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継承される祠守  作者: さんご


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7/30

想いは、混ざり始める

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

「料理、作ってあげる」


 玲奈は突然そう言った。


 まるで、

 前から決めていたみたいに自然な口調だった。


「え?」


「ちゃんと準備してきたから」


 彼女は持っていたトートバッグを軽く持ち上げる。


 ……準備。


 その単語に、

 妙な圧を感じた。


 僕は反射的に突っ込みそうになった。


 “本気じゃん”。


 でも、

 口には出せなかった。


 出した瞬間、

 何かが決定的になる気がしたからだ。


「正人くん、

 いつもコンビニでしょ?」


「……え?」


 僕は固まった。


 玲奈は首を傾げる。


「違うの?」


「いや……なんで知ってるの」


「あ」


 一瞬だけ、

 彼女が止まる。


 でも次の瞬間には、

 ふわりと笑っていた。


「なんとなく」


 なんとなく、で当てる精度じゃない。


 僕の背筋を、

 嫌な汗が流れた。


 けれど。


 玲奈はもう楽しそうに台所を探している。


「キッチン借りるね」


「あ、うん……」


 僕は頷くしかなかった。


 この流れで断れる人間、

 たぶん存在しない。


 玲奈は迷いなく台所へ向かう。


 その後ろ姿を見送りながら、

 僕はふと気づいた。


 静かだ。


 父も母もいない。


 今日はたまたま、

 二人とも外出していた。


 父は仕事関係の会合。


 母は親戚のところ。


 本当に偶然。


 ……偶然のはずだった。


 けれど。


 最近、“偶然”という言葉が信用できない。


 祖父の死。


 石。


 祠。


 おやみ。


 玲奈。


 全部、何かに繋がっている気がする。


「……怖」


 思わず漏れた。


 すると。


「せやろ?」


 おやみが真顔で頷いた。


 いつの間にか本棚の上に座っている。


 なんでそこ気に入ってるんだ。


「なぁまさとくん」


「……何」


「今ならまだ間に合うで」


「何が」


「恋愛撤退」


「そんな戦線みたいに言わないで」


 というかここ、僕の家なんだけど。

 撤退先どこだよ。


 おやみは真剣だった。


 蔵で見た時より、

 むしろ今の方が警戒している。


「この子、

 普通に好きになっとるわけちゃう」


「いや、好きってそういうもんじゃ」


「違う」


 即答だった。


 おやみの瞳が細くなる。


「“馴染み始めとる”」


「……だから何に」


 おやみは、

 静かに蔵の方角を見た。


「この土地に」


 その瞬間。


 台所から、

 トントントン、と包丁の音が響く。


 妙に心地いい音だった。


 古い家の空気に、

 不自然なくらい馴染んでいる。


 まるで。


 昔からここで料理していたみたいに。


 僕はぞわりとした。


 おやみも気づいたらしい。


「……早すぎる」


「何が?」


「普通、

 三ヶ月はかかる」


「だから何の話」


 祖父の石が、

 低く光る。


『正人』


「うん?」


『昔な。この土地には“待つもの”がいた』


 嫌な予感しかしない。


『長く長く、

 誰かを待ち続けた女だ』


「……は?」


『あまりにも想いが強すぎて、

 死んでも消えなかった』


 台所から、

 鼻歌が聞こえてくる。


 玲奈の声だ。


 楽しそうな、

 柔らかな声。


 でも。


 その鼻歌に、

 時々別の声が混ざる。


 低い。


 古い。


 知らない女の声。


 僕の心臓が跳ねた。


「今の聞いた!?」


「聞いた」


 おやみが珍しく即答する。


 しかも顔が険しい。


「やっぱり反応しとる」


「何が!?」


「恋する乙女の想い」


 おやみは、

 ため息混じりに言った。


「時々、

 時代すら越えるんよ」


 台所の灯りが、

 一瞬だけ揺れた。


 その瞬間。


 僕は見てしまった。


 玲奈の後ろ。


 台所の壁際。


 誰かが立っていた。


 長い黒髪。


 白い着物。


 顔は見えない。


 でも。


 玲奈と同じように、

 嬉しそうに笑っていた。


 僕は息を呑む。


 するとその“誰か”は、

 ゆっくりこちらを向いた。


 顔が無い。


 なのに。


 確かに笑っていた。


「――正人くん?」


 玲奈の声。


 気づけば、

 幻は消えていた。


 彼女はエプロン姿で、

 台所から顔を出している。


「ご飯、できたよ?」


 柔らかい笑顔。


 いつも通りの、普通の女の子。

 ……普通のはずなのに。


 おやみが、

 小さく呟く。


「始まっとるなぁ……」


 その声だけが、

 やけに重かった。

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