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勇者様、装備のローンが残っていますが? 〜踏み倒そうとしたので、国中の店で取引停止にしました。素っ裸で魔王と戦ってください〜  作者: けーぷ
第1巻_第三章:経済封鎖と仁義なき外交戦

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第25話

「……茶番は終わったか?」


重厚な声が、公会堂の空気を震わせた。


皇帝は圧倒的な威厳を纏ったまま、演壇の中央へと歩を進める。その道すがら、彼は議長席から降りてきたシグルド皇子と視線を交わした。


「遅かったですね、父上。もう少しで私が裁定を下してしまうところでしたよ」

「フン。機が熟すのを待っていたのだ。……それに、お前の書いた筋書き通りに進んだようではないか」


親子にしか聞こえない微かな声での会話。だがその短いやり取りだけで、すぐ近くにいたワイズは悟った。


この状況は偶然ではない。シグルド皇子が議長として場を整え、時間を稼ぎ、そして決定的な瞬間に皇帝という最強のカードを切る。


全ては、この親子が仕組んだ出来レースだったのだと。


皇帝は演壇の中央に立つと、鋭い眼光で会場を見渡した。その視線がベルンシュタイン公爵と枢機卿を射抜く。二人は蛇に睨まれた蛙のように縮み上がった。


「さて、公爵よ。そして枢機卿よ」

「は、ははっ……!」

「貴様らの言い分は聞き飽きた。『義務』だの『信仰』だの、美辞麗句を並べ立ててはいるが、要するに『金がないので助けろ』と、そう言いたいわけだな?」


皇帝の身も蓋もない要約に、公爵が顔を真っ赤にして反論しようとする。だが皇帝はそれを手で制し、切り捨てた。


「醜い。あまりに醜悪だ」

「へ、陛下……?」

「他者に寄生し、甘い汁を啜り、それが叶わぬと知れば喚き散らす。……貴様らのその腐った性根が、この大陸を停滞させている元凶だ」


皇帝は深く息を吸い込むと、腹の底から響く声で宣言した。


それは、時代の終わりを告げる号砲。


「くだらん。余は、こんな茶番に付き合うつもりはない」


皇帝は言い放つ。


「我が帝国は本日をもって、人類同盟を離脱する」


静まり返る公会堂。


一瞬、世界から音が消えたかのようだった。誰もが耳を疑った。同盟の盟主であり、最大の軍事力を誇る帝国の離脱。


それはすなわち、人類同盟という組織そのものの解体宣告に他ならない。


「な……な、なんですとぉぉぉぉッ!?」


沈黙を破ったのは、ベルンシュタイン公爵の素っ頓狂な絶叫だった。彼は泡を飛ばしながら、演壇へと詰め寄ろうとする。


「しょ、正気ですか!? 帝国が抜けたら、人類同盟はどうなるのですか! 我が国の防衛は!! 魔王軍への対処はどうするのです!?」

「勘違いするな。余は『同盟』を抜けると言っただけで、魔王軍を放置するとは言っておらん」


皇帝は冷ややかな瞳で公爵を見下ろした。


「そもそも我が国がこれまで、貴様らのような無能な国々と足並みを揃えていたのは、北方に蛮族という憂いがあったからに過ぎん。魔王軍との二正面作戦を避けるため、貴様らを防波堤として利用していただけだ」

「なっ……!?」

「だが、その憂いも消えた」


皇帝の視線が、一瞬だけシグルド皇子へと向けられる。


皇子の手腕によって、北方の部族とは不可侵条約が結ばれた。背後の安全が確保された今、帝国が周辺国の面倒を見る理由は消滅したのだ。


「以降、帝国は独自の判断で魔王軍に対処し、独自の基準で友邦を選ぶ。……足手まといを守るために流す血など、我が軍には一滴たりともない」

「そ、そんな無茶な! これは人類の連帯に対する裏切りですぞ!!」


公爵の隣で、聖教国の枢機卿も震える声で皇帝を糾弾した。


「そうですぞ皇帝! 神聖なる盟約を一方的に破棄するなど……神への冒涜! 必ずや神罰が下るでしょう!」


宗教的権威を笠に着た、最大級の脅し。だが皇帝は背を向けかけた足を止め、億劫そうに振り返っただけだった。


その瞳には、侮蔑の色すら浮かんでいない。ただ道端の石ころを見るような、無関心があるだけ。


「神?」


皇帝は鼻を鳴らし、一蹴した。


「ならば、その神に守ってもらえ」

「なっ……!?」

「余は忙しいのだ。神頼みの暇人たちの相手をしている時間は無い」


それだけ言い捨てると、皇帝は公会堂から退場しようとする。だが数歩進んだところで足を止めた。その視線の先にいたのは、ワイズ・コールマン。


「……久しいな」


皇帝の威圧的な視線を前にしても、ワイズは動じることなく、優雅に一礼して見せた。


「お久しぶりです、皇帝陛下。この度はお騒がせして申し訳ありません」

「構わん。貴様が動かずとも、いずれはこうなっていた」


皇帝は口元をわずかに歪め、獰猛な笑みを浮かべた。


「ワイズ・コールマン。近いうちに帝都へ来い。……美味い酒を用意して待っている」

「光栄です。極上の手土産を持参いたしましょう」


皇帝は満足げに頷くと、再び前を向き歩き出した。 近衛兵たちがその後ろに続く。


「出発だ。これより西へ向かい、共和国大統領と会談を行う」

「はっ!」

「……新しい時代の秩序について、話し合わねばならんからな」


その言葉を聞いた瞬間、会場の空気が変わった。西、すなわち共和国。帝国はすでに次のパートナーを決めている。


「……行きましょうか」


沈黙を破り、共和国の代表議員が立ち上がった。彼は軽蔑の視線を公爵たちに向けた後、迷うことなく帝国側――皇帝たちが去っていった扉の方へと歩き出す。


だがその途中、議員もまた皇帝と同じように足を止め、ワイズに声をかけた。


「コールマン会長」

「閣下。今回は助かりました」

「いえいえ、この程度は些事ですよ。ところで話は変わりますが、後ほど少し時間をいただけますかな?」

「喜んで。私も閣下とちょうどお話をしたいと思っていましたので」


ワイズが微笑むと、議員は満足げに頷き、そして公爵たちに聞こえるように高らかに宣言した。


「共和国も、同盟への資金拠出を即時停止します。……死にゆく組織に投資する余裕はありませんので」

「ま、待ってくれ! 共和国まで!」

「我々もだ! 連邦は帝国の新方針を支持する!」

「わ、我が国もだ!」


そこから先は雪崩のように続いた。小国の代表たちが我先にと席を立ち、蜘蛛の子を散らすように帝国側へと流れていく。


そこにはもはや、同盟としての体を成すものは何もない。


広い公会堂には、最後まで取り残された公爵と枢機卿、そして彼らの取り巻きたちの呆然とした姿だけがあった。


「嘘だ……こんな、こんなことが……」


へたり込む公爵。その光景を、ワイズは静かに眺めていた。


「残念です、公爵閣下。そして枢機卿猊下。……それでは私もこれで失礼します」


ワイズは優雅に一礼すると、崩れ落ちる旧時代の権力者たちに背を向け悠然と歩き出した。!

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