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〜神堕騎士道浪漫譚〜『竜血のカミーユ』  作者: 林美鈴
第三章:其は神話の激動。「貪欲」と「慈悲」の母を殺し、「真なる神」すら粉砕する、愛と神堕ちの最終詩
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神の居る地獄の詩

【さあさあ皆様、しばし足を止めてお聞きくだされ、今宵お話しするのは。貪欲の女王の物語にございます】


 ――――――――――――――――――――


 カミーユは跳んだ。そこは地獄の奥底、最下層である。


 下方には無数の古竜と、それに奉仕される山程の大きさの巨大な美貌の女性が横たわる。

 彼女は真紅の髪と同じく真紅の瞳をしており、真っ赤な唇で、侍る古竜たちを苺を頬張るかのように食していた。


 貪欲の女王である。


 カミーユは、彼女の考えがわかる。竜語は音声を介さない。その思いがそのまま伝わる。


 貪欲の女王はカミーユに気がついた。そして、その食欲をカミーユに向ける。


 カミーユはその食欲に自らも応えそうになるが。なんとか抑え込む。


 カミーユはとなりに跳んできていた姉上、シド・クオンに告げる。


「私一人で戦います。姉上は。力を残しておいてください」


 異な言であった。神を前に、力を残せとカミーユは言った。



 カミーユはミスリルの弓を構える。既にカミーユの危険予知は限界を迎えており、加速の魔法はすぐさま発動した。


 カミーユは矢を放つ。一ではなく十、十ではなく百、百ではなく千、千ではなく万、万ではなく億。億ではなく兆。


 瞬きする間に地獄の空はカミーユの放つ矢で覆われた。それら一つ一つが神の放つ雷よりも疾く、強く、激しく突き刺さった。


 地獄の大地は衝撃波と、それが発する熱で沸騰した。


 貪欲の女王は、身体に無限の穴を開けながらも、その体を保ち、カミーユに手を伸ばす。


 そして、カミーユの身体に不可視の圧力が加わる。貪欲の女王は、神の意志により、カミーユの存在を握り、潰そうというのだ。


 カミーユは全身に魔力を漲らせる。カミーユの中の血の渇望が増大する。それはかつてない力をカミーユに与える。


 カミーユの全身の筋肉が隆起し、圧力に耐える。


 カミーユは、星に匹敵する神の圧力を、その両腕で支えた。


 それは巨神の如き怪力。


 カミーユは神域の怪力で、掴めぬはずの不可視の指を掴み取ると、そのまま貪欲の女王を投げ飛ばす。投げ飛ばされた貪欲の女王は、激しい衝撃で全身の骨が折れ、その音が地獄に響き渡る。


 しかし、貪欲の女王はすぐさま身体を再生し、空のカミーユに向き直る。


 その時、カミーユは空にいなかった。貪欲の女王の胸元に転移し、その胸を掌で激しく突いた。

 その衝撃で山よりも大きな乳房の肉が弾け跳び、骨格があらわになった。


 カミーユは安堵とともに血に飢える。構造が同じであれば、同じだ。


 カミーユは再び転移し、筋肉を、再び転移し肋骨を、肺腑を、掌で吹き飛ばしてゆく。その一撃一撃が、地獄を、そして別空間であるはずの人間界ですら、地震で揺らす。


 カミーユは露わになった心臓に向け、魔剣星影を抜く。


 そして、竜の言葉で念じる。

 ただ、長くあれと。


 山よりも巨大な心臓を、カミーユは魔剣星影を用いて細切れにしていく。

 心臓は、その一つ一つが砂糖粒のように小さくなるまで刻まれた。


 貪欲の女王は地獄の大地に倒れ伏した。


 シド・クオンは両腕を組んだままそのさまを眺める。


「貪欲の女王、邪竜神の神堕とし、新たな神の戴冠を行っても良い偉業。だが、そうも行かぬのが因果というものよな」


 シド・クオンは天を見上げる。空は輝き、地獄の大地は浄化され、植物が生え、小鳥すら平和にさえずる。


 空には金の竜神、慈愛の女神と、人の神、全てのものの神が顕現していた


「我が母、慈愛の女神に、全てのものの神よ。我らはそう簡単には滅びぬぞ」


 シド・クオンは天につばを吐く。神堕としは始まったばかりなのだ。


 ――――――――――――――――――――


【今宵の調べはここまで。顕現する二柱の神。また明晩、リュートの弦が弾ける時まで取っておくことにいたしましょう】

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