最上部へと「磔」にされた。オリオンの民に絶対的な恐怖を植え付ける、血塗られた象徴として。
皇帝の艦が発進し、開かれた時空の亀裂を通り抜ける。わずか数分のうちに、彼らはオリオン星の大気圏へと到達した。
空の地獄が口を開けた。
何百万もの漆黒の巨大ドローンが降り注ぐ。最新鋭のステルス爆撃機(B2)でさえ、『太陽軌道帝国』の自爆ドローン群を前にしては、ただの子供の玩具に等しかった。
圧倒的な侵略。ものの数分で、惑星の全軍事兵器が陥落した。
だが、オリオンは黙って降伏したわけではなかった。
空を切り裂くように、一際輝く戦闘機部隊が現れる。航空精鋭部隊『オリオンの若武者たち』。
部隊を率いるのは、怒りに燃える若き青年……王女『オリア』の婚約者であった。
皇帝が一つ命じる。
巨大なミサイルが空を裂き、『オリオンの若武者たち』の陣形の中核へと直撃した。
凄まじい爆発が轟き、広大な範囲を揺るがす無慈悲な衝撃波が響き渡る。
戦闘機部隊は瞬時に消滅。オリアの婚約者も彼の部隊も跡形もなく蒸発し、絶滅の風に吹かれた細切れの肉片となって、彼らの愛した都市へと降り注いだ。
太陽軌道帝国軍は、極めて正確な情報を握っていた。
都市を丸ごと消し去る大量破壊兵器から、特定の個人を暗殺するための精密兵器、さらには小さな水たまりだけを破壊するような兵器まで。標的が何であれ、それを確実に滅ぼすための専用兵器が用意されていたのだ。
そして、一時間も経たぬうちに……。
九人の人間とロボット軍団の手によって、一つの星が完全に陥落した。
何千年、何百万年と築き上げられてきた巨大な文明が、一時間足らずで灰燼に帰したのだ。
破壊の規模は想像を絶するものだった。一人の人間の手が直接下されることなく、何百万もの命が散っていった。
絶対的な廃墟の中心。灰と血の雨が降り注ぐ空の下、帝国の艦が中央広場へと着陸した。
重厚な鋼鉄の扉が開き、皇帝が姿を現す。
彼は漆黒のサングラスをかけ、そのレンズには燃え盛る惑星の炎が反射していた。長いコートを羽織り、オリオンの帝国宮殿へと向けた象徴的な行進を始める。
その全身からは、周囲を圧倒するような絶対的なオーラと威厳が放たれていた。
彼は一人で歩いているわけではない。
彼の背後と両脇には、極めて傲慢なまでの対称性をもって、八人の妻たちが従っている。
彼のすぐ右側にヴェロニカ、左側にアイヴィー。
その後ろ一歩下がり、右にロキシー、左にレイラ。
さらに続いて、右にカオリ、左にカミール。
そして最後尾の端、右にイザベラ、左にセリーヌ。
九人という存在が放つ、絶対的な威厳に満ちた行進。
その結果は一つ――。
オリオン星は、『太陽軌道帝国』によって完全なる占領を果たされたのである。




