【最終話】まだまだ、浮かんでこれないけどぬくもりは暖かい。
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
悲しみは、完全には消えなかった。
祠へ置いたはずなのに、
胸の奥に“薄い膜”のようなものが残っている。
触れれば痛むほどではない。
けれど、確かにそこにある。
そんな状態のまま、日常は続いていた。
玲奈は変わらなかった。
むしろ、以前より静かに優しい。
「最近、元気ないよね」
そう言って、
無理に明るくしようともしない。
ただ隣にいる時間が増えた。
昼休み。
キャンパスのベンチ。
風は軽く、空はやけに遠い。
「無理して話さなくてもいいよ」
玲奈はそう言って、
紙パックのジュースを僕の手に置いた。
その何気ない仕草が、
妙に現実的だった。
優しさというのは、
もっと劇的なものだと思っていた。
でも違った。
こういう、何も起きない時間の中にある。
「……ありがとう」
それだけしか言えない。
玲奈は少しだけ笑う。
「それ、ちゃんと聞こえたら十分」
その笑顔を見て、ふと気づく。
ああ、この人は。
最初に感じた“異常な重さ”とは違う。
今目の前にいるのは、
ただの人間だ。
普通に悩んで、普通に心配して、普通に誰かを好きになる人。
その“普通さ”が、なぜか救いになっていた。
胸の奥の悲しみが、少しだけ揺れる。
完全に消えたわけじゃない。
でも、
その上に別の感情が重なる。
安心。
安らぎ。
そして――
「……あれ?」
気づく。
いつの間にか、
玲奈のことを考えている時間が増えていた。
隣にいると落ち着く。
いないと少し気になる。
それだけの、単純な変化。
恋愛、だったかこれ。
いや。
そんな大げさなものじゃない気もする。
ただ、
この人の隣にいると、
世界が少しだけ“普通”に戻る。
その事実に気づいた瞬間、
胸の奥が小さく鳴った。
おやみが遠くで冷やかし気味に言う。
「それ、だいぶ危ないやつやな」
「何が」
「気づいたら始まってるやつ」
祖父の石は何も言わない。
ただ、静かに温かい。
玲奈がふとこちらを見る。
「正人くん、さ」
「うん」
「ちょっとだけ元気出てきた?」
その問いは、観察でも分析でもなく。
ただの心配だった。
僕は少し迷ってから答える。
「……たぶん、少しだけ」
玲奈は満足そうに頷いた。
「じゃあ、よかった」
それだけ。
それだけなのに、
胸の奥の沈んだ何かが、
少しだけ形を変えた。
悲しみはまだある。
消えていない。
でも今はそれだけじゃない。
人と関わることは、
何かを増やすことでもある。
そして僕はようやく気づく。
――これ、恋愛の話だったっけ。
そう思った瞬間、
少しだけ笑ってしまった。
世界は相変わらず不思議で、
厄介で、
そして妙にやさしかった。
これまで、読んで頂きありがとうございます。
また、別の機会に呼んで頂ければ幸いです。




