サイドストーリー ―玲奈のちょっと危ない乙女心―
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
篠崎玲奈は、
基本的に真面目である。
努力家。
誠実。
責任感が強い。
大学でも評判は良い。
しかし。
人間なので。
時々、
変な妄想もする。
例えば今。
大学の中庭で。
玲奈は本を開きながら、
静かに考えていた。
(もし……)
風が吹く。
桜の葉が揺れる。
(正人くんが、
私を巡って争ったらどうしよう……)
重症だった。
しかも相手が。
筋肉。
鬼塚先輩率いる、
あの筋肉集団である。
(「玲奈さんは渡さない!」って正人くんが……)
脳内正人が叫ぶ。
(「俺たちも譲れない!!」って筋肉のみなさんが……)
筋肉霊、
ポージング。
(ああ……っ)
玲奈は頬を押さえた。
(私って罪……!)
その時だった。
「玲奈さん!!」
鬼塚先輩が現れた。
無駄に爽やか。
後ろで筋肉霊が整列。
『オハヨウゴザイマス』
『今日モ筋肉日和』
玲奈は反射的に背筋を伸ばす。
「お、おはようございます」
「これ、
どうぞ!」
差し出されたのは。
高タンパク質プロテインバー。
「なんで!?」
「勉強で疲れた時にはタンパク質です!!」
善意100%。
怖い。
すると後ろの筋肉霊も頷く。
『糖質モ大事』
『バランス栄養』
「急に健康番組みたいになるなぁ……」
玲奈は苦笑する。
その瞬間。
筋肉たちがざわついた。
『笑顔……』
『尊イ……』
『今日モ鍛エラレル……』
完全に生きる活力になっている。
そこへ。
「玲奈?」
正人が来た。
コンビニ袋片手。
寝癖つき。
いつもの感じ。
玲奈の心拍数が、
一瞬で跳ね上がる。
「あ、正人くん」
「おはよ。
……何この圧」
筋肉たちが、
一斉に正人を見る。
『地味』
「まだ言う!?」
正人は一瞬だけ周囲を見回して、
ため息をついた。
「……あのさ」
妙に真面目な声。
玲奈と筋肉たちの視線が、
同時に集まる。
「玲奈さんは、渡さないから」
一瞬。
時が止まった。
『!?』
『渡サ……!?』
『宣戦布告……!!』
筋肉霊たちがざわめき、
空気が一気に張り詰める。
玲奈は、
「――――っ!?」
耳まで真っ赤になった。
「ち、ち、ちがっ……!」
正人は眉をひそめた。
「いや、ちがうちがう」
コンビニ袋を持ち上げる。
「これ、玲奈の分だから。。
横取りする人いたら嫌だなって」
一拍。
筋肉霊たち、沈黙。
鬼塚先輩が真剣な顔になる。
「……そういうとこだぞ、九条」
「なにが」
「玲奈さんを頼む」
「急に重い」
「俺たちは、
遠くから支えることしかできない」
「なんなのその失恋した騎士団みたいな空気」
玲奈は、
そのやり取りを見ながら思う。
(あぁ……)
少しだけ口元が緩む。
(なんか、
いいなぁ……)
もちろん。
玲奈は正人が好きだ。
それは絶対。
一筋。
揺るがない。
でも。
自分を好きな人たちがいて、
その中で正人が隣にいる。
その構図に。
ちょっとだけ。
乙女心が刺激される。
脳内で。
正人が玲奈を抱き寄せる。
筋肉たちがざわめく。
『ナンダト……!?』
『恋愛最終決戦……!!』
玲奈は顔を押さえた。
「……っ」
「玲奈?」
「だ、大丈夫……!」
正人は困惑している。
おやみが遠くで呟く。
「うわ、妄想モード入っとる」
「分かるの!?」
「恋慕系怪異舐めんな」
祖父の石が静かに光る。
『乙女は時々、自分で勝手に物語を作る』
「やめろぉ!!」
玲奈は真っ赤になった。
しかし。
そんな妄想をしながらも。
最後に辿り着く結論は、
いつも同じだった。
(……でも、
やっぱり正人くんがいい)
筋肉たちは格好いい。
頼もしい。
真っ直ぐ。
でも。
正人の、少し困った顔。
優しい声。
自然に寄り添う仕草。
それを見るたび。
玲奈の心は、
ちゃんと正人へ戻っていく。
その時。
正人がコンビニ袋から、
小さなプリンを取り出した。
「玲奈、
これ好きだったよね」
「……え?」
「前、
見てたから」
一瞬。
玲奈の思考が止まる。
筋肉霊たちも硬直。
『記憶シテイル……』
『自然ナ気遣イ……』
『強イ……』
鬼塚先輩が、
静かに天を仰いだ。
「勝てないな……」
玲奈は。
嬉しくて。
苦しくて。
幸せすぎて。
顔を隠した。
(あぁもう……)
心の中で叫ぶ。
(正人くん、そういうとこなんだよぉ……!!)
筋肉たちは、
静かにスクワットを始めた。
敗北を噛み締めるように。




