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〜神堕騎士道浪漫譚〜『竜血のカミーユ』  作者: 林美鈴
第三章:其は神話の激動。「貪欲」と「慈悲」の母を殺し、「真なる神」すら粉砕する、愛と神堕ちの最終詩
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湯浴みの乙女たちと、微睡みの騎士。その幸福を、紅き記憶が引き裂く詩

【さあさあ皆様、しばし足を止めてお聞きくだされ、今宵お話しするのは。乙女の愛と騎士の過去の物語にございます】


 ――――――――――――――――――――


 カミーユが目を覚ますと、柔らかな女の肉に包まれていた。


 ここはカミーユ・ロラン公爵邸。そこの湯殿である。


 激しい戦いの後、自宅の浴場に墜落したカミーユは、そのままそこで妻たちの介抱を受けていた。


 カミーユの周りには乙女たちが侍る。


 自ずと、国の第一権力者である女王アナスタシアがカミーユに寄り添い、肌を合わせていた。


 アナスタシアは相変わらず無表情ではあるが、カミーユには彼女の高鳴る鼓動が聞こえた。


 反対側には、宰相であるサラが寄り添う。


 サラは実務の上では、この国、ベラルーン王国の最高指導者であり、その権力は絶大なものがあった。


 サラは十人もの子を産んだとは思えない美貌と豊満な身体を、カミーユに寄せた。


 しかし、ここは風呂、風呂での裸の付き合いは、身分の上も下もない世界。


 そのように、カミーユは剣士ローレンから聞いている。


 気が付いたカミーユが口を開こうとした時、可憐な声が響いた。


「女王陛下、お母様。カミーユの独占は良くないわ。順番にいたしましょう」


 ロザリアの言であった。


 皆、カミーユの顔色を伺う。


「そうですね。ロザリアの言う通りにいたしましょう。いらっしゃい。ロザリア、エトナ」


 カミーユはロザリアとエトナを招く。


「お母様。交代よ」


「女王陛下、失礼いたします」


 ロザリアは溌剌と、エトナは遠慮がちにカミーユに侍る。

 結婚してしばらく経っており、エトナは人間たちの言葉を覚えていた。


 ロザリアがカミーユの腕に収まり、カミーユがエトナの腕に収まった。


「ロザリア。先ほどの言葉、ありがとうございました」


「当然のことだわ。カミーユ、私はあなたの妻なのだから」


 ロザリアは誇らしげに答える。


 エトナはカミーユの身を案じる。


「カミーユ。先程の戦い。何か困ったことはありませんでしたか」


 エトナは戦士の感情を敏感にとらえていた。カミーユの様子の変化に気づいたのだ。


「ありがとうございます。エトナ。私は身も心も大丈夫です」


 カミーユは妻たちに不安を与えまいと、努めて冷静に答える。


 エトナはカミーユの真心を感じ、それ以上追求することはなかった。


 続いて、騎士クラリスと従者フローラがやってきた。


「ロラン公爵。先ほどの戦い、侯爵の活躍のおかげで、人的被害が出ることはありませんでした」


 クラリスは、艶かしく身を寄せながらも、カミーユに事務的なことを話す。


「ですが、シド・クオン。義姉さまと呼べば良いのでしょうか。あの方の援軍はありませんでした」


 カミーユは一瞬だけ姉、シド・クオンを思うが、そのようにかたい様子のクラリスを愛らしく思い、唇を合わせる。


「ロラン公爵。ここは寝台ではありません」


 カミーユはクラリスに仕事のことを忘れさせた。


「カミーユ様。あの、私も」


 寄り添ったフローラが口付けを求める。


 カミーユは微笑み、可愛い従者の唇を啄んだ。


 周囲の妻たちは、二周目を虎視眈々と待っているようだった。


 そんな時、竜の巫女カリンが女泥棒のユマを引いてカミーユに近づいてきた。


 カリンとユマは、いつの間にか親友になっていたようだった。


「カリン。私は関係ないだろう。そっちに連れていくんじゃない」


 ユマは抵抗するが、その勢いはささやかなものだった。


「ユマ、妻になれずとも、恋人くらいには。と、言ってたではありませんか。ぐずぐずしていると、私がとってしまいますよ」


 カリンはそう言うと、カミーユの手を取り、自らの胸に抱き寄せた。


 カミーユはカリンを抱き、ユマに手を差し伸べる。


「ユマ、こちらへ来てください」


 ユマは下を向いて答える。


「まあ、命令なら、仕方ない」


 そう言うと、ユマは小さな体をカミーユに預けた。


 カミーユはユマとカリンを抱いて尋ねる。


「ユマ、お気持ちに応えられず申し訳ありませんでした。これからは気をつけますので、許してください」


「いや、許すも何もないから。カミーユが気にすることなんてないんだよ」


 ユマは頬を赤らめて下を向いている。


 カリンはユマをカミーユに押しやる。


「ユマ、神都の娼館では抱き合っていたではないですか」


「神都の娼館」


 女たちはカミーユを一斉に見つめる。


「はい。神王国の神都でアナベルと言う親切な方に、助けていただいたのです。彼女の商いが娼館でした」


 カミーユが微笑むと、女たちは見惚れてしまう。


 娼館と言う言葉に流石に驚きはしたが、カミーユのことであるから、何かあったとしても、問題はないはずなのだ。


 カミーユはカリンに尋ねる。


「カリン、生活に不自由はありませんか」


 カリンは生来陽気な性格であったのだろう。朗らかに答える。


「問題ありません。私もカミーユ様をお慕いしております。この思いは、許されますでしょうか」


 カミーユは凛々しく答える。


「カリン、あなたの真心、嬉しく思います。もちろんです」


 周囲の女たちは、瞬く間にライバルが二人増えたことに、改めて脅威を覚える。これがカミーユなのだと。


「ところで、カミーユ様」


 カリンが声をかける。


「昨日、竜たちが、カミーユ様のことを、王女。王女と呼んでおりました。何か意味があるのでしょうか」


 カリンは竜の巫女であり、竜の言葉と、竜の心の声と通話が出来た。


「王女。私が、王女」


 カミーユの脳裏に、生まれた時の記憶、今まで覚えていたよりも、更に昔の記憶が混ざる。


「私は、母がいて、その時に」


 カミーユは自らがおくるみに包まれ、侍医に抱かれることを思い出す。そしてその前の母は。


 そこでカミーユの意識は、ぱったりと途絶えた。


 周囲の女たちはカミーユに駆け寄る。


 その時、師ゴダールが現れた。

 彼の姿は小さなカワウソのため、女性たちから言葉が上がることはない。


 ゴダールは険しい声色で命じる。


「カリンよ両手を出すのじゃ」


 素肌のカリンは素直に両手を出した。


 するとその手には、竜の生首の入ったガラスの瓶があら破れた。


 ガラスの瓶の生首は言う。


「くけけけけ。我が名はペストリエンス。地獄の医師であります。どうぞお見知り置きを」


 ――――――――――――――――――――


【今宵の調べはここまで。現れた医師の正体は。また明晩、リュートの弦が弾ける時まで取っておくことにいたしましょう】

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