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継承される祠守  作者: さんご


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休閑話 ―おやみの趣味が俗すぎる―

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

■休閑話 ―おやみの趣味が俗すぎる―


 おやみは怪異である。


 長年、土地に積もった“想い”の集合体。


 祠そのものと言ってもいいぐらいだ。


 人の願い、

 未練、

 祈り、

 後悔。


 そういうものを受け止め続けて、

 形になった存在。


 ――らしい。


 なのに。


「うっっっっっす!!!!

 この俳優、

 顔が良すぎる!!!!」


 僕の部屋で、

 イケメン雑誌を抱えて転がっていた。


「いやお前、

 何してんの?」


「見て分からん?

 眼福や」


「祠が言う台詞じゃない」


 おやみは、

 いつの間にか現代文化へ適応していた。


 しかも異常に早い。


 最初は、テレビを見て驚いていた。


「箱の中に人おる!!だいぶ薄くもなったな!」


 とか言っていたくせに。


 三日後には。


「このドラマ脚本弱いな。4K放送すごいな。イケメンがイケメンに見える。」


 とか評論し始めた。


 吸収速度が怖い。


 さらに謎なのが。


 こいつ、

 やたらコンビニ文化に強い。


「新作ポテチ出てるで、あのコンビニのスイーツがうまいで!」


「なんで知ってんの?どうやって食べてきたん?」


「情報収集や」


「絶対違う」


 気づくと食べている。


 ポテチ。


 しかも。


 妙にこだわりがある。


「うすしおは基礎や。

 基礎が強い文化は信用できる」


「何評論してんの」


「コンソメは気分。

 のり塩は夜。

 バター醤油は邪道や!」


「知らんがな」


 祖父の石ですら、

 時々引いていた。


『……俗に染まりすぎでは?』


「だって現代おもろいし」


 そして。


 おやみ最大の謎。


 スイカバーである。


 夏。


 冷凍庫を開けると、

 なぜか入っている。


「また食ってる……」


 縁側で、

 おやみがスイカバーをかじっていた。


 カリッ。


「うま……」


「お前、

 昔そんな食べ物ないだろ」


「ないな」


「じゃあなんで好きなんだよ」


 おやみは真顔で言った。


「夏の概念が詰まっとる」


「概念で食うな」


「あと種チョコがええ」


 急に俗。


 しかも。


 スイカバーを食べる時だけ、

 妙に静かになる。


 風鈴の音。


 夕暮れ。


 赤いアイス。


 おやみは目を細めて言う。


「人間、

 夏になると色んな感情置いていくんよな」


「急に怪異っぽいこと言う」


「祭りとか、

 恋とか、

 終わりとか」


 少しだけ、

 遠い目。


「せやから、

 夏の味って濃いねん」


 なるほど。


 少しだけ納得しかけた。


 しかし次の瞬間。


「あと当たり棒出るとテンション上がる」


「台無しだよ!!当り付きじゃねーよ」


 そして。


 おやみが一番好きなのは、

 実はドラマだった。


 しかも。


 ドロドロ系。


「うわぁ……

 浮気や……」


「そんな真剣に見る?」


「修羅場きた!!」


「なんで目キラキラしてんの」


 昼ドラ。


 恋愛泥沼。


 愛憎劇。


 裏切り。


 復讐。


 おやみ、めちゃくちゃ好きだった。


「人間、感情極まると本音出るからなぁ」


「嫌な分析するな」


「ここがええねん。

 “建前が剥がれる瞬間”」


 ポテチを食べながら、

 真顔で頷く。


「怪異って、

 結局そういう“溢れた感情”やし」


 その時だけ。


 少しだけ、

 本来の姿が見える。


 おやみは、

 本当に“想いの受け皿”なのだ。


 嬉しかった想い。


 悲しかった想い。


 報われなかった恋。


 言えなかった本音。


 行き場を失った感情。


 それらをずっと、

 この土地で受け止め続けてきた。


 だから。


 人間の感情が濃いものほど、

 惹かれてしまう。


「つまりお前、

 人間観察が趣味?」


「趣味というか生態やな」


「野生動物みたいに言うな」


 するとおやみは、

 急に真顔になった。


「まさとくん」


「なに」


「恋愛ドラマ見てると、

 だいたい途中で“こじれる前に話せ”ってなる」


「分かる」


「でも人間、

 話さんのよなぁ」


「まあ……」


「せやから怪異になる」


「スケールがでかい」


 祖父の石が、

 低く笑った。


『昔から、

 人は勝手に拗れる生き物だからな』


 その時。


 テレビの中で。


『あなたを愛してたのに!!』


 女優が泣き叫んだ。


 おやみが静かに頷く。


「うんうん。

 これこれ」


「何が楽しいんだよ」


「感情が煮詰まっとる」


 もはや鍋の感想だった。


 その夜。


 僕は気づいた。


 おやみの周囲って、

 いつも少しだけ人間臭い。


 ポテチの匂い。


 アイスの棒。


 散らかった雑誌。


 くだらないテレビ。


 笑い声。


 きっと。


 長い時間、

 人間を見すぎたのだ。


 だから怪異なのに、

 こんなにも俗っぽい。


 おやみは、

 スイカバーをかじりながら笑った。


「人間って、

 めんどくさいけど飽きへんなぁ」


 たぶん。


 それが、この土地の本音だった。


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