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継承される祠守  作者: さんご


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27/30

サイドストーリー ―祖父の石と物理の敗北―

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 祖父は石である。


 比喩ではない。


 本当に石だ。


 半透明で青く、

 少し丸い、

 親指サイズの石。


 それが喋る。

 しかも光る。


 冷静に考えると、

 かなり嫌な存在である。


 最初は正人も驚いた。


 しかし人間、慣れる。

 怖いくらい慣れる。


 今では。


「おはよう」


『うむ』


 くらいのテンションだった。


 ただ。


 祖父の石には、

 いくつか妙な特徴がある。


 まず。


 感情で光る。


 怒っている時は赤。


『馬鹿者』


 ピカァァァッ!!


「眩っ!!」


 無駄に発光量が高い。


 逆に。


 機嫌が良い時は白。


『ほう』


 ぽわぁ……。


 優しい。

 なんか仏っぽい。


 あと重要な話ほど、なぜか光量が増す。


『正人。よく聞け』


 ゴォォォォ……!!


「待って待って!!

 なんでレーザー兵器みたいに光るの!?」


『大事な話だからな』


「光量で伝えるな!!」


 逆に。


 どうでもいい話はあまり光らない。


『最近の炊飯器は優秀だな』


 ほんのり。


「そこ光る必要あった?」


『感動した』


 そして。


 祖父の最大の謎。


 食べ物の話をする。


 めちゃくちゃする。


『焼き魚はな、

 皮に旨味がある』


「へぇ」


『あと、

 味噌汁は少しぬるいくらいが良い』


「渋いな」


『卵焼きは甘い派だ』


「そこは好み分かれるな」


 普通に会話する。


 しかし。


 正人は毎回思っていた。


 ――いや。


 味、

 分からないだろ。


 石なのに。


 口もない。


 舌もない。


 胃もない。


 消化器官、

 ゼロ。


 なのに。


『最近のプリンは滑らかすぎる。

 昔ながらの固いやつが良い』


「なんで知ってるんだよ」


『記憶だ』


「便利ワードだなぁ」


 おやみはケラケラ笑う。


「おっちゃん、

 食レポ好きやもんな」


『食とは記憶だからな。生きた証でもある。』


「なんか深いこと言って誤魔化した!」


 しかも。


 祖父の石は、

 物理法則を完全に無視していた。


 まず。


 光源がない。


 なのに光る。


 熱も発生していない。


 なのに眩しい。


 さらに。


 時々浮く。


 意味が分からない。


 怒ると浮く。


『正人』


 ふわっ。


「怒ると浮くの!?」


『威厳だ』


「どういう原理!?」


 ある日。


 正人は本気で考えた。


 この石、

 何をエネルギーにして動いているのか。


 電池なし。


 充電なし。


 食事なし。


 睡眠なし。


 なのに、

 何年も活動している。


 永久機関である。


 人類が泣いて喜ぶ存在だ。


「……待って」


 正人はふと気づいた。


「これ、

 物理全部無意味じゃね?」


 祖父の石が静かに光る。


『うむ』


「認めるんだ」


『この世にはな。

 理屈の外側というものがある』


「物理学科が聞いたら死ぬぞ」


『そもそも、

 怪異を数式へ押し込めようとする方が無茶だ』


 おやみも頷く。


「まさとくん、

 かわいそうやもんな」


「何が」


「人生の最初に“物理無効存在”がおる」


 確かに。


 普通の子供は、

 ボールが落ちるとか、

 火が熱いとか、

 そういう“法則”から世界を学ぶ。


 しかし正人は。


『今日は気分が良い』


 ピカァァァ……。


「眩しっ」


 感情で光る石と暮らしていた。


 そりゃ混乱する。


「もしかして僕、

 物理苦手なのこれのせい?」


『かもしれんな』


「認めるなよ!」


 さらに悪いことに。


 祖父は時々、

 妙に説得力がある。


『正人。

 世界はな、

 理解できるものだけで構成されているわけではない』


「……」


『理屈は大切だ。

 だが、

 理屈に収まらぬものも確かにある』


 静かな白い光。


 少しだけ、

 部屋が暖かく感じた。


 正人はため息を吐く。


「なんか、

 たまに格好いいんだよなぁ」


『祖父だからな』


「石だけど」


『石だが』


 その時。


 祖父の石が突然赤く光った。


『……誰だ』


「え?」


 玄関の方から、

 気配。


 そして。


『正人くーん』


 玲奈の声。


「来る前に連絡して!?」


 祖父の石は、

 赤く点滅した。


『最近の若者は距離感が近い!!』


「祖父面するな!!」


 おやみが横で爆笑していた。


 その光景を見ながら。


 正人は改めて思う。


 たぶん自分の人生、

 もう普通の物理法則では説明できない。


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