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図書室ピエロの噂  作者: 鳴猫ツミキ(水鳴諒/猫宮乾)
【SeasonⅢ】―― 序章:きさらぎ駅から ――
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【089】魔術書の名前

 月曜日になり、ぼくは学校に行った。

 教室の入ると、ふりかえった哀名と目が合った。哀名が笑ったので、僕も笑顔をうかべた。哀名とは、毎日放課後に、お話をする約束だ。予定がないかぎり、一緒に話をすると決めている。


「おはよう、瑛くん」

「うん、おはよう。詩織」


 ぼくは心の中では名字で呼んでいるけど、普段は詩織って呼ぶようになった。

 なんだか恋人っぽいと思う。


「あのね、今日の放課後」

「うん」

「私の家に遊びに来ない? 急、かな……」

「大丈夫だよ。行きたい」


 困ったような哀名の前で、ぼくは笑顔を浮かべた。すると哀名がほっとしたように息をはいた。


「実はね、お父さんに好きな人ができたって話したら、連れてこいと言われたの」


 家族に話してくれたのが、ぼくはうれしい。

 そわそわしながら、ぼくはこの日、放課後を待った。


 二人で下校し、ぼく達は手をつないで一緒に歩いた。

 ぼくの家のマンションの手前で、路を曲がり、しばらく歩くと、一軒家が建っていた。こういう家は、〝洋館〟っていうと、ぼくは聞いたことがある。


「入って」

「うん」


 哀名に続いて中に入る。


「おじゃまします」


 ぼくが言うと、階段を誰かが降りてきた。クツを脱ぎながらそちらを見ると、黒いあごひげの男の人が立っていた。


「やぁ、おかえり哀名。それと、瑛くんかな?」

「はい。楠谷瑛です。おじゃまします」

「ゆっくりしていくといい。私は哀名の父で 陽介(ようすけ)というんだよ」

「よろしくお願いします」


 ぼくが頭を下げると、哀名のお父さんがこちらに歩いてきた。


「哀名と仲良くしてくれてうれしいよ」


 それはぼくのほうこそうれしいから、顔を上げながらなんて言おうか迷った。


「私はね、魔術の研究をしているんだ。といっても怪しい者ではないよ。幻想文学という名前の魔術書の翻訳をしているんだ。さぁ、こちらにおいで。さきほどママがスコーンを焼いてくれたよ。私もママも、瑛くんが来てくれるのを楽しみに待っていたんだ」


 そうしてぼく達は、リビングに通された。

 哀名のお母さんもすぐにやってきた。哀名によく似ていた。


「私は 眞理子(まりこ)というの。よろしくね」


 スコーンを持ってきてくれた哀名のお母さんは、にこりと笑った。

 ぼくは挨拶をし、座ってスコーンをごちそうになった。

 とってもおいしいスコーンだった。





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