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継承される祠守  作者: さんご


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26/30

【最終話】まだまだ、浮かんでこれないけどぬくもりは暖かい。

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

悲しみは、完全には消えなかった。


祠へ置いたはずなのに、

胸の奥に“薄い膜”のようなものが残っている。


触れれば痛むほどではない。


けれど、確かにそこにある。

そんな状態のまま、日常は続いていた。


玲奈は変わらなかった。


むしろ、以前より静かに優しい。


「最近、元気ないよね」


そう言って、

無理に明るくしようともしない。


ただ隣にいる時間が増えた。


昼休み。


キャンパスのベンチ。


風は軽く、空はやけに遠い。


「無理して話さなくてもいいよ」


玲奈はそう言って、

紙パックのジュースを僕の手に置いた。


その何気ない仕草が、

妙に現実的だった。


優しさというのは、

もっと劇的なものだと思っていた。


でも違った。


こういう、何も起きない時間の中にある。


「……ありがとう」


それだけしか言えない。


玲奈は少しだけ笑う。


「それ、ちゃんと聞こえたら十分」


その笑顔を見て、ふと気づく。

ああ、この人は。


最初に感じた“異常な重さ”とは違う。


今目の前にいるのは、

ただの人間だ。


普通に悩んで、普通に心配して、普通に誰かを好きになる人。

その“普通さ”が、なぜか救いになっていた。


胸の奥の悲しみが、少しだけ揺れる。


完全に消えたわけじゃない。


でも、

その上に別の感情が重なる。


安心。


安らぎ。


そして――


「……あれ?」


気づく。


いつの間にか、

玲奈のことを考えている時間が増えていた。


隣にいると落ち着く。


いないと少し気になる。


それだけの、単純な変化。


恋愛、だったかこれ。


いや。


そんな大げさなものじゃない気もする。


ただ、

この人の隣にいると、

世界が少しだけ“普通”に戻る。


その事実に気づいた瞬間、

胸の奥が小さく鳴った。


おやみが遠くで冷やかし気味に言う。


「それ、だいぶ危ないやつやな」


「何が」


「気づいたら始まってるやつ」


祖父の石は何も言わない。


ただ、静かに温かい。


玲奈がふとこちらを見る。


「正人くん、さ」


「うん」


「ちょっとだけ元気出てきた?」


その問いは、観察でも分析でもなく。

ただの心配だった。


僕は少し迷ってから答える。


「……たぶん、少しだけ」


玲奈は満足そうに頷いた。


「じゃあ、よかった」


それだけ。


それだけなのに、

胸の奥の沈んだ何かが、

少しだけ形を変えた。


悲しみはまだある。

消えていない。


でも今はそれだけじゃない。


人と関わることは、

何かを増やすことでもある。


そして僕はようやく気づく。


――これ、恋愛の話だったっけ。


そう思った瞬間、

少しだけ笑ってしまった。


世界は相変わらず不思議で、

厄介で、

そして妙にやさしかった。

これまで、読んで頂きありがとうございます。

また、別の機会に呼んで頂ければ幸いです。

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