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セアリエル  作者: 七鏡
闇あるところに光あり、光あるところに闇あり
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セウスとエオス

セウス王とエオスが初めて互いに顔を合わせたのは、遠征の準備の前にセウス王が近衛騎士たちの宿舎に寄った時である。親友であり隊長であるバルドバラスの顔を見ようと思って寄ったその時、ふとセウスは一人の青年を見た。

セウスと同じ色合いの砂色の髪の青年であり、どこか父セオドアや自分とも似ている雰囲気がする。しかし、生きている王族は今はいない。セウスのきょうだいを名乗る者の関係者(つまり息子)か、とも思ったが、その割には年齢が年齢である。それはないだろう。

セウス王はそう思うと、同い年の友人と親友ツェツィーリエが手塩にかけているペンテシレイアと三人で何やら話をしていた。


「無茶だろ、エオス。俺らをセウス陛下が連れて行ってくれるもんか!円卓騎士団でもない俺らは待機命令だよ、どうせ」


なだめる友人を見て、エオスは言う。


「だが、ペンテシレイアは戦場に行くんだぞ?俺らはこうやって王都でくすぶっていていいのか?これほどの非道を行った敵を赦しておけるか」


「ペンテシレイアは別だろう?」


ペンテシレイアとは顔見知りであるその友人は困り果ててペンテシレイアに視線を向ける。

エオスとは知り合ったばかりだが、ペンテシレイアは大体この青年の気質を理解していた。無表情で分かりづらいが、以外に激しやすい性格である、と。一見すれば知的で冷静とも受け取れる外見だが、そうでもないのだ、と。

エオスは記憶がない、と言うがトローアに対する感謝は本物であり、平和を踏みにじるやからを自らの手で成敗したいと思っていた。それだけの腕は持っている。うぬぼれているわけではなく、それは事実である。


「エオス、王都を守るのも立派な任務だよ」


「アルクィン、ならお前は納得できるのか?お前だって戦死された父上を、冒涜されたのだぞ!」


「わかってるよ、エオス。でも、落ち着けよ。僕らはまだ大人になりきれていないんだ」


そう言い、エオスをなだめるアルクィンとペンテシレイア。彼らは会話に夢中でセウスの接近に気づいていなかった。


「どうかしたかな?」


「!」


セウスの声に振り返り、ようやくセウスを認めるとペンテシレイアとアルクィンは即座に騎士の礼を取り、その場に跪く。

ただ一人、ぽかんと状況のわかっていなかったエオスも目の前の人物が誰かを悟ると、慌てて礼を取り膝跪く。

セウスは苦笑して三人に言った。


「そう硬くならなくていい。うるさいものもいないことだし、楽にしなさい」


その言葉に、三人は素直に立ち上がる。その三人を見て、セウスは笑う。


「久しいな、ペンテシレイア。ますます母上に見て、美しくなった。剣の腕も上達したとツェツィーリエが褒めていたぞ?」


「ありがとうございます、陛下」


頭を下げたペンテシレイアからアルクィンに視線を向けるセウス。


「アルクィン・センナートス、と言ったな、確か」


「は、はい、陛下!」


上擦った声で答えるアルクィン。そばかすのある頬は昂揚しており、誰の目から見てもその緊張は明らかである。そもそも、セウス王が自分の名を知っていることも驚きであり、こうして声をかけてくるものとは思わなかったのだから。


「父であるアルガスはよき騎士であった。バルドバラスから聞いているぞ、アルガスに似てよい素質を持っている、と」


そう言うと、セウスは期待している、とアルクィンの肩を叩く。アルクィンは感激で何を言っていいかわからず、とにかく頭を下げてその謝意を表した。

次にセウスはエオスを見る。近くで見れば見るほど、その雰囲気に既視感を憶えるセウス。だが、エオスには不審な点はない。


「すまないが、君の名前は?」


「エオス・ニー・ディアドコイです、陛下」


「ふむ・・・・・・・・・・・」


考え込むようにエオスを見るセウスに、エオスは思い切っていった。


「セウス陛下、お願いです!俺を遠征にお供させてください!」


「エオス!?」


アルクィンとペンテシレイアの驚きの声にも耳を貸さず、セウスを見てエオスは言った。


「陛下、俺は記憶がない状態でこの国に来ました。けれど、そんな俺をこの国の人たちは親切にも受け入れてくれた。俺は恩返しがしたいんです、陛下。だから・・・・・・・・・・・・」


「若いな、エオス。若さと情熱だけでは、そうにもならないことがある。それに、熱意は時として冷静さを奪い、死へとつながることもある」


それは遠回しな拒否の言葉にエオスには聞こえた。厳しい顔のセウス王は、エオスを見て言う。


「私も多くの騎士を見てきた。慢心で身を滅ぼす者も、数多くな。確かに、君は戦う力があるのだろう。だが、それだけではならない。賢いキミならば、わかっているだろう」


「・・・・・・・・・・・」


ぐ、と唇を引き締めるエオス。セウスはそんな顔を見て、ふ、と笑う。

自分たちにも、同じような時期は会った。誰しもが通る道である。これを乗り越えることができれば、おそらく彼は円卓騎士に敗けない騎士になることができるだろう。そんな思いがセウスの胸中をよぎった。


「だが、嫌いではない」


そう言い、セウスはエオスの肩を叩く。


「いいだろう。君の参加を私からバルドバラスに言っておこう」


「ほ、本当ですか?!」


「ああ、ただし」


浮かれるエオスの顔を見てセウスは言う。


「単独行動や勝手な行動をしたならば、すぐにでもここに送り返す。命令には従うように」


「はい、陛下!」


そう言ったエオスの顔は、微妙にではあるが、生き生きとしていた。

その顔を見てセウスはニヤリと笑うと踵を返し、若い騎士たちに手を振り、本来の目的地であるバルドバラスのいる宿舎の方へと歩いていく。


セウス王とその親友たちを円卓騎士団の第一期騎士と言うならば、エオスら若手の騎士たちは第二期と言っていいだろう。後に第二期円卓騎士団において、第二のバルドバラス、第二のツェツィーリエと呼ばれるようになる彼らは、希望のまなざしで自分たちが将来仕え、剣と忠誠を奉げる王を見た。



かつては国境警備隊と呼ばれた騎士団は現在はガーディアンフォースズと名を変えている。国境と言う概念自体が消えたラカークンにおいてその任務は、王国と民に対して脅威を与えるものの未然の排除である。とはいえ、今回の事態に対してガーディアンフォースズは対処しきることはできなかった。とはいえ、それも仕方のないことであるし、だれの責任でもないのだが、隊長であるコクーン・アーマリオンは責任を感じており、無表情で瞑想し、雪辱を晴らすその時を待っていた。

ラカークン統一戦争ではその強固な守りから『堅牢』のコクーンと呼ばれた、防衛線の達人である。防衛に特化しているために、なかなか統一戦争やゲルドサルバの乱で活躍こそないものの、その実力は多くの騎士が評価していた。

コクーンは今回の戦いでは積極的に戦闘への参加を王に直訴し、先遣隊としてフロイデン領境での戦闘に参加した。

沈黙の騎士は静かに戦いの時を待っていた。


「うひゃぁ、すげー数だな」


騎士サウルン・トーキッドはそう言うと、死者の軍勢を見る。フロイデン帝国の兵装に身を包んだ無数の死者に、サウルンは軽口をたたくが、それがポーズであることにコクーンは気づく。

その身軽な動きから『岩猿』の異名をとるサウルンでさえ、このありさまなのだから、他の兵士の心中は言わずもがな、というところであろう。

セウス王がいれば、このような士気の中でも戦えるだろうが、セウス王は未だ準備と国政の引継ぎで来られない状態である。

しかし、王が来る前にコクーンはこの戦闘を方をつけ、なるべくセウス王の本軍への被害を最小限にした遭った。そのためにも、ここで怯んでいる暇はない。

コクーンは震える兵士たちを見ると、馬の上から全軍を見渡す。

そして、いきなり剣を構えたかと思うと、そのまま馬を走らせ、一人死者の群れに飛び込んだ。

悠然と、怖れを抱かずに敵に向かうコクーンのその姿に、なぜか恐怖は消え、体の震えが治まった。

そうだ。なんのためにここにいる。ただ震え、死者たちに嬲り殺されるためか。いや、違う。死を拒み、明日への希望を紡ぐため。この国を、再びこの手に取り戻すため。

ならば、恐れる必要がどこにあるか。恐れるならば、何もできずに死ぬことであろう。


「全軍、コクーン隊長に続けぇ!」


サウルンも本来の調子で全軍に告げると、駆けだす。次々と兵士たちがそれに従い、数の腕で勝る死者の群れに、雄たけびを上げながら走り出す。

意志の力は時として恐ろしいまでの力を引き出す。意志なき死者たちは、その力の前に屈することとなる。


「つぁ!」


「・・・・・・・・・・・っ」


サウルン、コクーンの振るう剣が敵を切り倒す。軽いフットワークで敵を一撃で倒し、さらに次の敵を仕留めるサウルン。重い鎧で敵の攻撃を受け止め、剣と槌で敵を打ち払うコクーン。二人の円卓騎士に続けとばかりに、トローア兵は戦う。


半日にもわたる戦闘により、死者の軍勢はその多くをトローア兵士によって駆逐された。予想外の戦況に死者の群れをイングより任されていた敵指揮官は、逃走を図るも後ろから迫ってきていたレイ王子率いるラウテリア騎士団に攻撃され、その混乱のさなか、コクーンにより打ち取られた。

そのまま、死者の軍勢は殲滅された。セウス王率いる本陣到着時にはすでに勝敗は喫していた。

騎士コクーンは、跪き主君に勝利の報告をした。その顔は、久しぶりに堂々とした顔であったという。




薄暗く、腐臭と冷気の漂う空間。蛆虫が蠢き、闇の魔力と霧が充満するそこで騎士イジュアドは周囲を見る。

魔女アテナは相変わらず、髑髏の仮面で顔を隠している。わずかに見える美しい唇は憎悪で歪んでおり、紫色の唇はまるで死神の接吻を連想させる。

その近くに立つ死霊術師イング。相変わらず不気味であり、ぶつぶつと何事かを呟いている。

そのちょうど向かい側に立つのは、かつてはトローア、そしてフロイデンに騎士として仕えたアルカード・ゾディアン。不気味にうねる下半身は、イジュアドの背筋を震わせる。彼の足元にはさきほどまで生きていた動物の死骸がいくつも転がっている。


「それで、イジュアドよ。セウスはどうすると言っていたのかしら?」


アテナがイジュアドに問う。先の円卓議会にてイジュアドも投影魔術により参加はしており、今後の動きなどを確認していた。

イジュアドは口を開く。


「まずはフロイデンのミトリガンを目指すそうだ。インサニアフォースズを第一の脅威ととらえているのだろう」


「まあ、そうでしょうね」


アテナは同意すると、アルカードを見る。


「ねえ、アルカード。あなたもどうせならば、因縁の地で決着をつけたいわよねえ?」


「・・・・・・・・そうだな。俺に任せてもらえれば、セウス王など容易く殺して見せるぞ、アテナ」


「・・・・・・・・・・そうねえ。じゃあ、任せましょう。イング、アルカードに軍を渡してちょうだい」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


イングは沈黙で答えると、アルカードに魔術符を渡す。それが、死者の軍勢の委任権である。アルカードはかつて自分が指揮官となりたくてなれなかったインサニアフォースズの指揮権を得たのだ。

くふふふ、と笑うアルカードの声に合わせるように、下半身の触手が蠢く。


「待っていろよ、セウス」


そう言ったアルカードが闇の中に消える。

アルカードがいなくなると、アテナは静かに言う。


「とはいえ、アルカードだけでは不安ね。グラシャラボラス」


『・・・・・・・・・・・・』


ぬ、とアテナの影より現れた狂犬は、静かに魔女を見る。


「あなたも行ってくれるかしら?」


『何をしてもかまわないのだな?』


「ええ、もうあなたに我慢してもらう必要もないから。カプトオイゲンの狂犬の異名を、見せつけてやりなさい」


『よかろう』


再び影に消えた魔神を見て、満足そうに笑うアテナ。

自分には興味ない様子のアテナに背を向け、イジュアドはその場を去る。

まったく、ただの人間である自分にこの空気は悪い、とイジュアドは冷や汗を拭った。

イジュアドは見えてきた光に飛び込んだ。光の先は、コーテンス家の屋敷であった。

アズガー周囲での戦闘はいまだ続いているらしい。

おそらく今なお前線で戦っているであろうテンスビルガ-やペルゼンら円卓騎士のように、自分も戦わないとな、とイジュアドは剣を擦ると、屋敷の外に出て戦場に向かっていった。




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