俺は皇帝、我らはザイロス
【あらすじ】皇帝対アリストテレス、最終決戦第二幕!
第三十三話:
破滅的な大爆発の煙がゆっくりと晴れ、皇帝とアリストテレスの激突の結末が幕を開ける。
ザイロス星の有毒な風が灰を吹き飛ばし、残酷な真実を暴き出した。
巨大なクレーターの中心に立つは、『第一の教師』。
その純白の軍外套には塵一つ付着しておらず、磁器の顔は冷酷な光沢を放っている。彼は一ミリたりとも動いていなかった。
対するは——。
ガシャァァァンッ!
皇帝の肉体は信じ難い暴力で吹き飛ばされ、硬質な屑鉄の山を貫通して深々と突き刺さっていた。
王族の鮮血が頭部と口元から夥しく流れ落ちている。
「『必然性のエコー』」
アリストテレスが冷徹に腕を上げる。
疲弊した皇帝の肉体はその場に凍りつき、見えざる鎖に縛り付けられたかのように一切の身動きを封じられた。
ズバァァァンッ! ズバァァァンッ!
虚無から形成された銀の斬撃エネルギーが、皇帝の肉体と肩を無慈悲に切り刻み、深く貫通する傷痕を刻み込んでいく。
皇帝は片膝を突き、頭を垂れた。
太陽軌道帝国の威光そのものに、絶望の影が落ちたかのように見えた。
アリストテレスが静かな足取りで進み出て、地に這う皇帝を底知れぬ侮蔑の眼差しで見下ろす。
「未だ、理解できぬか」
アリストテレスが深く、静謐なる声で紡ぐ。
「いかに強大な力を誇ろうと、いかに傲慢さを膨張させようと……所詮、貴様は生物学的な細胞の塊に過ぎない。腐敗し、消滅する運命を背負った有機物だ。『第一の教師』を前にして、貴様の目的因は既に決定している……宇宙の万物が消えゆくように、貴様の死もまた『必然』なのだ」
アリストテレスが腕を掲げると、純粋なる銀のエネルギーで構成された長剣が形成された。
そして、皇帝の首を刎ね落とさんとし、その刃を真っ直ぐに突きつける。
だが、刃が振り下ろされるその直前……時間が静止した。
空間が、震えた。
フフフ……ハッ……ハハハハハハハハハッ!!
低く、押し殺したような哄笑が、皇帝の喉の奥から漏れ出したのだ。
その笑い声は、ザイロス星の金属の地殻全体を激しく揺さぶる!
ズドォォォォォンッ!
頭上の汚染された空が真っ二つに裂ける。
皇帝の動きを封じていた論理の呪縛が、瞬く間に霧散して消え去った。
アリストテレスが斬首すべく光の剣を振り下ろす……だが!
皇帝は血に塗れた素手を高く掲げ、その純白の刃を直接鷲掴みにしたのだ!
「な……何だと!?」
アリストテレスが見開いた眼に驚愕を浮かべる。
ガシャァァァンッ!
皇帝が素手で握り潰すと、光の剣は粉々に砕け散り、光の破片と化す。
その瞬間、純粋たる『服従のアクシオム』のオーラが爆発した!
黄金と漆黒のエネルギーの竜巻がすべてを飲み込み、惑星の重力を完全なる混沌へと陥れる。
皇帝が顔を上げる。
鮮血に塗れたその顔には、底知れぬサディスティックで、身の毛のよだつほどおぞましい笑みが張り付いていた。
「論理だと? 必然性? 目的因だと?」
絶対的な傲慢さを滴らせた声で、皇帝が囁く。
「そのような戯言が通用するのは弱者だけだ。薄っぺらい概念の陰に隠れ潜む臆病者だけだ。俺は皇帝……この宇宙の理を書き綴るのは、ただ俺一人だァッ!」
ドゴォォォォォンッ!
戦局が百八十度反転する。
皇帝は一切の複雑なエネルギー攻撃を放棄した。
ただ純粋なる暴力、野蛮な『肉弾戦』によってアリストテレスを蹂躙せんと定めたのだ!
機械のセンサーすら捉えきれぬ絶速!
皇帝がその場から掻き消え、アリストテレスの眼前に直接現れる。
哲学者が『四原因のエコー』を起動するより早く、皇帝の剛腕がその磁器の顔面へ深々と食い込んだ。
「テメェの理屈で窒息しろォッ!」
皇帝はアリストテレスを鷲掴みにしたまま、数十の金属の塔を薙ぎ倒しながら野蛮に引きずり回す。
ガシャァァァンッ! ズガァァァンッ! ドゴォォォォンッ!
屑鉄の山々が、二人の凄まじい衝突によって次々と粉砕されていく。
アリストテレスはパニックに陥りながらも自身の能力を起動しようと試みる。防御のための幾百もの光芒が彼の周囲に展開されるが、皇帝はそのすべてを……たった一撃の拳で粉砕する!
バァァァンッ!
凶悪な拳がアリストテレスの純白の外套をズタズタに引き裂く。
続く一撃が優雅な磁器の顔面を粉々に打ち砕き、内部の歯車と千切れた配線をむき出しにする。
汚らわしい血のごとく、漆黒のオイルが宙に飛び散った。
偉大なる第一の哲学者アリストテレスは、今やボロボロの屑鉄の玩具のように宙を舞っていた。
己が計算したあらゆる限界を破壊する生物学的な怪物を前に、彼は生れて初めて恐怖し、完全に無力化されていた。
皇帝は空中で静止し、手についた黒いオイルを払い落とす。
眼下では、アリストテレスが屑鉄の頂で両膝を突いていた。
その肉体は完全に崩壊していた。
左腕は肩から引き千切られ、顔面の右半分は陥没し、残された右目は死を告げるように真っ赤な火花を散らしている。
皇帝はさらなる高みへ昇り、アリストテレスを底知れぬ見下した目で見下ろす。
右手を高く掲げ、『服従のアクシオム』のエネルギーを極限の密度へと圧縮し始めた。
ギュイィィィィンッ!
掌の上に、破滅的な質量の球体が形成される……黄金の光の帯が蠢く、漆黒の太陽。
重力が圧壊し、光さえもがその周囲から失われる。それは、惑星の半分を次元ごと消し飛ばすに足る絶対的な破壊の塊であった。
「己を第一動者と嘯いたな……」
皇帝が天地を揺るがす声で吠える。
「だが、余の目には、再利用を待つただの屑鉄にしか見えぬわ。消え失せろォッ!」
皇帝が漆黒の太陽をアリストテレスへと振り下ろす。
地平を喰らい尽くす悪夢のごとき破壊球が、射線上のすべてを圧し潰しながら落下していく。
だが……。
皇帝の太陽がそのズタズタの肉体を呑み込む、最後の一秒のその刹那。
アリストテレスが顔を上げた。
崩壊した哲学者の顔に、威厳の欠片もない、狂気に歪んだ笑みが浮かび上がる。
(個としての論理が敗北したというのなら……最後の手段に打って出るまでだ!)
「全体は……部分の総和に勝るのだァッ!」
アリストテレスが絶叫し、残された片腕を惑星の大地へと力の限り叩きつける!
ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!
ザイロス星の中心核から、大陸規模の超巨大な機械の根が幾本も噴出する!
金属の地殻をぶち破り、皇帝の放った太陽の重力すらも跳ね除けてうねり狂う。
そしてその瞬間……惑星の至る所で、六つの極点がまばゆく発光した。
それは、死した六人の哲学者たちが倒れた場所!
彼らのエネルギー、オーラ、そして引き裂かれた亡骸——プラトン、ソクラテス、ピタゴラス、ヘラクレイトス、ディオゲネス、ゼノン——が彗星のごとく舞い上がり、光の速さで天空を切り裂いて、アリストテレスの破壊された胸の奥深くへと暴力的に融合していく!
ギュラァァァァァァァンッ!
この桁外れなエネルギーの波動を前に、皇帝の漆黒の太陽すらもが蒸発して消え去る。
惑星そのものが断裂を始めていた。金属のプレートがへし折れ、重力場が完全に逆転する。
アリストテレスは六人の哲学者と完全なる統合を果たし、ザイロス星すべての機械中枢へと沈み込んでいった。
その肉体はもはやヒトの規格ではない。
惑星の地殻そのものと同化し、無限の拡張を始める。
惑星全体が、生きた小惑星規模の機械生命体へと変貌を遂げたのだ!
巨大な金属の大地が裂け、大陸級の質量を持つ機械の『単眼』が出現する。
狂気に満ちた赤い光を放つその眼球が、開かれた宇宙空間で生れて初めて驚愕に目を見開く皇帝を真っ直ぐに睨みつけた。
そして……声が響いた。
それはアリストテレス一人の声ではない。七人の哲学者の声層が重なり合った、銀河の構造そのものを震わせる、おぞましき七重奏の声。
——「今や……我らこそが惑星……我らこそが、ザイロスなり」
【作者からの問いかけ】
何たる超絶展開!皆様は、物語がここへ至ると予想されていましたか? それとも全くの想定外でしたでしょうか? ぜひご感想をお聞かせください!




