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継承される祠守  作者: さんご


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5/30

恋する乙女の想いは異次元

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 おやみと出会ってから、

 一週間が過ぎた。


 何かが起こる。


 絶対に起こる。


 祖父の含みのある言い方も、

 おやみの妙に真剣な目も、全部そんな空気だった。


 けれど。


 何も起こらなかった。


 拍子抜けするくらいに。


 僕は普通に大学へ行き、普通に講義を受け、

 普通にコンビニ飯を食べ、普通に帰宅した。


 怪異より、

 レポート提出期限の方が怖い。


 そんな平和な日々。


 むしろ、あの蔵での出来事が夢だった気すらしてくる。


 ただ。


 時々、

 ポケットの石が熱を持つ。


 そして夜になると、

 おやみが勝手に部屋に現れて漫画を読んでいた。


「この時代の恋愛漫画、

 情緒ジェットコースターすぎん?」


「勝手に人の部屋来ないで」


「うち、祠から出られるようになったし」


「さらっと恐ろしい進化しないで」


 そんな感じで、

 妙に日常へ溶け込んでいた。


 祖父は祖父で、


『最近の炊飯器は賢すぎる』


 とか言っていた。


 石のくせに。


 だから、その告白は本当に突然だった。


「……え?」


 大学の中庭。


 昼休み。


 桜の葉が少しだけ揺れていた。


 目の前には、

 一人の女子学生。


 長い黒髪。


 整った顔立ち。


 白いシャツの袖を、

 少し強く握っている。


「ずっと気になってました」


 僕は周囲を見回した。


 たぶん誰か別の人だ。


「えっと……僕?」


「はい」


 即答だった。


 意味が分からない。


 彼女の名前は、

 確か――


「……篠崎さん?一緒の授業受けてたよね。」


「覚えててくれたんだ」


 嬉しそうに笑う。


 いや、そりゃ同級生だから名前くらいは。


 でも、接点なんてほぼ無い。


 篠崎玲奈。


 確か、大学側から何か表彰されていた人だ。


 ボランティアだったか、

 研究発表だったか、

 何かそんな感じ。


 僕の中では、とにかく、「すごい人」のカテゴリだった。


 一方の僕は。


 成績、中の下。

 運動、普通。


 サークル所属なし。


 特徴といえば、

 最近ちょっと怪異に巻き込まれているくらいだ。


「……なんで僕?」


 正直に聞いた。


 玲奈は少し困ったように笑った。


「分からないんです」


「え?」


「気づいたら、目で追ってて、いいな~って」


 風が吹く。


 彼女の髪が揺れる。


「最近、何してても正人くんのこと考えちゃうんです」


 真っ直ぐな目だった。


 嘘を言っている感じはない。


 だからこそ、余計に困る。


 なんだこれ。


 人生で初めての告白が、急に重い。


「その……少しだけでも、私を知ってもらえませんか?」


 断る理由も、

 受ける理由も、

 どちらも見つからなかった。


 僕は曖昧に頷いた。


 玲奈は、花が咲いたみたいに笑った。


 その日の夜。話を聞いたおやみが


「――あっちゃぁ」


 頭を抱えた。


「え、何」


「これはあかん。あかんわー」


 祖父の石も、珍しく黙っている。


「何が?」


 おやみは真顔だった。


「恋や、恋に決まってるやろ。鈍いな」


「いや、知ってるけど」


「普通のちゃう。やばいやつや」


 その声色に、

 少しだけ背筋が冷える。


 おやみはゆっくり僕を見る。


「まさとくん。

 あの子と手ぇ繋いだ?もしかして、キスしちゃった?。」


「まだだけど」


「よかったぁ……」


 心底安心した顔だった。


「何なんだよ。プライベートに口出すなよ。」


 すると祖父が、重く口を開いた。


『強すぎる想いは、時々“向こう側”へ届く』


「……は?」


『恋心はな。

 昔から怪異に近い』


 2人の言っている意味が分からない。

 ただの恋に何があるのか…


 けれど。


 二人とも、

 本気で言っている顔だった。


 おやみはため息をつき、

 床に座り込む。


「いやでも今どき、

 ここまで濃いの珍しいで……」


「濃い?」


「執着寸前」


 軽く言っているが、

 目は笑っていない。


「たぶんあの子、

 もう“混ざり始めてる”」


「何と?そりゃ化学の授業受けたけど…」


 おやみは、

 ゆっくり蔵の方角を見た。


「この土地と」


 部屋の空気が、

 一瞬だけ冷えた。


 祖父が低く呟く。


『よりによって、

 恋慕型か……』


「なにそれ怖い単語」


 おやみは僕を見て、

 真顔で言った。


「まさとくん」


「……なに」


「恋する乙女、

 舐めたら死ぬで」


 その瞬間。


 スマホが震えた。


 玲奈からのメッセージ。


『今、正人くんの家の前にいます』


 僕の背中を、冷たい汗が流れた。


 だって。


 まだ、

 家の場所なんて教えていない。

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