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図書室ピエロの噂  作者: 鳴猫ツミキ(水鳴諒/猫宮乾)
【SeasonⅠ】―― 第九章:図書室ピエロ ――
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【048】図書室ピエロ

 小児科の入院病棟の男子トイレには、ぼくと薺以外、誰もいなかった。天井の電気が、チカチカとバチバチと、嫌な音を立てながらめいめつしている。


「友達はいつ来るの?」

「もうすぐだよ」


 薺は、じっと鏡を見ている。ぼくは扉の方を見た。どんな子が入ってくるのだろうかと気になっていた。そのとき、バチンと音がして、電気が消えてしまった。あわてて薺に視線を戻し、ぼくは目を見開いた。鏡の表面がグルグルと歪んでいく。そこから手袋を嵌めた白い手が出てきた。続いて頭、首、胴体。テーマパークで見たピエロを、ぼく達と同じくらい小さくしたサイズのピエロが、上半身を鏡から突き出してきた。


「薺!」


 ぼくはあわてて薺の右手を掴む。そうしながらチラリと視界に入ったうで時計を見えば、16:44:44だった。四時四十四分、今日は――土曜日だ。背筋があわだつ。ぼくが薺の腕を引っ張ったときには、薺の左手をピエロが握っていた。


「なんで」


 ここは図書室ではない。だが、そうだ、人潟くんが言っていた。図書室ピエロは、鏡の中なら移動できるのだと。


「薺を離せ!」


 ぼくがそう叫んだ時には、宙に浮いた薺の両脚を持ち直し、ニタニタ笑いながら、ピエロが鏡の中に体を戻し始めていた。


「あ」


 ズズっとぼくのスニーカーが引きずられて前に出る。


「薺!」

「お兄ちゃん! 瑛にいちゃん! これ、なにこれ!」

「図書室ピエロだ! 絶対にぼくの手を離しちゃダメだ!」


 ぼくはそう述べつつ、水間さんのことを思い出した。ひきずられるようにして、ぼくの体もどんどん鏡に向かっていく。水間さんも、きっと今のぼくと同じ恐怖を味わったのだろう。今なら分かる。水間さんは自分自身をおくびょうだと言っていたけれど、逃げたくなる気持ちが、誰よりも分かる。このままでは、ぼくまで鏡に吸い込まれる。


 ぼくはギュッと目を閉じる。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!! 助けて!」


 薺の声が遠くなっていく。

 怖い。怖くてたまらない。


 ――だけど。

 ぼくは意を決して目を開けた。ぼくは、〝子供〟じゃない。絶対に、〝子供〟のままでとまったりしない。薺を見捨てたりしない。それは、水間さんの苦しみを見ていたからこそ分かることだ。ぼくは、ここで決断を間違ったりしない。


「いやぁああああ」


 薺の頭までが鏡に飲み込まれた。そして、薺の腕を掴むぼくの右腕もまた、鏡の中に入り始める。必死でぼくは引っ張ろうとしていたのを――力を抜いた。けれどそれは、手を離すためじゃない。


「ぼくも会いに行ってやる!」


 そのままぼくは、薺とともに鏡の中に飲み込まれた。





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