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継承される祠守  作者: さんご


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13/30

筋肉は、恋に弱い

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 空気が一変した。


 鬼塚先輩の背後で膨れ上がっていた筋肉霊たちが、

 一斉にざわつき始める。


『鍛エロォォォ!!』


 その声が、

 一瞬だけ乱れた。


 次の瞬間。


 部室全体の“筋肉の圧”が、

 こちらへ収束する。


 囲まれた。

 完全に。

 逃げ場はない。


「終わった……」


 僕は本気でそう思った。


 友人の健太は、

 なぜか遠くでスクワットを見ていた。


 いや見ろよこっちを。


「お前ほんと運悪いな〜」


 軽い。

 軽すぎる。


 こいつには見えていない。

 鬼塚先輩の背後で、うごめく巨大な筋肉霊も。

 床を埋める“鍛えろ”の圧も。

 ただの熱血サークルにしか、見えてないんだ。


 筋肉霊が、腕を伸ばす。

 圧が物理になる瞬間。


 その時だった。


「……正人くん?」


 声。


 振り返る。


 玲奈が立っていた。


「え?」


 ここに来る理由がない。


「なんでここに」


「たまたま」


 絶対違う。


 玲奈は少し頬を膨らませた。


「最近ずっと気になってて……」


「それ気になりすぎじゃない?」


「つい後つけちゃった」


 ストーカー適性を軽く言うな。


「で……浮気してない?」


「何と」


「筋肉と」


「概念が広すぎる」


 玲奈はふっと笑った。


 その瞬間。


 空気が変わった。

 筋肉霊たちが、一斉に動きを止める。

 鬼塚先輩ですら、一瞬だけ硬直した。


「……え?」


 低いざわめき。


 さっきまでの暴力的な圧が、霧みたいに薄れていく。


 筋肉霊たちが、玲奈を見た。

 じっと。

 凝視。


 そして。


『……良イ』


 誰かが呟いた。


 部員の誰かがうっとりしたように肩を落とす。


『鍛エル価値……アリ』


「は?」


 玲奈は首を傾げる。


「え、なにこれ」


 鬼塚先輩が、ゆっくりと姿勢を正した。


「……貴女は」


 声が急に落ち着いている。


 さっきまでの狂気が嘘みたいだった。


「美しい」


「え?」


 筋肉霊たちが、一斉にざわめく。


『理想体型』

『理想存在』

『モチベ上昇』


 僕は理解した。


 最悪の構造を。


 こいつら。


 “モテたい”が根源だ。


 筋肉とは、異性に認められたい衝動の具現化。


 つまり。


 玲奈は。


 最上位の“刺激”だった。


 鬼塚先輩が、深く頭を下げる。


「あなたのために……鍛えたい」


「え?」


 玲奈は完全に困惑していた。


 その周囲で、筋肉霊たちが急に整列し始める。


 腕立て。


 ポージング。


 謎の集団パフォーマンス。


 さっきまでの暴走はどこへ。


 ただの“アピール大会”になっていた。


『見テ……』

『筋肉……』

『筋肉……』


 完全に方向性が変わった。


 おやみが呟く。


「うわぁ……」


「なにこれ」


「恋愛系筋肉霊や」


 祖父の石が静かに光る。


『……単純だな』


「それ褒めてる?」


 鬼塚先輩が玲奈に向かって言う。


「君のために……俺はさらに鍛える!」


「え、いや別に……」


「応援してほしい!!」


 筋肉霊たちが一斉にポーズ。


『応援……』

『応援……』


 玲奈は僕を見た。


「正人くん……これ何?」


「俺が知りたい」


 その時。


 筋肉霊の一体が、ふと僕を見た。


『……オマエ』


 空気が一瞬冷える。


 また来るのか。


 そう思った瞬間。


『地味』


「ひどい!!」


 全力で傷ついた。


 玲奈が小さく笑う。


「ふふ」


 その笑顔に反応して、筋肉霊たちが再び騒ぐ。


『笑顔……尊イ』

『筋肉が震える……』


 完全に制御不能な方向へ進んでいた。


 おやみがぽつりと言う。


「この世界、だいたい恋で崩壊するな」


 祖父が締める。


『正人』


「はい」


『帰れ』


「はい」


 筋肉霊は今、完全に“恋に夢中なトレーニング集団”へ進化していた。


 怖いのに。

 なぜか少しだけ。

 平和だった。


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