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〜神堕騎士道浪漫譚〜『竜血のカミーユ』  作者: 林美鈴
第三章:其は神話の激動。「貪欲」と「慈悲」の母を殺し、「真なる神」すら粉砕する、愛と神堕ちの最終詩
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空白を埋める黄金の鍵。目覚めぬ騎士を救うべく、乙女たちが愛を捧げる詩

【さあさあ皆様、しばし足を止めてお聞きくだされ、今宵お話しするのは。倒れた騎士とそれを取り巻く愛の物語にございます】


 ――――――――――――――――――――


 風呂場で倒れたカミーユは、今は自室の寝台で寝かされている。

 あれから一時間は経つが、目を覚ます様子はない。


 女たちが心配して見守る中、師、ゴダールが改めて、剣士ローレンに連れられてやってきた。


 カリンの手には、変わらずにガラス瓶に入った生首がある。


「カミーユは、最後に母御について話していたと言ったな」


 師ゴダールは乙女たちに確認する。


「そうよ。カミーユは確かにそう言ったわ。あと、王女とも」


 妻ロザリアが答える。


「やはりか。この状況に至った以上、しかたあるまい」


 ゴダールは、何かを決意して話す。


「そなたら、カミーユを愛しておるか」


「もちろんよ」


「はい。もちろんです」


「愛しています」


「もちろん。愛しているわ」


「カミーユ様は私の全てです」


「ロラン公爵を、お慕いしています」


「まあ、そうなるね」


「はい。私もです」


 乙女たちは全員、カミーユへの愛を告げる。


「で、あるか。ならば、そなたらしか、カミーユを救うことは出来ぬ。愛を持って、カミーユの記憶の証拠を示すのじゃ」


「記憶の証拠って何よ」


 ロザリアが聞き返す。


「ここからは私がお話いたしましょう」


 カリンに抱かれた生首が。芝居じみた口調で話す。


「王女、いえ、カミーユ様でしたかな。王女は赤き貪欲の女王、あなた方の言う竜の邪神と、金色の慈悲の女王、あなた方の言う天の竜神を母に持つ王女にございます」


 ロザリアが言葉を挟む。


「嘘よ。カミーユには爪も牙も鱗も翼もないわ」


 生首、ペストリエンスは悲しげな声で答える。


「それは悲劇だったのです。あるいは喜劇。それぞれの女王は、人間に転じた姿で出会い、愛し合い、愛の果てとして子が成されたのです」


 フローラは尋ねる。


「それで、カミーユ様はどうして私たちの故郷、クリン村にいらっしゃったのですか」


 ペストリエンスは大勢の聴衆に向けるように語る。


「そこは地獄の果て、赤き貪欲の女王の寝室。そこで侍医をしておりましたのが私ペストリエンスにございます。私はお産を助け、王女を抱きとめました。しかしその子は呼吸をしておりませんでした」


 エトナは心配そうに呟く。


「そんな、そんなことって」


 ペストリエンスは悲しみの言葉を続ける。


「王女をおくるみで包んだ私は、直ちに王女の部屋を離れました。死産を告げるには、別の告知官がおり、まずは秘する必要があったためです」


 ペストリエンスはそこで口調を変える。驚きと喜びの声だ。


「しかし、その王女は息を吹き返しました。その時です。赤き色ではなく、王女の髪が金色に輝いたのは」


 ペストリエンスは自らに舞い降りた悲劇を告げる。


「私は悩みました。金色の髪は、天竜の印です。この王女は天竜の血を引いているのです。私は不思議なことに、生まれたばかりの王女に魅了されておりました。彼女の生命を守らねばならないと。私は悩んだ末に王女を人間界へと送り込みました。そこであれば、貪欲の女王からも、天の竜からも、身を隠せると考えたのです」


 フローラは納得する


「そこがクリン村だったのですね」


「私は王女の遺骸を紛失した罪深き医師として。首をはねられ、この様な姿となったわけです。さて、その証拠をお持ちいたしましょう」


 ペストリエンスがそう言うと、虚空から二人の少女が現れた。それは桃色と水色の髪色をしている以外はうり二つな少女たちで、来ている服、看護婦のような服もそっくりだった。


「ペスちゃんおまたせ。持ってきたよ」


 場に似合わぬ明るい声が響く。


「よく来ました。十九号、二十号」


 少女たちは、重たそうな櫃を引いている。その表面には無数の髑髏が埋め込まれていた。そのおどろおどろしい姿に、乙女たちから小さな悲鳴が上がる。


 しかし、その中から二人、櫃に抱きついたものがいた。


 フローラとアナスタシアである。


 二人はそれぞれ櫃の髑髏に口づけを交わす。


 すると、その髑髏には薄っすらとカミーユの面影が現れる。


「けひひひひ、これは王女のあり得たかも知れぬ死の姿。それを見分けられるとは、真実の愛をお持ちのようですね」


 二人の口づけによって、櫃の蓋が開きはじめた。


 中には、金色と赤色の布がミスリルのピンで止められ、入っていた。


 この布が、カミーユの聖骸布にして、おくるみの布であった。


 ――――――――――――――――――――


【今宵の調べはここまで。現れた謎の櫃。また明晩、リュートの弦が弾ける時まで取っておくことにいたしましょう】

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