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セアリエル  作者: 七鏡
闇あるところに光あり、光あるところに闇あり
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戦場の舞踊者たち

黒鎧の異形の騎士ザッザークの熾烈な四本の剣がバーソロミューを襲う。だが、バーソロミューはぷ、と煙草を吐き捨てると、ボウガンを捨て、法衣の袖から二つのチャクラムを取り出す。小さな歯車上のそれは、取り出した瞬間倍以上の大きさになり、鋭い三つの刃が不気味に光る。それを投げつけるバーソロミュー。ザッザークはそれを苦も無く打ち払う。ザッザークの周囲にいた一人のデスナイトがそれの餌食となり、一瞬で灰になる。


『忌々しい女神の祝福がされているのか・・・・・・!』


「そう言うこった。わかったなら、さっさと往生しろよ」


『断る!』


ザッザークはそう言い、剣を振り上げる。それを腰から抜いた二対の刀で受け止めたバーソロミュー。魔術師でありながらも、騎士のように戦う退魔術士の姿をザッザークは初めて見たが、なるほど侮ることのできない相手と分かる。騎士の風上にも置けぬものだが、実力はある。伊達や酔狂でこの場にいる、と言うわけではない。


『だが!』


二本の剣を受け止めるバーソロミューに、残る二本の刃が振り下ろされる。バーソロミューは咄嗟に離れ、距離を取り、懐から取り出した便のナイフを投げつけた。数本のそれを腕で振り払い、ザッザークとその愛馬は迫る。


「バーソロミュー!」


バルドバラスが助太刀しようと動くが、バーソロミューはちらりと彼を見ると、笑う。


「おいおい、助けはいらねえぜ、黒騎士!こんなやつ、俺一人で十分だからなぁ!」


『身の程知らずめ、よかろう。貴様は我らの仲間とはせず、苦しみの冥府の中で永遠の地獄を味わわせてやろう!』


「おもしれえ!」


猛るザッザークを嘲笑するバーソロミューに、猛然と突き進むザッザーク。その四本の刃が闇を従え、切りかかる。

それはバーソロミューの持つ二本の剣を砕き、それ以外のすべての武器を砕いた。

バーソロミューの法衣に包まれた二本の腕もまた、ザッザークにより切り付けられ、血が噴き出る。


『これで、もはや戦う術はあるまい』


ザッザークはそう言い、腕の一本を振り上げ、哀れな退魔術士を見た。

その時、ザッザークは驚いた。バーソロミューはこの状況でもまだ、笑っていたのだ。

気が狂っているのか。そう思ったザッザークの振り上げた腕は、いつの間にか感覚がなくなり、ボトリ、と落ちていた。そう、ひじから先がなくなり、そこにあったはずのそれは愛馬の真下に落ちていた。

何があったかわからないザッザークは、ニヤリと笑うバーソロミューを見る。

バーソロミューの両腕の傷からは、骨ではなく、異様な輝きを放つ金属が見えていた。


『き、さま・・・・・・・・・・・!?』


「悪いね、俺の身体は特別製でね」


そう言ったバーソロミューは、驚くザッザークを見る。彼の右腕からは、異様な刀のような刃が生えており、それはザッザークの肉片と血が微かに付着していた。

バーソロミューのスキルは、骨の金属化。頑丈な骨であり、それを砕くことは至難の業である。また、腕部分には生まれつき、刀状の刃がそれぞれ一本ずつ収納されている。今までも多くの敵がバーソロミューのその剣で倒されてきた。

特別性、と言った通り、その刃は壊れることはない。錆びつくこともないため、その威力が落ちることはない。例え壊れたとしても、骨であるため再生は可能である。


『お、のれ』


ザッザークは切り落とされた腕を押さえ、バーソロミューを見る。だが、たかが腕の一本。それがどうしたというのだ。

そんなザッザークは気づかなかった。バーソロミューが腕を落とした際、その身体の中に埋め込んだものを。

極小の魔力の塊。それを埋め込まれた彼は、突如、ぐん、と体内で膨れ上がる魔力を感じた。それは内側からザッザークを圧迫する。


『な、なん・・・・・・・・・・』


「悪いね。もうケリはついてんだ。あばよ、ゾンビ野郎」


『私は、負けてなど・・・・・・・・・・』


そう言い、愛馬をバーソロミューに向けた瞬間、ザッザークの身体は閃光に包まれ、破裂した。飛び散った肉片は灰となり、空気の中に消えていった。

バーソロミューはそれを見届けると、にやりと笑ってバルドバラスを見る。


「ほらな。簡単だったろ」




ザッザークの消滅により、死者の軍勢の統率は崩れていった。

数こそ脅威だが、統率がなくなった今こそ、壊滅の好機である。

セウス王はトローア騎士たちに命令を下すと、自身もセアリエルを抜き亡者どもの中に飛び込んだ。

輝くその剣を振り、亡者を切り伏せていくセウス王の姿に、味方の士気は上がり、数の上での敵の有利をあっという間に覆した。

城門において師ツェツィーリエとともにその進行を阻止していたペンテシレイアも王都トローアの外にいる死者を押し返すように進みだし、前線を王都より遠ざけていた。師ツェツィーリエに劣らぬその剣技に、死者たちも歯が立たず、再び死の運命を受け入れるほかなかった。

そんなペンテシレイアだが、やはりまだ十代の少女であり、戦闘の経験は劣る。ややそのペースを崩した彼女を、狙撃手が狙う。

遠方よりの殺気をペンテシレイアは感じることができなかった。それほどまでに、殺気や悪意に慣れ、剣を振るうことにばかり集中し、遠方への注意は散漫になっていた。

カカカ、と笑い、髑髏が矢を射る。その矢が、急速にペンテシレイアを狙い落ちてくる。

気付いた時、ペンテシレイアは目の前の敵と剣を交わしており、矢を払うことはできなかった。そのまま行けば、死ぬとわかっても、敵をのけることができなかった。


(父上、ツェツィ様!)


父母の顔が浮かび、そしてツェツィーリエの顔が浮かぶ。目を閉じたペンテシレイアは死を覚悟したが、その直後に彼女を狙っていた矢は地面に落ちた。

ペンテシレイアが目を開くと、そこには自分と同い年くらいの青年が立っており、片手剣を構え、遠くにいる狙撃手を睨む。青年は剣を持たない右手を振り上げると、そこから魔術の炎が上がり、遠方の狙撃手目がけて放たれる。それは狙撃手の放った一撃よりも早く相手に届くと、狙撃手の死肉ごと蒸発させた。

ペンテシレイアは青年を見る。砂漠を思わせるサンドブラウンのさらさらとした髪をなびかせていた。薄緑色の瞳は強い輝きを放ち、死者の群れを見る。トローア人的な顔であり、一般的に見ても十分美形である。

青年はペンテシレイアを見ると言った。


「無事か?」


「え、ええ・・・・・・・・・・ありがとう」


礼を言ったペンテシレイアに無表情で一瞥をやると、彼はそのまま向かってくる敵兵を切り伏せた。お延手指令アも気を取り直し、周囲の敵を切り伏せる。

踊るように二人は周囲の敵を斬りつけ、圧倒する。

背中越しに戦う二人は、息も弾ませずに会話をする。


「私の名前はペンテシレイア・アーマリオン。あなたは?」


「・・・・・・・・・・エオス。エオス・ニー・ディアドコイ」


青年はぶっきらぼうに答えた瞬間、二人が互いの位置を変え、敵を斬りつける。初めて顔を見せた二人は、息の合った連係を見せ、敵を次々に切り伏せていく。


「・・・・・・・・・さすが、剣匠の弟子、といったところか」


素直にペンテシレイアを称賛するエオス。表情こそあまり変わらないが、その言葉に表れている賞賛の嬢に、フフ、と笑うペンテシレイア。


「ありがとう。でも、あなたも凄腕ね。誰に習ったの?」


トローア王国やほかのラカークン地域の剣術の特性を少しずつ混ぜ合わせた剣術を使うエオスにペンテシレイアが問うと、エオスは「さあな」と言った。


「俺は記憶がないんだ。一か月前、トローアに流れ着いて、な」


「そう・・・・・・・・・・」


一か月前、記憶を失くしていたところをトローア王国近衛騎士団に保護され、近衛騎士見習いとして王宮務めをしていたらしい。本来ならば、見習いはこの戦闘に参加しなくともいい、というセウス王の言葉もあったが、自身を救ってくれたトローアに対する恩返しのため、参加したらしい。

年齢や出自の知れない彼だが、確かにその剣の腕は同年代の物や、円卓騎士と比べても何ら劣る者はなく、むしろ圧倒するほどのものである。

師ツェツィーリエには及ばずとも、自分にならば比類すると思われるだけの実力を持つ青年に、ペンテシレイアは興味を抱いていた。昔から、ツェツィーリエという絶対的な目標にばかり目を取られてきた彼女は他の少女の抱くような夢や幻想に浸ることはなかった。そんな彼女は初めて異性に興味を抱いたのであった。

二人の剣士は周囲の騎士も目を見張るような活躍をし、その周囲の敵を殲滅にまで追い込んだ。



最終的にはセウス王率いるトローア軍と援軍として駆けつけたレイ王子のラウテリア騎士団に挟撃され、死者の軍勢はすべて駆逐された。

死亡したものや死者としてトローアを攻撃した者たちは、レアレースの信徒による浄化の後、丁重にトローアの大地に葬り去られた。

死者を冒涜し、あまつさえ利用しようとする敵の存在に、セウス王や彼の騎士たちは大きな憤りを感じた。


「セウス王、この後はどうされる?」


レイ王子が問うと、セウスは迷うことなく言った。


「敵を倒す、それだけだ、レイ王子。だが、その前に今なお戦っている我が友たちを助けに行かなくてはならない」


そう言うと、セウスは一度王宮へと戻ると、王補佐であるリケンの集めた情報を聞いた。


「現在、一番危険と思われるのはフロイデン領です。インサニアフォースズの攻撃に遭い、各地が落とされており、ミトリガンも持ちこたえてはいますが、時間の問題ではないか、と」


「フォッシウスと連絡は?」


「数時間前まではできていましたが、今は魔力障害で通じません」


リケンが口を閉じると、魔術師テレサが夫に代わり口を開き、王に報告する。


「アースウォード、シノルヴァは何とか持ちこたえているそうです。アノガル殿やエルデリート殿は、先にフロイデンの救援に、と」


「そうか」


セウスはそう呟くと、ラカークンの地図で示されたミトリガンを見る。まるで、あの時と同じだな、とセウスは心中でつぶやくと、騎士たちを見る。


「では、まずはフロイデンの盟友たちの救援に向かう。事態は一刻を争う。全員、準備を急ぐように」





セウスは家族の待つ一室に向かう。部屋に入ってきた父親を迎えるように、まだ幼い王子王女が父に向かって奔っていく。


「父上!」


ぼふ、と音を立て、三人の子どもたちがセウスに引っ付く。それぞれの頭をやさしく撫で、セウスは笑う。


「お帰りなさい、父上!」


「ただいま。セアドリグ、セオダート、セシリア」


それぞれの名を愛おしさを込めて呟き、頭を撫でる。そんなセウスのもとに、それまで微笑ましげに見守っていた妻セリーヌが歩み寄ってくる。


「お帰りなさい、セウス」


「セリーヌ」


子どもたちを少しだけ寄せると、セウスは愛妻を抱きしめた。セリーヌは笑い、厚くセウスを抱擁した。


「戦いは終わったの?」


「・・・・・・・・・・・いいや、トローアの安全はひとまずは確保したが、戦いは始まったばかりだ。私も、すぐにでも戦いに向かわねばならなくなるだろう」


「・・・・・・・・・・・そう」


セリーヌは覚悟はしていた。かつての戦い同様、王たるセウスには責任があるのだから。


「安心して、セウス。あなたのいない間は、私たちが守るから。そうでしょう?」


「うん!」


セリーヌの言葉に、セウスの子どもたちは頷く。まだまだ子供であり、自覚などないはずなのに、その目は輝いていた。

末の娘、セシリアは静かにぎゅ、と父親の手を握る。


「いい子にしているから、早く帰ってきてね?」


「・・・・・・・・・・・・ああ、約束する。必ず生きて帰ってくる。だからそれまで、いい子でいるんだよ」


「うん・・・・・・・・・・」


セシリアは力強く頷く。母親譲りのオレンジ色の髪をわしゃわしゃと撫でると、セウスは息子たちの頭も撫でる。

またしばらく会えなくなるが、大丈夫だ。

守るべきものは、あの時よりも多くなった。死ぬことはできない。まだまだセウスにはするべきことがあるのだから。

セウスは腰のセアリエルの鞘を撫でると、静かにかつて訪れた砂漠の帝国に思いを馳せた。




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