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熊のゴロー

「お話って、何でもいいの?友達の熊のおじさんの話でもかまわない?」

チュウタは、氷の糸紡ぎにちょこんと乗りながら雪女のサエに聞きました。


「熊のおじさん?ゴローさんの話かしら?」

サエは嬉しそうに聞きました。普通は熊は冬は冬眠していますが、たまに起きて冬の山を歩き回る熊もいます。

ツキノワグマのゴローさんは、皆さんがお雛様を飾る三月辺りに一番の春風を感じて寝ぼけて起き出します。


雪の深い越後の山では、まだまだ春は遠いのですが、ゴローの鼻はとびきり良いらしく、遠くの若葉の美味しそうな匂いを感じて起きだしました。


けれど、半分は眠っているようで、地面が冷たいのが雪のせいだと気づきません。

でも、冷たいのが嫌なのか、立ち上がって人間のように二本足で歩きだしました。


くらり、ふらふら。


ゆらーり、みしみし。


まるでワルツでも踊るように、右に左に揺れながら山道を歩くゴローの姿を、サエは遠くから見たことがあります。


雪の深い山道は、どこもかしこも真っ白で、雪の下の地面がどうなっているのかわかりません。


はじめはゴローのユーモラスな歩き方を楽しんでいたサエですが、小川の近くにゴローが歩いて行くのを知ったとき、思わず声をかけてしまいました。


「そっちは川が隠れているわ!」


でも、半分寝ているゴローの耳には北風ほどにも届きません。

一瞬、止まりはしたものの、安心したのもつかの間、サエの悲鳴に送られて、冷たい小川に落っこちてしまいました。


幸い、小さな川だったので溺れたりはしませんでしたが、落とし穴のように川を隠していた枯れすすきにまみれながら、おしりがグッショリ濡れてしまいました。


「あっ、つめてぇー。」

ゴローは、絶叫をあげながら本当に目をさましました。

そして、何がおこったのか分からずにキョロキョロと辺りを見渡しました。


最初は驚いていたゴローでしたが、小川の岸にふきのとうを見つけると、その春の香りを心行くまで嗅いで、それから美味しそうに食べてしまいました。


「なんか、苦いけれど美味しかったな。」

ゴローはボヤきながら楽しそうに空をみて、しばらくしてから尻が冷たいことに気がついて、急いで小川から出てきました。


サエは、そんなユーモラスなゴローの仕草がかわいくて、つい、笑ってしまいました。


ゴローは、そんな事には気がつかずに、自分の巣に戻り、雪が溶け雪割草がちり、桜が散ってもまだ、ぐうぐう眠ってしまうのです。


「ゴローさんのお話、聞かせてくれるのね?」

サエは、たまに会うゴローの話に期待をしました。


あのぼんやり者の熊のゴローは、雪が溶けたあとにどんな暮らしをしているのでしょうか?


「うん。でも、そんなに面白くないかも知れないよ。」

サエが期待を含んだ瞳で見つめるので、チュウタは少し心配になってきました。

だって、この小さな森でおこる事件なんて、つまらない日常の事です。


外国からやって来る、偉い将軍様のコートを暖めるような、そんなすごい話ではありません。


「大丈夫。だって、私もドミトリーもこの森が大好きだし、雪が溶けた後の森の話は、どんなものでも興味深いのだから。」

サエは、優しく微笑みました。


「本当に?」

チュウタは確認するようにサエの瞳を覗きこみました。

「本当に!」

サエはチュウタを励ますように元気よく返事をしました。


「じゃあ、熊のゴローおじさんのお願いの話をするね。」

チュウタは安心して話始めました。


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