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セアリエル  作者: 七鏡
闇あるところに光あり、光あるところに闇あり
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死者を狩るもの

ラカークン全土で発生した死者の大軍の襲撃はその膨大な数と規模から完全に防ぎきることは不可能であった。各領地の中心部には比較的騎士も多いが、そうでない地域では少数の騎士が孤立状態で大軍と戦っていた。そのために、優れた騎士と言えども死ぬこととなった。死んだ者たちもまた死者の軍団に加わるために、減らしてもまた軍団は増えていく。非戦闘員を取り込みながらその規模は大きくなる。

セウス王の円卓騎士団召集にもかかわらず、王都トローアに来れるものはごく少数であったのもそれが原因であった。


円卓議会には十数人の騎士、それに魔術による投影でこの場に姿を現しているものが十数名、という状況であり、ほかのものは連絡が取れない。


「フォッシウス、フロイデンの被害は?」


セウス王は投影でこの場に姿を現しているフォッシウスに問うと、フォッシウスは顔を曇らせた。


『現在、我が領地はかつてのインサニアフォースズの軍団に襲われています。現在は何とか追い払いましたが、軍団の中にアルカンシエル将軍やアガティン将軍の姿がなかったことから、再度の攻撃があるものとみています』


フォッシウスの報告に付け加えるように投影されたフォーリヴズが言う。


『敵数はこちらの五倍の兵力。飽くまで先の戦闘でのことですから、実際の戦力差は・・・・・・・・』


『それに相手は死者であり、体力や空腹とは無縁。長期戦になれば、こちらが不利です』


「・・・・・・・・・・・・・シノルヴァ、アースウォードは?」


フォッシウスの言葉を聞き、セウスは他の二人の領主を見る。エルデリート、アノガルの顔は曇ったままである。


『こちらもあまりいい状況、とは言えません。元老院議員たち率いる軍勢がおもに北部の街々を襲っており、対応に追われています』


『こちらも似た状況です』


領主たちの答に、セウスは顔を曇らせた。


「何者かの陰謀、と考えるのが自然ですね。これだけの規模が一気に魔物化することなど、普通ではありません」


「おそらく、失われた禁術ネクロマンシーではないか、と私たちは推察しています」


リケン、テレサ夫妻の言葉に、宮廷魔術師ペルゼンも同意を示す。魔術師たちの見解は一致しており、これが偶発的なものではないことは明らかであった。


「敵の正体がわからないな」


「・・・・・・・・・・いや、大体の想像はつく」


バルドバラスの言葉に、セウスは言う。これだけのことをしでかす人物を、セウスは一人だけ知っている。そう、セウスに対して、トローアに対して絶対的な憎しみを持ち、この大陸を手にしようとする巨悪を。そのためならば、手段を選ばぬ人物を。

自分のきょうだいを名乗ったあの人物。死んだと思っていたが、それは違うようだ。

あの時、確かに殺したと思っていたが。


「黒幕の見当はついている。狙いも、な。だが、それよりも死者の軍勢をどうするか、だ」


「此方の戦力との差はあまりにも大きいですし、トローアのみでは対処しきれない、と思います」


『他国に助けを求める、と?しかし、応じてくれる国があるでしょうか?』


「わからぬ。だが、このままでは罪なき民まで巻き込むことになる。それだけは避けねばなるまい」


ようやく訪れた平和だ。それを過去の災禍で壊され、再び戦乱の時代に戻されてはたまらない。数多の血が流され、ようやく平定した。多くの意志がねじ伏せられ、ねじ伏せてきたセウスは強い覚悟で騎士たちを見る。騎士たちも、主君を仰ぎ見る。


「諸君、辛い状況で張るだろうが、どうか持ちこたえてほしい」


セウスはそう言うと、腰のセアリエルを撫でた。その剣をゆっくり抜いて、セウスは言った。


「死の霧を、打ち払おう。光と希望で・・・・・・・・・・・」




トローア王国から他大陸の国へこの緊急の事態の援助を求める手紙と使者が送られたのは、それからすぐのことであった。

多くの国は対岸の火事と沈黙を決め込んだが、中央大陸の大国家クエンゾンは真っ先にトローアへの援軍を派遣した。先のゲルドサルバの乱ではトローアにより窮地を救われたために、その時の借りを返そう、と言うことであった。

他には隣国であるバラル王国。レイ王子率いるラウテリア騎士団が派遣される運びとなっている。レイ王子と言えば、やはりゲルドサルバの乱ではトローア騎士と轡を並べた中である。友人であるセウスの危機となっては、心優しきレイ王子が駆けつけぬわけはない。

クライシュ大陸では聖魔法を司る司祭たちの集団がおり、レア女神を信仰する寺院が和夫ぽク存在する。そのうちの最大派閥、レアレースはこの死者の軍勢を追い払うことこそ、女神の慈悲である、としてセウスに対し支援を表明した。アークビショップと退魔術士の一団をトローアへと派遣した。



王都トローアをはじめ、各主要都市では激しい防衛線が繰り広げられていた。


「まったく、どれだけいるのやら」


バルドバラスはそう言うと、近衛騎士たちに指示を出し、自らも剣を抜く。


「このまま軍勢を突破せよ!」


バルドバラス率いる騎兵隊は死者の群れに向かって突撃をした。

セウスは王都城門の上よりそれを見て、指揮をする。


「バルドバラス隊の攻撃で敵の勢いは崩れている!魔術師隊、、一掃せよ!」


セウスの号令に合わせ、魔術師たちが魔術を行使した。爆音が響き、死者の群れが飛び散る。とはいえ、それで敵の軍勢が減ったかと言うと、ほんのわずか減った程度でしかない。


「浄化魔術を展開するだけの時間も余裕もないなぁ」


「そうね」


額の汗を拭い、リケン・テレサ夫妻はそう呟いた。そして、すぐさま次の魔術の用意をする。

トローアへの侵入は許していないが、それでも時間の問題、と言う風に見える。

セウスは「むう」と顎に手を当てた。


「しかし、これだけの死者を操るものがどこかにいるはずだ。これだけ膨大な数の敵を操る何者かが」


死者たちの意志を統制し、操るもの。それがいるはずなのだ。

敵う者ならセウス自身で探し出し、葬ってやりたいが、それもできない。彼にはそれを見分ける知識はないからだ。だから、セウスはそれをほかの物に任せ、彼にできることをするだけである。

セアリエルを抜くと、セウスは兵士たちの士気を上げるために、叫びをあげた。



「ほいさぁ!」


腐った肉を手にはめたナックルで吹き飛ばし、ゆったりとした黒い衣を羽織った一人の男がボウガンで殴りつけ、矢を放つ。自動で矢が装填され、次の矢をそのまま放つ。口には煙草をくわえ、不敵な笑みを浮かべている。


「おおっと!」


剣を振り上げてきた敵の攻撃を紙一重でかわすと、拳をその骨の顔にぶつける。砕け散った髑髏をもう気にも留めず、次の敵に向かう。

彼の持つ武器は、対死霊用の特殊武器であり、浄化の力を持つものである。レアレースのエリート部隊、退魔術士の基本装備であるそれを、容赦なくたたきつけながら彼は死者の中を進む。

彼の役目はどこかにいるであろう術者、またはその代理者を見つけ出し、殲滅することである。

死者は安らかに眠りにつき、次なる転生の時を待つべきであり、この世界にその魂を留めておくなど邪道。それがレアレースの教えである。

が、そんなことは彼には関係ない。彼は戦えればそれでいいのだ。気に入らない奴を殴り飛ばす。そこにはどのような理念も心情も信仰もない。

自分勝手であり、レアレースの信徒としては異端であり、不良である彼だが、対魔術師としての腕は超一流である。先のゲルドサルバの乱でも活躍しており、その縁もあり、セウス王とも顔見知りであったがために、今回派遣されたのだ。


「おらおらおらぁ!!」


ボウガンで殴りつけ、短剣やチャクラム、小型のダーツなど、次々に武器を取り出し、葬り去っていく男に死者が群がるが、蹴散らされて終わりであった。

煙草の煙が上がり、ぼ、と火が燃え上がる。それを吐き出して地面に煙草を落とすと、そこから火炎が燃え広がり、死者を焼いた。その炎は死者の身を焼き、生者には暖かさを感じさせるだけのものであった。対魔術師の行使する聖魔法『浄化の炎』。普通ならば高い信仰心と修行によってなせるものであるが、それを苦も無く彼は行使できる。しかも、その威力は普通の対魔術師の倍以上ともいう。

そんな彼にかかっては、死者の大軍など恐れるに足るものではないのかもしれない。


「おらぁ、終わりか?」


彼はニヤリと笑うと、肩に担いだボウガンで目の前に飛び込んできた哀れな獲物の頭部を矢で射ぬいた。




ツェツィーリエと弟子であるペンテシレイアは城門の前で剣を振り、死者の群れのトローア侵入を防いでいる。二人だけで騎士団並みの働きをしている。「剣匠」と呼ばれ、畏怖されるツェツィーリエほどではないが、ペンテシレイアも剣の腕は高い。もとよりコクーン・アーマリオンの才能を受け継いでいた少女は、師の技を吸収し、より騎士としての腕を上げていた。

華麗に舞う二人の女性に味方である騎士もつい見惚れてしまう。気のせいかもしれないが、死者もその動きに魅了されているようにさえ見える。


「レイア、少し呼吸が上がってきたか?」


「まさか、ご冗談を!」


笑う余裕さえある二人は、互いの顔を見ると再び剣を振るい、死者を切り伏せていく。




『なるほど。さすがはセウス王と円卓騎士、と言ったところか』


魔術師イングにより復活させられ、このトローア攻略軍を任された死者の将軍、ザッザークはそう呟き、青白い右頬を撫でた。顔の左半分は布で隠れているが、その下には頭蓋骨がある。かつてはトローアの騎士であったが、アースウォードに捕虜として捕まり、顔をそぎ落とされた。だが、復活した今ではそんなことはどうでもよくなっていた。無性に生者が憎い。ぬくぬくと生活を享受する祖国の人間が、憎い。あれほど守ろうと思ったものなのに、なぜだろうか。

微かに残る自我、だが、それすらも死者の本能の前には無意味である。関係ない、自分はすべきことをするのみだ。

ザッザークはそう内心で呟くと、生前の愛馬である黒毛のゾンビ馬に跨る。


『さぁ、殺し、喰い尽くしてやろう』


生きる魂を求め、歯をガチガチと鳴らす漆黒の騎士たちを従え、ザッザークは馬を走らせる。

ザッザーク率いるデスナイトたちは、それまで優勢であったトローアを押した。

バルドバラス率いる騎兵隊とぶつかり、瞬く間にその騎兵の半数を戦闘不能に追い込んだ。

死んだ騎兵たちはそのままデスナイト化し、つい先ほどまで味方だった近衛騎士を無慈悲に殺した。


「クソッタレ・・・・・・・・・!」


バルドバラスが顔を歪め、ザッザークたちを見る。盾でデスナイトの首を殴り飛ばし、剣で切り裂く。グラシャラボラスの牙より作られた魔剣は、鋭い一撃で鎧ごとデスナイトの身体を一刀両断した。


『いいぞ、その顔、その恐怖・・・・・・・・・!それこそが我が渇望を満たす!』


ザッザークはそう言い、バルドバラスに目をつけて走る。バルドバラスはデスナイトたちを蹴散らすと、自身も馬をそちらに向ける。


「死んだ奴らはおとなしく眠っててくれよ!せっかく作り上げた平和を、めちゃくちゃにされてたまるかってんだ!」


『それはできん相談だなァ!』


カカカ、と笑うザッザーク。その身体が不自然に膨れ上がり、腹の部分から二本の腕が生えた。

二本の腕は背負った二本の剣を抜いた。


「っ!?」


バルドバラスの驚愕する中、残るもう一本の腕にも剣を持ち、ザッザークは黒騎士を見て笑った。


『わが四刀流、貴様に受けきれるかな?』


「・・・・・・・・・・・反則だろ!!」


バルドバラスはそう叫ぶ。重力操作でその身体を押しつぶそうとするが、彼のスキルを受けてもなお、軽々と動き回るザッザーク。


『わが愛馬は、そのようなスキルを無効化する力を持っているのだよ!』


「なら、てめえを叩き落とせばいいってことだな!」


『私とこやつは一心同体!それはできぬよ』


ふはははははは、と笑い、ザッザークの四本の剣がバルドバラスを襲う。防戦に徹することで何とかついて行けているが、このままいけば負けることは目に見えている。

どうしたものか、とバルドバラスが思っていると、ふと横から光る何かを見た。バルドバラスは避けられない、と思った。

だが、その光はバルドバラスにとっては暖かいだけのものであった。だが、バルドバラスに接近していたザッザークはそうではなかった。


『あぎゃぁ!!』


叫ぶザッザークと愛馬がバルドバラスより離れる。そこに、数本の矢が飛ぶ。ザッザークの愛馬はそれを一本目以外避けた。だが、最初の一本がその前脚を抉っていた。


『何奴だ!』


叫んだザッザークの前に、煙草を吸った退魔術師が現れた。魔術師はバルドバラスを見ると、にやりと笑い片手を上げた。ボウガンを持った手でザッザークを牽制しながら。


「よぉ、バルドバラス。苦戦しているようだなァ」


「・・・・・・・・・・お前か」


久しぶりの戦友との再会であった。


『・・・・・・・・貴様、魔術師、それもクライシュの者か。我を葬り去ろうというのだろう?』


「ご名答。どうやら脳みそまではまだ腐ってねえようだな」


『ほざけ、魔術師め。貴様如きに倒される私ではないぞ』


そう言い、四本の腕を構えるザッザークを、「はっ」と笑い彼は首を掻き斬る仕草をする。


「うるせえよ、ゾンビ野郎。耳の穴かっぽじってよく聞け。俺の名前はバーソロミュー・コンスタンティン。てめえを葬る男だ」


自信満々に男は言うと、短い金髪をガシガシと掻いて青い瞳でデスナイトの長を見た。

ザッザークは怒りに燃える愛馬とともに、身の程知らずの退魔術士に向かって突進した。


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