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継承される祠守  作者: さんご


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17/30

共鳴する怒り

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

黒板に走ったひび割れが、室全体へと広がっていく。


――バキ。


乾いた音。


異空間に迷い込んだような暗闇に包まれる。

息を呑む音だけが響く。


「……何が起きてる?」

誰かの声。

数人の学生は、まだノートを開いたままだった。

黒板ではなく、いつもの講義の続きを待つように。


真面目に授業を受けていた生徒の「理由も分からない苛立ち」も場に混じりあう。


その問いは誰にも届かない。


教授の目は、もはや学生を見ていなかった。


そして。


そこにおやみはやって来た。


「うわぁ……最悪やなこれ」


軽い声。


「怒りが増幅しとる!」


暗闇の中に、おやみが立っていた。


だが。


いつものおやみではない。


輪郭が揺らいでいる。


この空間に現れたせいか、空気がねじれるように変質し、次の瞬間――


彼女の姿が変わった。


男だった。

筋肉質の男。


あのウエイトサークルの、

鬼塚先輩に似た“圧”。


いや。


違う。


もっと根源的だ。


怒りそのものを形にしたような存在。


「……え」


僕は思わず声を漏らす。


「おやみ……?」


その男は笑った。


「せやで」


口調はそのままなのに声は変わっている。


低く、響く声。


確かに“おやみ”の癖が残っていた。


「強い思いが流れ込んでくるし、共感しすぎたわ」


「影響受けすぎじゃない!?」


言いたかった。


でも言えなかった。


教室の空気が、さらに歪んでいる。


教授の怒り。学生の理論的対抗心。


そして、

“おやみ(男形態)”の共鳴怒気。


三つが混ざり合い、

空間そのものが唸っていた。


照明は消えたまま。


だが見える。怒りが。

形を持っている。


教授の背後には“権威の怒り”。


学生の周囲には“正義の怒り”。


そしておやみの周りには“共鳴の怒り”。


それぞれが、

渦のように回転し、力場を形成している。


その中心にいるのは――僕。


「なんで俺が中心なんだよ!!」


叫んだ瞬間。


三方向から圧が飛んだ。


バキン!!


机が弾ける。


空気が裂ける。


物理的な衝突ではない。


“感情の衝突”だ。


教授が低く言う。


「その生徒を排除すれば、議論は安定する」


学生が答える。


「観測対象の排除は不正確です」


おやみ(男)が笑う。


「せやな。でもまぁ……

観測も干渉も同時に起こしとる観測者は、

物理的には一番厄介や」


三者の矛先が同時に僕へ向く。


ぞわりとした。


学生は、場違いなほど冷静に笑い、

「待て。彼なら新しい理論を持っている可能性が…」


待ってほしいのはこっちだ。


その瞬間。


祖父の石が強く光った。


『正人』


「なに?助けて!!」


『これは昔からの構造だ』


「昔話聞いている場合じゃないんだけど!」


祖父は淡々と続ける。


『家の家系はな』


「今!?今それ話す!?」


『村のまとめ役だった』


空間の圧がさらに強くなる。


『相談役であり』


机が浮き始める。


『トラブル処理係でもあった』


壁に亀裂が走る。


『積もった感情を整理し』


怒りが“形”として増殖する。


『祠に封じてきた』


「それ早くやってよ!!」


祖父は続ける。


『だが今回は違う』


「何が!?」


『量が多すぎる』


最悪の宣告だった。


おやみが男の姿のまま、我に返ったのか


「つまり全部漏れとるってことやな」


「軽く言うな!」


教授が叫ぶ。


「結論を出せ!!」


学生が叫ぶ。


「反証が不完全です!!」


おやみが叫ぶ。


「とりあえず落ち着こか!!」


全員の怒りが同時に爆発した。


――ドンッ!!!


空間が歪む。


黒板が砕ける。


机が浮く。


重力が揺れる。


その中心で、僕は思った。

もうこれ、物理じゃない。


その時だった。


祖父の声が静かに響く。


『正人』


「また、なに!!」


『“まとめろ”』


「どうやって!!」


『それがお前の役目だ』


暗闇の中で。


三つの怒りが、僕へと収束し始めた。


教授の怒り。


学生の怒り。


そしておやみの共鳴怒り。


全てが。


一点に向かう。


僕は叫んだ。


「無理だろ!!!」

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