サイドストーリー ―おやみの人格問題―
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
おやみについて、最近分かってきたことがある。
まず。
こいつ、
めちゃくちゃ俗っぽい。
お菓子好き。
アイス好き。
ドラマ好き。
イケメン好き。
しかも、
妙に現代適応力が高い。
「新作チョコミント、
賛否分かれる味やなぁ」
「レビューサイトみたいな感想やめろ」
さらに。
食う。
普通に食う。
ポテチ。
アイス。
駄菓子。
ピザ。
この前なんて、
唐揚げを幸せそうに食べていた。
でも。
冷静に考えると、
おかしい。
「……どこ行ってるんだ?」
「ん?」
「食べたやつ」
「消えとるで?」
「それは見れば分かる」
問題は。
肉体が無いはずなのだ。
胃もない。
腸もない。
消化器官ゼロ。
なのに。
食べ物だけは、
ちゃんと消える。
意味が分からない。
「エネルギー変換?」
「気分やな」
「その回答、
物理学科殺せるぞ」
しかも。
記憶がある。
膨大に。
昔の祭り。
古い風習。
百年以上前の話。
かと思えば。
「今期アニメ、
作画やばいな」
現代知識もある。
脳も無いのに。
どこに保存してるんだ。
クラウドか?
神様Wi-Fiでもあるのか?
さらに。
人格が安定しない。
これが一番困る。
普段のおやみ。
軽い。
うるさい。
俗っぽい。
「まさとくーん、
ポテチ取ってー」
「自分で取れ」
でも。
時々、
別の顔を見せる。
甘い人格。
優しい。
静か。
妙に距離が近い。
「疲れとるやろ」
そう言って、
そっと隣に座る。
正直。
嫌いじゃない。
むしろ落ち着く。
だが。
さらに別方向もある。
筋肉。
あれである。
『鍛エロォォ!!』
「なんであの人格だけ圧が強いんだよ」
空気までムキムキになる。
しかも。
全部“おやみ”らしい。
意味が分からない。
「……結局、
どれが本物なんだ?」
ある夜。
正人は本気で悩んでいた。
軽いやつ。
優しいやつ。
筋肉。
どれも性格が違いすぎる。
同じ存在とは思えない。
だが。
おやみ自身は、
特に気にしていない。
「全部うちやで?」
「雑!!」
そして。
その夜だった。
部屋の空気が、
ふっと変わった。
祖父の石が、
静かに光る。
『来たか』
「え?」
障子の向こう。
誰かいる。
でも。
気配が違う。
静か。
重い。
おやみとも、
筋肉とも違う。
障子が開く。
そこにいたのは。
老人だった。
和服。
細い目。
白髪。
背筋だけ異様に真っ直ぐ。
「……は?」
老人は、
静かに座った。
そして。
「茶はないんか」
「誰!?」
おやみだった。
声で分かった。
でも。
完全に祖父。
空気が昭和。
いや大正。
なんなら江戸感まである。
「最近の若いもんは、
麦茶を冷やしすぎる」
「知らんがな!」
祖父の石が低く笑う。
『その人格は古いぞ』
「人格って言うなよ!!」
老人おやみは、
湯呑みを持つ仕草をした。
持ってないのに。
「わしなぁ、
昔は村の縁側担当やったんじゃ」
「何その役職」
「年寄りの話聞く係や」
たぶん。
本当にそうだったのだろう。
おやみは、
長い年月で色んな“人”を受け止めてきた。
泣く人。
怒る人。
恋する人。
筋肉に人生を捧げる人。
その残滓が、
人格として残っている。
つまり。
おやみの中には、
たくさんの“人間らしさ”が混ざっているのだ。
「……じゃあ、
今のその爺ちゃん人格も?」
「近所の縁側常連やな」
「混ざるなよ」
老人おやみは、
ふっと笑った。
「人はなぁ、
誰かとおると少しずつ混ざるんじゃ」
「……」
「長ぉ生きとると、なおさらな」
その瞬間だけ。
少しだけ、本物の土地神様みたいだった。
だが次の瞬間。
「ところで最近のイケメン俳優、
誰が人気なんじゃ?」
「急に俗へ戻るな!!」
おやみは、結局おやみだった。




