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忍び寄る戦争

【本章のあらすじ】

この章は二つのパートに分かれています。前半では、オリオンの新たなる王とその愛娘の王室としての姿、そして『服従のアクシオム』の効力を事実上超えるほどに増幅していくオリアの皇帝への狂信的な愛と、それに対するイザベラのスポットライト(脚光)への異常な執着が描かれます。そして後半では、開戦に向けた最終準備の総仕上げに焦点が当てられます。

オリオン星の王宮に位置する『大鏡の広間』。

古代の時代、オリオンの王たちの威光を反射し、増幅するために設計された由緒正しき空間である。

だが今や、そこは神経を逆撫でするほど真っ白な「撮影スタジオ」へと変貌を遂げていた。

残酷なまでに眩い照明が、あらゆる欠点や毛穴の隅々までを容赦なく暴き出している。


その重苦しい沈黙を、フラストレーションに満ちた叫び声が引き裂いた。


「ダメ、ダメ、ダーメッ! このシンメトリー(対称性)、どう見ても大惨事じゃないの!」


カツッ! カツッ! カツッ!


第七夫人『イザベラ』は、大理石の床を忙しなく行ったり来たりしながら、大げさなほど演劇的な絶望の仕草でこめかみを揉みほぐしていた。

星のように煌めく彼女の瞳は、広間のあらゆる角度、光の反射、そして色彩のコントラストの度合いを、病的パスロジカルなまでの執着で監視している。

帝国の宣伝相であり、『視覚的自我ビジュアルアイデンティティ』を司る彼女にとって――戦争とは、カメラのレンズ越しにすでに始まっているのだ。


彼女は、オリオンのお飾り(傀儡)の王である『マディ・ロール』の前に立ち止まると、純粋な「美学的軽蔑」の眼差しで彼を睨みつけた。


「マディ! アンタのその王のローブ、吐き気がするくらい色褪せてるじゃないの!」


バサッ!


イザベラは金糸で刺繍された布地の端を乱暴に引っ張りながら、ヒステリックに叫んだ。


「光を反射するどころか、吸収しちゃってるわ! 顎をもっと後ろに引きなさい! アンタは銀河全体に対して、我らが皇帝陛下の偉大さを体現する存在なのよ。惨めな郵便配達員なんかじゃなく、ちゃんと『王』らしく見えなきゃ困るの!」


マディ・ロールは、完全なる平穏とともに微笑みを浮かべていた。

自由意志を完全に喪失したその死んだ瞳の奥には、純粋な『服従』だけが宿っている。

彼は両手で戦争の報告書の束をきつく握り締めながらも、軍人としての厳格な直立不動の姿勢を完璧に維持していた。


「イザベラ皇妃殿下……」


マディは、皮肉など一切含まない、極めて真面目な声で語りかけた。


「私のローブの光沢が、我が君の放つ純粋なる『理 (アクシオム)』の絶対的な力から、敵の注意を逸らすことができると……本気でお考えなのですか?」


イザベラは、彼が言葉を発したことすら認識していないかのように、その質問を完全に無視した。

そして、苛立たしげに『オリア』へと振り向く。


オリアは、息を呑むような威厳を纏って静かに佇んでいた。

燃え盛る火災から奇跡的に無傷で残った希少な陶磁器の彫像のように、その穏やかな女性らしさが、何の努力もなしに自然と輝きを放っている。

イザベラは彼女に近づくと、画面越しに息を呑むような視覚的コントラストを生み出すため、深紅の『スカーフ』を彼女の華奢な首元に巻き付けようと奮闘し始めた。


「ここには、もう少し生命力バイタリティのアクセントが必要だわ。陰気臭い映像なんて、狂信者ファンたちにはウケないんだから」


イザベラは、病的なまでの集中力でぶつぶつと呟いた。


スッ……。


だが、オリアは極めて繊細で優雅な手つきで、そのスカーフを首元からそっと退けた。

食卓のテーブルを静かに整える完璧な妻のように、雲一つない澄み切った微笑みを浮かべ、天使のように柔らかい声で紡ぐ。


「イザベラ……スカーフは外してちょうだい。赤色を足すのでしたら、侵略者たちの前衛の血が、私たちのドレスに降り注ぐのを待った方が、より自然で温かみが出ると思いませんこと?」


(……!)


「本物の血の染みの方が、人工の布地よりも遥かに美しいコントラストを生み出しますわ。きっと、旦那様もそのような私をお気に召してくださるはず……違います? もちろん、イザベラたちと競い合うつもりなど毛頭ございませんけれど。すべては旦那様をお喜ばせするため、そしてこの大いなる使命のために」


ピタッ……。


イザベラは一瞬だけ完全に凍りつき、オリアのその狂った論理と、自分に向かって平然とそれを口にする度胸の前に、ただ呆然と瞬きを繰り返した。

その傍らでは、マディ・ロールが相変わらずの間抜けな笑みを浮かべたまま、虚空をぼんやりと見つめ続けている。


イザベラの『撮影ビジュアル』に対する病的な執着と、オリアの皇帝に対する『絶対的な愛(狂気)』という完全なるコントラストが、現在の王宮の異常な状態を見事に要約していた。

中央作戦室。

そこは、完全な暗闇に包まれていた。唯一の光源は、火山岩をくり抜いて作られた冷たい空間の中央に浮かぶ、星々の巨大なホログラム星系図だけである。


分厚い鋼鉄の扉が、音もなく開いた。

皇帝が、部屋の中へと足を踏み入れる。


千分の一秒の間に、虚無から現れた妻たちが一斉に片膝をつき、深く頭を垂れた。それに続くようにマディ・ロールとオリアも平伏し、その額は冷たい床に触れんばかりだった。


円形の作戦会議テーブルを囲んで、全員が配置につく。

皇帝、八人の妻、マディ、そしてオリア。——オリオン星の最高会議である。


空間は濃密な殺意で飽和しており、各々が独自の手段でそれを漂わせていた。

カオリは背筋を真っ直ぐに伸ばして座り、限界まで目を見開き、その手をしっかりと愛刀の柄に添えている。


「ここ数ヶ月というもの、拙者は深い瞑想に耽っておりました」彼女は、乾いた、厳格な武士の口調で告げた。「拙者の直感は極限まで研ぎ澄まされ、今や周囲のすべてを、かつてないほどに知覚することが可能でござる」


その隣で、ロキシーが野蛮な笑みを浮かべて牙を剥き出しにしながら、指の関節をボキボキと鳴らしていた。


「好きなだけ瞑想してな、カオリ」ロキシーは血に飢えた熱狂とともに唸った。「アタシはただ、あのクソ野郎どもの頭蓋骨を、この素手で叩き割ることしか考えてないんだよ。『理 (アクシオム)』なんか一滴も使いたくないね。アタシの拳の下で、奴らの肋骨が粉々に砕け散る感触をたっぷり味わいたいんだ」


ヴェロニカは二人を完全に無視し、青いホログラムのパネルをテーブルの中央へと押し出した。


「新しい軍の構造は、完全に準備が整いました」彼女はまるで大企業を経営するかのような、極めて事務的な口調で報告した。「オリオンの各部隊と歩兵大隊は、骨密度と帝国への忠誠度に基づいて正確に分割・再編されています。すべてのスケジュールを再確認しましたが、誤差の余地は一切ありません」


レイラは、静かに沸騰する磁器のティーカップから一口啜り、毒々しいほどに甘い微笑みを浮かべた。


「私のささやかな諜報データから、一つだけ——残念なほどに滑稽な事実が判明しておりますわ」レイラは、偽りの優しさで囁く。「ザイロスどもは、所詮はただの『屑鉄の民』。戦闘における気品も、美意識の欠片も持ち合わせていない、粗野な生き物たちのようですの」


イザベラが過剰なまでの熱意で手を挙げ、山のように高くそびえる発光するグラフを画面に映し出した。


「『ドグマ』の収集率は、もう限界ギリギリの最高値まで引き上げといたよ! 今や何百万人もの信者ファンたちが、狂信的な熱狂とともに旦那様の名前を叫んでるの。アタシのエネルギーも最高潮フル・パワーだよ!」


テーブルの隅では、カミールが虚ろな目で宙に架空の円を描き続けており、セリーヌは椅子に頭を預けて半ば眠りに落ちている。二人は沈黙したまま、自身のエネルギーを静かに充填していた。


アイヴィーが立ち上がった。その瞳には、一切の感情が欠落している。

彼女が中央のコンソール・パネルをタップすると。

突如として星系図が消滅し、巨大な立体映像が、おぞましい青い光で暗い部屋を照らし出した。


『皇帝の眼 (エンペラーズ・アイ)』。


その巨大な『アノマリー』の衛星兵器は、オリオン星の空全体を覆い尽くさんばかりの威容を誇っていた。奪い尽くされたオリオン星の核から抽出されたアノマリーのエネルギーが、その巨大な金属の獣の中で脈打っている。


「『宇宙破壊砲 (マハク・アルアクワン)』を数百倍も凌駕する、存在消去のレーザー兵器だ」


血液を凍らせるほどの絶対的な冷酷さで、皇帝が口を開いた。その声は、空気中の分子そのものに恐怖を強制する。

「オリオンの膨大な資源を搾取して建造した。この兵器は、たった一撃で天体そのものを完全に破壊し尽くすという、規格外の力を持っている」


マディ・ロールが一歩前に進み出ると、深い敬意とともに一礼した。


「オリオンの最終準備完了報告でございます、我が君」彼はひび割れたような、狂気じみた笑顔で言った。「オリオンの全人民は、すでに広場に整列して空を見上げる準備ができております……陛下の一瞥のために命を捧げる、その歓喜の瞬間のために」


死の匂いが充満するその瞬間。

オリアが、極めて優雅な足取りでその緊張を打ち破った。


彼女は、何日もかけて練習し続けてきたという、完璧に装飾された伝統的な地球のケーキを乗せた銀のトレイをテーブルに置いた。温かいバニラの香りが部屋に漂う。


全員がそれぞれの皿を受け取る。

その一口がもたらした、味覚を爆発させるような繊細で完璧な味わいに、妻たちは無言の驚愕に支配された。

だが、最も重要なのは皇帝の反応だった。

彼は一口だけ切り取り、静かに咀嚼する。その沈黙こそが、オリアにとって宇宙で最も偉大な名誉の勲章であった。皇帝の顔には、彼女の作ったケーキに対する明らかな満足の色が浮かんでいたのだ。


しかし、その静寂は長くは続かなかった。


微かな振動。そして、オリオンの王宮の基礎そのものを揺るがす、強力で絶え間ない地震の波。

クリスタルのシャンデリアが大きく揺れ、ヴェロニカの手の中でフォークが止まった。


アイヴィーの瞳孔が限界まで見開かれた。彼女のモニターが一斉に警告の赤色に点滅し、無秩序な数字の奔流が滝のように流れ始める。


「データに、極めて巨大な偏差が発生しています!」アイヴィーは、いつもの冷静さを一瞬だけ失った叫び声を上げた。「大気圏内の周波数帯が、完全に引き裂かれています!」


全員の視線が、メインスクリーンへと向けられた。

そこに映し出されていたのは、銀河の覇者やエリート戦士にふさわしい、洗練された宇宙船などではなかった。


それは、巨大で、醜悪で、グロテスクな質量だった。

錆びついた鋼鉄の塊、破壊された惑星の残骸、そして無数の屑鉄が無秩序に融合した塊が、まるで燃え盛る隕石のように、オリオンの大気圏を突き破りながら炎を上げて落下してくるのだ。


皇帝はスクリーンを見つめた。

その瞳に怒りはなく、ただ、ある種の無関心と混ざり合った退屈の色だけが浮かんでいる。


彼は、銀のフォークを静かに横に置いた。


「棺桶どもが、到着したようだな」

彼は、死刑宣告を下すかのような絶対的な声で告げた。

「ようやく、我々の戦争の始まりだ」


外の世界。オリオンの空の下。

巨大な金属の飛来物の一つが、首都の公共公園へと猛烈な勢いで激突した。


耳をつんざくような、不快で強烈な金属の軋み音とともに、錆びついた宇宙船の扉が引き剥がされる。


立ち込める濃密な煙と燃え盛る炎の中から——。

完全なる屑鉄と鋼鉄だけで構成された、巨大な戦士が姿を現した。

深く窪んだ機械の瞳を、致命的な真紅の光で明滅させながら、その怪物が惑星の大地に重々しい第一歩を踏み出した時……ついに、戦争の幕が開かれたのである。





【読者の皆様へ:今話のクエスチョン】

第十二章へようこそ。次章から、ついに本格的な戦争が始まります。

質問:オリアは「ストックホルム症候群」に陥っているのだと思いますか? それとも、精神的な障害など一切ない、極めて純粋な心で皇帝を愛しているのだと思いますか? ぜひコメント欄で皆さんの考察セオリーをシェアしてください!

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