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継承される祠守  作者: さんご


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4/30

おやみ

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 笑い声は、

 急に止まった。


 蔵の中は静まり返り、

 聞こえるのは僕の呼吸だけだった。


 暗闇に、

 目が慣れていく。


 そして僕は気づいた。


 祠の前。


 黒い“何か”が集まっている。


 煙のような、

 泥のような、

 形を持たない闇。


 それが床を這い、

 ゆっくりと絡み合っていく。


「……っ」


 後ずさろうとした瞬間。


 闇が、

 人の形になった。


 女だった。


 背が高い。


 細い首。白い肌。古い着物。


 なのに。


「……え?」


 髪型だけ、

 完全にギャルだった。


 金に近い茶髪。


 ぐるぐるに巻かれた髪。


 しかも爪が長い。


 ネイルまでしている。


 古風な姿と現代の姿が喧嘩して、なぜか成立していた。


 しかも妙に似合っているのが腹立たしい。


 女は僕を見ると、

 にやりと笑った。


「――あら」


 声は、

 鈴みたいに綺麗だった。


「ご主人様、死んでしまったん?」


 その言葉に、

 石が淡く光る。


『久しぶりだな。おやみ』


 女――おやみは、

 大袈裟に肩をすくめた。


「久しぶりぃ?

 百年ぶりくらいに放置された側の気持ち考えたことある?」


『100年も放置してないだろう。死んだから仕方ない』


「そこを何とかするんが主人やろ」


『何とかした結果が石だ』


「だっさ」


 即答だった。


 祖父の石が、微妙に暗くなる。


 なんだこれ。


 怖い空間のはずなのに、

 急に親戚の会話みたいになった。


 おやみはため息をつき、

 また、僕へ視線を向けた。


 その瞬間。


 空気が変わった。


 さっきまで軽かった瞳が、

 一気に冷える。


「で?」


 彼女は、

 ゆっくり僕の周りを歩き始めた。


 カラン。


 高い下駄の音が鳴る。


「この子が次?」


 値踏みするみたいな目。


 獲物を見る獣にも似ていた。


 僕は動けない。


 近くに来るたび、

 妙な香りがした。


 線香。

 花。

 雨。

 それと少しだけ、

 血みたいな匂い。


「へぇ」


 おやみは僕の肩越しに顔を覗き込む。


「ちゃんと見えとるやん」


『見え始めたばかりだ』


「それにしては濃いなぁ」


 彼女は、

 僕の頬を指でなぞった。


 冷たい。


 でも、

 嫌な冷たさじゃない。


「名前は?」


「……正人」


「まさとくんね」


 おやみは笑う。


 けれど目は笑っていない。


「君、“寄る”体質やろ」


「寄る?」


『集まるという意味だ』


 祖父が補足する。


『昔からそういう人間がいる』


「灯りみたいなもんやね」


 おやみが言った。


「暗いとこに虫が寄るやろ?

 あれと同じ」


「いや、例え方最悪なんだけど」


「大丈夫大丈夫。まだ食われる側ってほどじゃないし」


「食われる!?」


『脅かすな』


「本当のことやん」


 おやみはケラケラ笑った。


 でも、

 その笑い声の奥に、

 何か別の音が混ざっている。


 大勢の囁き。


 彼女の影の中から聞こえていた。


 よく見ると。


 影が、

 一つじゃない。


 何人もの人影が、

 彼女の足元に重なっている。


 気づいた瞬間、

 ぞわりと鳥肌が立った。


 おやみは僕の反応に気づき、

 少し嬉しそうに笑った。


「あ、見えた?」


「……何、それ」


「うちの中身」


 さらりと言う。


『正人。あまり直視するな』


 祖父の声が低い。


『おやみは“器”だ』


「器?」


「そ」


 おやみは祠へ腰掛けた。


 着物なのに、

 座り方だけ完全に現代人だった。


「この蔵に流れてきた“残りもん”をまとめる役」


「残りもの……」


「未練とか怨みとか、

 帰れんかった想いとか、

 そういうやつ」


 彼女は笑う。


「人間ってさぁ、

 死んでも結構しつこいんよ」


 その瞬間。


 蔵の奥から、

 無数の視線を感じた。


 暗闇の中。


 誰かがいる。


 いや。


 一人じゃない。


 息を潜めて、

 こちらを見ている。


 おやみは僕を見つめた。


「で、まさとくん」


 彼女の瞳が、

 ゆっくり細くなる。


「君、“どこまで見える”?」


 その問いと同時に。


 祠の奥。


 暗闇の中で、

 何かがゆっくり目を開いた。

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