湯浴みの乙女たちと、微睡みの騎士。その幸福を、紅き記憶が引き裂く詩
【さあさあ皆様、しばし足を止めてお聞きくだされ、今宵お話しするのは。乙女の愛と騎士の過去の物語にございます】
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カミーユが目を覚ますと、柔らかな女の肉に包まれていた。
ここはカミーユ・ロラン公爵邸。そこの湯殿である。
激しい戦いの後、自宅の浴場に墜落したカミーユは、そのままそこで妻たちの介抱を受けていた。
カミーユの周りには乙女たちが侍る。
自ずと、国の第一権力者である女王アナスタシアがカミーユに寄り添い、肌を合わせていた。
アナスタシアは相変わらず無表情ではあるが、カミーユには彼女の高鳴る鼓動が聞こえた。
反対側には、宰相であるサラが寄り添う。
サラは実務の上では、この国、ベラルーン王国の最高指導者であり、その権力は絶大なものがあった。
サラは十人もの子を産んだとは思えない美貌と豊満な身体を、カミーユに寄せた。
しかし、ここは風呂、風呂での裸の付き合いは、身分の上も下もない世界。
そのように、カミーユは剣士ローレンから聞いている。
気が付いたカミーユが口を開こうとした時、可憐な声が響いた。
「女王陛下、お母様。カミーユの独占は良くないわ。順番にいたしましょう」
ロザリアの言であった。
皆、カミーユの顔色を伺う。
「そうですね。ロザリアの言う通りにいたしましょう。いらっしゃい。ロザリア、エトナ」
カミーユはロザリアとエトナを招く。
「お母様。交代よ」
「女王陛下、失礼いたします」
ロザリアは溌剌と、エトナは遠慮がちにカミーユに侍る。
結婚してしばらく経っており、エトナは人間たちの言葉を覚えていた。
ロザリアがカミーユの腕に収まり、カミーユがエトナの腕に収まった。
「ロザリア。先ほどの言葉、ありがとうございました」
「当然のことだわ。カミーユ、私はあなたの妻なのだから」
ロザリアは誇らしげに答える。
エトナはカミーユの身を案じる。
「カミーユ。先程の戦い。何か困ったことはありませんでしたか」
エトナは戦士の感情を敏感にとらえていた。カミーユの様子の変化に気づいたのだ。
「ありがとうございます。エトナ。私は身も心も大丈夫です」
カミーユは妻たちに不安を与えまいと、努めて冷静に答える。
エトナはカミーユの真心を感じ、それ以上追求することはなかった。
続いて、騎士クラリスと従者フローラがやってきた。
「ロラン公爵。先ほどの戦い、侯爵の活躍のおかげで、人的被害が出ることはありませんでした」
クラリスは、艶かしく身を寄せながらも、カミーユに事務的なことを話す。
「ですが、シド・クオン。義姉さまと呼べば良いのでしょうか。あの方の援軍はありませんでした」
カミーユは一瞬だけ姉、シド・クオンを思うが、そのようにかたい様子のクラリスを愛らしく思い、唇を合わせる。
「ロラン公爵。ここは寝台ではありません」
カミーユはクラリスに仕事のことを忘れさせた。
「カミーユ様。あの、私も」
寄り添ったフローラが口付けを求める。
カミーユは微笑み、可愛い従者の唇を啄んだ。
周囲の妻たちは、二周目を虎視眈々と待っているようだった。
そんな時、竜の巫女カリンが女泥棒のユマを引いてカミーユに近づいてきた。
カリンとユマは、いつの間にか親友になっていたようだった。
「カリン。私は関係ないだろう。そっちに連れていくんじゃない」
ユマは抵抗するが、その勢いはささやかなものだった。
「ユマ、妻になれずとも、恋人くらいには。と、言ってたではありませんか。ぐずぐずしていると、私がとってしまいますよ」
カリンはそう言うと、カミーユの手を取り、自らの胸に抱き寄せた。
カミーユはカリンを抱き、ユマに手を差し伸べる。
「ユマ、こちらへ来てください」
ユマは下を向いて答える。
「まあ、命令なら、仕方ない」
そう言うと、ユマは小さな体をカミーユに預けた。
カミーユはユマとカリンを抱いて尋ねる。
「ユマ、お気持ちに応えられず申し訳ありませんでした。これからは気をつけますので、許してください」
「いや、許すも何もないから。カミーユが気にすることなんてないんだよ」
ユマは頬を赤らめて下を向いている。
カリンはユマをカミーユに押しやる。
「ユマ、神都の娼館では抱き合っていたではないですか」
「神都の娼館」
女たちはカミーユを一斉に見つめる。
「はい。神王国の神都でアナベルと言う親切な方に、助けていただいたのです。彼女の商いが娼館でした」
カミーユが微笑むと、女たちは見惚れてしまう。
娼館と言う言葉に流石に驚きはしたが、カミーユのことであるから、何かあったとしても、問題はないはずなのだ。
カミーユはカリンに尋ねる。
「カリン、生活に不自由はありませんか」
カリンは生来陽気な性格であったのだろう。朗らかに答える。
「問題ありません。私もカミーユ様をお慕いしております。この思いは、許されますでしょうか」
カミーユは凛々しく答える。
「カリン、あなたの真心、嬉しく思います。もちろんです」
周囲の女たちは、瞬く間にライバルが二人増えたことに、改めて脅威を覚える。これがカミーユなのだと。
「ところで、カミーユ様」
カリンが声をかける。
「昨日、竜たちが、カミーユ様のことを、王女。王女と呼んでおりました。何か意味があるのでしょうか」
カリンは竜の巫女であり、竜の言葉と、竜の心の声と通話が出来た。
「王女。私が、王女」
カミーユの脳裏に、生まれた時の記憶、今まで覚えていたよりも、更に昔の記憶が混ざる。
「私は、母がいて、その時に」
カミーユは自らがおくるみに包まれ、侍医に抱かれることを思い出す。そしてその前の母は。
そこでカミーユの意識は、ぱったりと途絶えた。
周囲の女たちはカミーユに駆け寄る。
その時、師ゴダールが現れた。
彼の姿は小さなカワウソのため、女性たちから言葉が上がることはない。
ゴダールは険しい声色で命じる。
「カリンよ両手を出すのじゃ」
素肌のカリンは素直に両手を出した。
するとその手には、竜の生首の入ったガラスの瓶があら破れた。
ガラスの瓶の生首は言う。
「くけけけけ。我が名はペストリエンス。地獄の医師であります。どうぞお見知り置きを」
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【今宵の調べはここまで。現れた医師の正体は。また明晩、リュートの弦が弾ける時まで取っておくことにいたしましょう】




