空白を埋める黄金の鍵。目覚めぬ騎士を救うべく、乙女たちが愛を捧げる詩
【さあさあ皆様、しばし足を止めてお聞きくだされ、今宵お話しするのは。倒れた騎士とそれを取り巻く愛の物語にございます】
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風呂場で倒れたカミーユは、今は自室の寝台で寝かされている。
あれから一時間は経つが、目を覚ます様子はない。
女たちが心配して見守る中、師、ゴダールが改めて、剣士ローレンに連れられてやってきた。
カリンの手には、変わらずにガラス瓶に入った生首がある。
「カミーユは、最後に母御について話していたと言ったな」
師ゴダールは乙女たちに確認する。
「そうよ。カミーユは確かにそう言ったわ。あと、王女とも」
妻ロザリアが答える。
「やはりか。この状況に至った以上、しかたあるまい」
ゴダールは、何かを決意して話す。
「そなたら、カミーユを愛しておるか」
「もちろんよ」
「はい。もちろんです」
「愛しています」
「もちろん。愛しているわ」
「カミーユ様は私の全てです」
「ロラン公爵を、お慕いしています」
「まあ、そうなるね」
「はい。私もです」
乙女たちは全員、カミーユへの愛を告げる。
「で、あるか。ならば、そなたらしか、カミーユを救うことは出来ぬ。愛を持って、カミーユの記憶の証拠を示すのじゃ」
「記憶の証拠って何よ」
ロザリアが聞き返す。
「ここからは私がお話いたしましょう」
カリンに抱かれた生首が。芝居じみた口調で話す。
「王女、いえ、カミーユ様でしたかな。王女は赤き貪欲の女王、あなた方の言う竜の邪神と、金色の慈悲の女王、あなた方の言う天の竜神を母に持つ王女にございます」
ロザリアが言葉を挟む。
「嘘よ。カミーユには爪も牙も鱗も翼もないわ」
生首、ペストリエンスは悲しげな声で答える。
「それは悲劇だったのです。あるいは喜劇。それぞれの女王は、人間に転じた姿で出会い、愛し合い、愛の果てとして子が成されたのです」
フローラは尋ねる。
「それで、カミーユ様はどうして私たちの故郷、クリン村にいらっしゃったのですか」
ペストリエンスは大勢の聴衆に向けるように語る。
「そこは地獄の果て、赤き貪欲の女王の寝室。そこで侍医をしておりましたのが私ペストリエンスにございます。私はお産を助け、王女を抱きとめました。しかしその子は呼吸をしておりませんでした」
エトナは心配そうに呟く。
「そんな、そんなことって」
ペストリエンスは悲しみの言葉を続ける。
「王女をおくるみで包んだ私は、直ちに王女の部屋を離れました。死産を告げるには、別の告知官がおり、まずは秘する必要があったためです」
ペストリエンスはそこで口調を変える。驚きと喜びの声だ。
「しかし、その王女は息を吹き返しました。その時です。赤き色ではなく、王女の髪が金色に輝いたのは」
ペストリエンスは自らに舞い降りた悲劇を告げる。
「私は悩みました。金色の髪は、天竜の印です。この王女は天竜の血を引いているのです。私は不思議なことに、生まれたばかりの王女に魅了されておりました。彼女の生命を守らねばならないと。私は悩んだ末に王女を人間界へと送り込みました。そこであれば、貪欲の女王からも、天の竜からも、身を隠せると考えたのです」
フローラは納得する
「そこがクリン村だったのですね」
「私は王女の遺骸を紛失した罪深き医師として。首をはねられ、この様な姿となったわけです。さて、その証拠をお持ちいたしましょう」
ペストリエンスがそう言うと、虚空から二人の少女が現れた。それは桃色と水色の髪色をしている以外はうり二つな少女たちで、来ている服、看護婦のような服もそっくりだった。
「ペスちゃんおまたせ。持ってきたよ」
場に似合わぬ明るい声が響く。
「よく来ました。十九号、二十号」
少女たちは、重たそうな櫃を引いている。その表面には無数の髑髏が埋め込まれていた。そのおどろおどろしい姿に、乙女たちから小さな悲鳴が上がる。
しかし、その中から二人、櫃に抱きついたものがいた。
フローラとアナスタシアである。
二人はそれぞれ櫃の髑髏に口づけを交わす。
すると、その髑髏には薄っすらとカミーユの面影が現れる。
「けひひひひ、これは王女のあり得たかも知れぬ死の姿。それを見分けられるとは、真実の愛をお持ちのようですね」
二人の口づけによって、櫃の蓋が開きはじめた。
中には、金色と赤色の布がミスリルのピンで止められ、入っていた。
この布が、カミーユの聖骸布にして、おくるみの布であった。
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【今宵の調べはここまで。現れた謎の櫃。また明晩、リュートの弦が弾ける時まで取っておくことにいたしましょう】




