神の居る地獄の詩
【さあさあ皆様、しばし足を止めてお聞きくだされ、今宵お話しするのは。貪欲の女王の物語にございます】
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カミーユは跳んだ。そこは地獄の奥底、最下層である。
下方には無数の古竜と、それに奉仕される山程の大きさの巨大な美貌の女性が横たわる。
彼女は真紅の髪と同じく真紅の瞳をしており、真っ赤な唇で、侍る古竜たちを苺を頬張るかのように食していた。
貪欲の女王である。
カミーユは、彼女の考えがわかる。竜語は音声を介さない。その思いがそのまま伝わる。
貪欲の女王はカミーユに気がついた。そして、その食欲をカミーユに向ける。
カミーユはその食欲に自らも応えそうになるが。なんとか抑え込む。
カミーユはとなりに跳んできていた姉上、シド・クオンに告げる。
「私一人で戦います。姉上は。力を残しておいてください」
異な言であった。神を前に、力を残せとカミーユは言った。
カミーユはミスリルの弓を構える。既にカミーユの危険予知は限界を迎えており、加速の魔法はすぐさま発動した。
カミーユは矢を放つ。一ではなく十、十ではなく百、百ではなく千、千ではなく万、万ではなく億。億ではなく兆。
瞬きする間に地獄の空はカミーユの放つ矢で覆われた。それら一つ一つが神の放つ雷よりも疾く、強く、激しく突き刺さった。
地獄の大地は衝撃波と、それが発する熱で沸騰した。
貪欲の女王は、身体に無限の穴を開けながらも、その体を保ち、カミーユに手を伸ばす。
そして、カミーユの身体に不可視の圧力が加わる。貪欲の女王は、神の意志により、カミーユの存在を握り、潰そうというのだ。
カミーユは全身に魔力を漲らせる。カミーユの中の血の渇望が増大する。それはかつてない力をカミーユに与える。
カミーユの全身の筋肉が隆起し、圧力に耐える。
カミーユは、星に匹敵する神の圧力を、その両腕で支えた。
それは巨神の如き怪力。
カミーユは神域の怪力で、掴めぬはずの不可視の指を掴み取ると、そのまま貪欲の女王を投げ飛ばす。投げ飛ばされた貪欲の女王は、激しい衝撃で全身の骨が折れ、その音が地獄に響き渡る。
しかし、貪欲の女王はすぐさま身体を再生し、空のカミーユに向き直る。
その時、カミーユは空にいなかった。貪欲の女王の胸元に転移し、その胸を掌で激しく突いた。
その衝撃で山よりも大きな乳房の肉が弾け跳び、骨格があらわになった。
カミーユは安堵とともに血に飢える。構造が同じであれば、同じだ。
カミーユは再び転移し、筋肉を、再び転移し肋骨を、肺腑を、掌で吹き飛ばしてゆく。その一撃一撃が、地獄を、そして別空間であるはずの人間界ですら、地震で揺らす。
カミーユは露わになった心臓に向け、魔剣星影を抜く。
そして、竜の言葉で念じる。
ただ、長くあれと。
山よりも巨大な心臓を、カミーユは魔剣星影を用いて細切れにしていく。
心臓は、その一つ一つが砂糖粒のように小さくなるまで刻まれた。
貪欲の女王は地獄の大地に倒れ伏した。
シド・クオンは両腕を組んだままそのさまを眺める。
「貪欲の女王、邪竜神の神堕とし、新たな神の戴冠を行っても良い偉業。だが、そうも行かぬのが因果というものよな」
シド・クオンは天を見上げる。空は輝き、地獄の大地は浄化され、植物が生え、小鳥すら平和にさえずる。
空には金の竜神、慈愛の女神と、人の神、全てのものの神が顕現していた
「我が母、慈愛の女神に、全てのものの神よ。我らはそう簡単には滅びぬぞ」
シド・クオンは天につばを吐く。神堕としは始まったばかりなのだ。
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【今宵の調べはここまで。顕現する二柱の神。また明晩、リュートの弦が弾ける時まで取っておくことにいたしましょう】




