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継承される祠守  作者: さんご


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20/30

休閑話 ―正人の日常―

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 九条正人という人間を、

 一言で表すのは難しい。


 天才ではない。


 スポーツ万能でもない。


 イケメンというほどでもない。


 かといって、

 陰気というわけでもない。


 大学のどこにでもいる、

 少し背の高い普通の男子学生。


 成績は中の中。


 講義中は真面目に聞くが、

 提出期限ギリギリでレポートを書くタイプ。


 運動は嫌いじゃない。


 中学まではサッカーをしていたが、

「プロは無理だな」

 と早々に悟って、

 高校からは帰宅部になった。


 休日は、

 漫画を読んだり、

 アニメを見たり、

 ゲームをしたり。


 特に熱狂的な趣味があるわけではない。


 深夜アニメを見て、

「いや主人公のメンタル強すぎるだろ」

 とか言いながら寝落ちする、

 実に平均的な男子大学生である。


 恋愛経験はゼロ。


 本人も特に隠していない。


「彼女とかいたことないの?」


 と聞かれると、


「ない」


 と即答する。


 悲壮感もない。


 開き直りでもない。


 本当に「ない」だけである。


 ただ、

 そんな正人には、

 昔から妙な特徴があった。


 なぜか、

 男友達から相談される。


 やたらされる。


 高校時代。


「実は親と喧嘩してさ……」


「バイト辞めたいんだけどどう思う?」


「告白ってLINEでしていいと思う?」


「人生って何なんだろうな」


 なぜか来る。


 しかも重い。


 正人は別に、

 カリスマがあるわけではない。


 話術が巧みなわけでもない。


 だが、

 話を最後まで聞く。


 途中で茶化さない。


 適当に流さない。


 分からない時は、

「分からん」

 と正直に言う。


 それでも、

 相手のことはちゃんと考える。


 だから相談した側は、

 妙にスッキリして帰っていく。


「お前に話すと整理できるんだよな」


 とは、

 高校時代から何度も言われた言葉だった。


 結果。


 正人の周囲には、

 自然と男友達が集まっていた。


 昼休み。


 大学食堂。


「なあ正人」


「ん?」


「俺、

 別れるべきかな」


「重っ」


 カレーうどんをすすっていた正人が、

 真顔になった。


「いやでも、

 最近会話なくてさ……」


「話し合った?」


「まだ」


「じゃあまず話せよ」


「……お前、

 そういうとこ真面目だよな」


「別れる前に会話しろは普通だろ」


 すると横から別の友人が言う。


「正人ってさ、

 なんか相談しやすいんだよな」


「顔が無害だからじゃね?」


「それ悪口?」


 そんな感じで、

 気づけば中心にいる。


 本人にその自覚はあまり無い。


 だが、

 ひとつだけ。


 誰も正人に相談しない分野があった。


 勉強である。


 理由は単純。


 正人、

 説明が壊滅的に下手だった。


「ここさ、

 なんでこの公式使うの?」


「えっと……

 なんかこう、

 いい感じに辻褄が合う」


「終わってる」


「いや感覚では分かってるんだって!」


 数学。


「つまりこの年代は、

 時代背景がこう動いて――」


「どこからその時代背景出てきた?」


「……雰囲気?」


「歴史を雰囲気で語るな」


 英語。


「この文法ってどう読む?」


「気合」


「帰るわ」


 結果。


 人生相談の列はできるのに、

 試験前だけ誰も寄ってこない。


 むしろ避けられる。


「正人、

 今回のテストやばい」


「俺も」


「安心した」


 そんな男だった。


 だから本人も、

 自分が「特別」だと思ったことはない。


 怪異に巻き込まれるまでは。


 その日の夜。


「なるほどなぁ」


 おやみが、

 ポテチを食べながら頷いていた。


「何が」


「まさとくん、

 昔から“聞く側”やったんや」


「まあ相談は多かったかも」


「それ、

 この土地の血やで」


「また始まった」


 祖父の石が、

 低く笑う。


『昔から九条の人間は、

 人の悩みを抱え込む性質がある』


「嫌な家系だな」


『器だからな』


「雑な説明!」


 おやみは笑いながら、

 ぽつりと言った。


「でもまあ、

 優しい人って、

 だいたい自分のこと後回しやからな」


 正人は少し黙った。


 その時。


 スマホが震えた。


『相談あるんだけど』


 男友達からだった。


「……またか」


「人気者やん」


「恋愛相談なら料金取ろうかな」


 そう言いながら、

 正人は通話ボタンを押した。


 たぶん明日も、

 普通の日常だ。


 少なくとも、

 本人はそう思っていた。

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