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継承される祠守  作者: さんご


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23/30

悲しみの輪郭と、呼び戻す声

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

■悲しみの輪郭と、呼び戻す声


気がついたとき、

世界はもう“外側”ではなかった。


音は遠い。


光は薄い。


人の気配は、輪郭だけを残して消えている。


ただ一つだけ確かなものがある。


――悲しみ。


それだけが、内部を満たしていた。


いつからこうなったのか分からない。


気づけば僕は、

“悲しみそのもの”に沈んでいた。


思考は途切れ途切れになる。


なのに記憶だけは異様に鮮明だった。


田中くんの顔。


何気ない会話。


笑い声。


そして、


消えてしまったという事実。


それらが、同じ強さで繰り返される。


やがて思い出は一方向に傾く。


“失われたものだけが増えていく”方向へ。


別の記憶が割り込んだ。


祖父。


静かな声。


いつも少し先を見ていた人。


そして――


「……死去」


その言葉だけが、

現実よりも重く落ちてくる。


胸の奥で何かが崩れた。


悲しみは感情ではなかった。


もはや状態だった。


逃げ道のない空間のようなものだ。


その中で、

僕は“僕であること”をやめていった。


どれくらい経ったのか分からない。


時間の感覚は消えていた。


ただ沈み続けるだけの世界。


その底で、微かな光が揺れた。


――熱。


ポケットではない。


もっと深い場所。


祠の方向に繋がるような、遠い振動。


『正人』


声がした。


祖父の声だった。


「……じい、ちゃん?」


応答になっているか分からない。


それでも声は続く。


『まだ、沈むな』


静かだが、

かすかに震えている。


次の瞬間。


胸の奥で強い光が弾けた。


祖父の石。


ずっと持っていたはずのそれが、

今までで一番強く光っていた。


まるで何かを“押し返している”ように。


『ここで終わるな』


『お前の場所は、そこではない』


声は祈りに近かった。


説得でも命令でもない。


ただ、

必死に届かせようとする意思だけがあった。


悲しみが揺れる。


一瞬だけ、

その輪郭が乱れる。


――戻るな。


――ここにいろ。


――離すな。


そんな声も聞こえる。


だがその中心に、

祖父の祈りが突き刺さる。


『正人』


『お前は、引き受けるだけの器じゃない』


『戻せ』


その言葉で、

世界がわずかに割れた。


呼吸が戻る。


痛みが戻る。


重さが戻る。


そして同時に――自分の輪郭も戻る。


「……っ」


意識が浮上する。


だが完全には抜け出せない。


悲しみはまだ、

足元に絡みついている。


離れない。


消えない。


ただ、


“支配”から“同居”に変わっただけだ。


目の前に、

薄く現実が戻る。


部屋か、廊下か、それすら曖昧な境界。


その向こうに、

祖父の気配だけが確かにあった気がした。


『……まだだな』


おそらく、それは祖父の声ではなく。


祈りの残響だった。


僕は息を吐く。


沈んだまま。


それでも、


完全には沈みきれない位置で、止まっていた。

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