糸紡ぎ
「ごめんなさい。ぼく、こんなに綺麗な女の人をはじめて見たから、なんと言えばいいのか、わからなくなりました。」
チュウタは素直に謝りました。
「そんな風に言われたら、許さないわけには、まいりませんね。」
サエは、そう言って嬉しそうに笑いました。
サエが笑うと、空気の中の水の粒が氷となってキラキラと輝きました。
なんて、綺麗なのだろう?
チュウタは、思わず見とれていましたが、サエの細く白い指に触れられて我に返りました。
「月が沈んでしまう前に、糸を紡いで行かなければ。さあ、チュウタさん、手伝ってくださいね。」
サエの声にチュウタは、うなずきます。
「はい。ぼく、何をしたらいいのですか?」
サエは、西洋風の糸紡ぎの前に座りました。
それから、糸紡ぎの機械の右側のかごに優しくチュウタを乗せると、季節の三色の糸をより、
また、冬の空気の中から、透明に輝く美しい氷の糸を三色の糸にあわせ、一本の糸にすると、糸巻き車に巻いてゆきます。
ごとん、カラカラ、
ごとん、カラカラ。
ドングリの池の湧き水で作られた糸巻きは、月の光に照らされて、水晶のように輝いていました。
少し糸が巻かれて落ち着くと、雪女のサエはチュウタを見つめて言いました。
「さあ、チュウタさん、今年の森のお話を、私と糸に聞かせて頂戴。」
サエは、優しく微笑みます。
「森のお話?」
チュウタは、よく理解できずに聞き返しました。
サエは、どんなお話が聞きたいのでしょうか?
「そう、雪が溶けて、暖かい頃の、私やあの方が見ることの出来ない、森のお話が必要なのよ。そのお話が世界のすべてを凍らせる、あの方の体を包んで、この森と……、あの優しい方の心をまもってくれるのよ。」
サエは、あの方を思い出したらしく、とても綺麗な優しい顔をしました。
「あの方って、冬将軍の事だね!サエさんは、冬将軍が好きなんだ。」
チュウタは、自分が発見した素敵な事に胸がときめきました。
雪女のサエは、あまりにも純粋に、好きだと言われてビックリして、ほほを赤く染めながら目を見開きました。けれど、少しして、気持ちが落ち着くと、少し寂しそうにチュウタを見て言いました。
「ええ、そうね、確かに。私はドミトリーを好きだと思っているわ。だから、彼がこの森の全てを凍らせて、彼のために森の生き物が、二度と目覚めないような事には、させたくないのよ。あれでいて、あの方はとても繊細で優しいの。そうなったら、きっと、とても悲しむと思うのよ。チュウタさん、あなただって、春になっても友達が起きて来なかったら悲しいでしょ?」
サエは、優しくチュウタを見つめました。サエの瞳は、月の無い夜空のように、深く黒く、それでいて、冬の星空のように優しい気持ちがキラキラと輝いていました。
「うん。僕はタンポポさんが大好きなんだ。寝坊助の熊のおじさんも、キツネのおばさんも、みんなに早く会いな。二度と会えないなんて、絶対嫌だよ。」
チュウタは、暖かい春を思い出しました。
冬将軍のドミトリーは、彼に近づく者をすべて凍らせてしまいます。
雪女のサエが、この森を柔らかい雪のお布団で包んでくれなかったら、地面はずっと深くまで凍えてしまい、春になってもタンポポさんも目を覚まさないかもしれません。
そんな事になったら大変です。
素敵な春のお話をして、暖かいコートを冬将軍に贈らなきゃ。
チュウタは、サエに今年のとびきり楽しいお話をしようと、心に決めました。




