【090】ケセランパサラン
哀名の家から帰る途中、ぼくの目の前に白いふわふわな小さい丸いものが見えた。
「なんだろう?」
ぼくが手を伸ばすと、それは柔らかくて、よく見たら目がついていた。不思議に思ってぼくは持って帰った。
お父さんが出迎えてくれたので、ぼくは両手にのせたそれを見せる。
「お父さん、これなぁに?」
するとお父さんも驚いた顔をした。
「ケセランパサランじゃないか!」
そう言うと、あわてたようにお父さんが、リビングに行った。
そしてクッキーの空き缶を持ってもどってきた。フタを開けて、ぼくを見る。
「ここに入れてごらん」
「うん」
「これはな、ケセランパサランといって、幸運の使者なんだよ」
「幸運の使者?」
「ああ。年に一度だけ、運がいいと捕まえられるんだ」
「そうなの?」
クツを脱いで、お父さんと二人で歩く。お父さんはリビングに入ると、柚子叔母さんに言った。
「おしろいを持ってないか?」
「そんなじだいさくごのものを持っているわけないでしょ」
「ケセランパサランの食料なんだよ」
「ケセランパサラン? お兄ちゃんが昔見たって言う?」
「そうだ。瑛が見つけてきたんだ」
「血筋かしら? ファンデの上にのせるパウダーならあるけど」
「それでいい。少しわけてくれ」
お父さんがそういうと、叔母さんが立ち上がり、チェストの上にあったカバンから、けしょうポーチを取り出して、丸いけしょうひんを取り出した。
「はい、これよ」
「ありがとう」
お父さんが笑顔になって、コナをクッキーの缶に入れた。ぼくがのぞきこむと、ケセランパサランがおいしそうに食べていた。
「ケセランパサランはな、お願いごとも叶えてくれるんだ」
「そうなんだ? じゃあ薺が元気でいますようにってお願いしなきゃ」
「――ああ、そうだな。瑛はいい子だな」
お父さんが、片手でぼくの頭をなでた。
子どもあつかいされても、いやじゃない。ただちょっと、照れくさかった。




