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継承される祠守  作者: さんご


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18/30

収束する方程式

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 怒りが、限界まで膨れ上がっていた。


 教授の権威。

 学生の論理。

 そしておやみの共鳴。


 三つの感情が一点に集まり、

 教室そのものが崩壊寸前だった。


 その中心に立たされた僕は、完全に思考停止していた。


「まとめろ」と言われても、物理も哲学も知らない。


 できるのはせいぜい、数学の真似事くらいだ。


「えっと……x+y=zは……」


 口から出た瞬間、

 自分でも何を言っているのか分からなかった。


 が、正人が話した内容が黒板に浮かび上がる。


「xが……あって……yが……足されると……zで……」


 支離滅裂。


 完全に終わっている。


 しかし。


 空気が変わった。


「……ん?」


 教授の目が止まる。


 黒板に残っていた破壊された数式の残骸と、

 僕の“意味不明な式もどき”が重なる。


 教授の怒りが、一瞬だけ消えた。


「……待て」


 低い声。


「その式……」


 違う。


 何も違わない。


 ただの適当だ。


 しかし教授は違った解釈をしていた。


「これは……変換式か?」


「え?」


 教室がざわつく。


 学生たちも黒板を見る。


「未知のエネルギー変換モデル……?」


 勝手に意味が生まれていく。


 勝手に格上げされていく。


 そして。


 怒りが止まった。


 教授の怒りは、“思考”へと変質した。


「……仮説としては成立する可能性がある」


 学生が反応する。


「検証できます」


 空気が一気に変わる。


 さっきまでの殺意にも似た圧が、

 方向性を持ちはじめた。


 怒りが消えたのではない。


 “問題解決欲”に変換されたのだ。


 祖父の石が静かに言う。


『変換されたな』


「なにが」


『感情エネルギーの相転移だ』


「かっこよく言わないで、意味わからん!」


 しかし現実は静かに証明していた。


 机が元の位置へ戻る。


 浮いていた黒板が落ち着く。


 空気の圧が消える。


 教室が“授業の空気”に戻っていく。


 その中心で、

 僕はただ立ち尽くしていた。


「……助かった?」


 おやみの声が横からした。


 振り返ると、

 いつものおやみだった。


 男の姿は消えている。


 軽く伸びをしている。


「いやぁ……危なかったな」


「お前のせいでもあるからな?」


「共鳴しただけやし」


 悪びれない。


 教授は黒板を見ながら呟く。


「……興味深い」


 学生も頷く。


「新しい解法かもしれません」


 いや違う。


 ただの適当だ。


 でも誰も気づいていない。


 もはや真実は重要ではないらしい。


 祖父が静かに締める。


『正人』


「……はい」


『お前は理論ではなく“変換点”だな』


「やめてその評価」


 教室はいつの間にか、

 静かに通常授業へ戻っていた。


 黒板には、

 謎の数式だけが残されている。


 x+y=z(仮)


 それを見ながら、

 僕は深く息を吐いた。


「物理……もう嫌いでいいよね」


 おやみは笑った。


「まぁ、今日のは物理というより感情工学やな」


 それだけは、

 絶対に学問にしないでほしいと思った。

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