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継承される祠守  作者: さんご


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12/30

筋肉バカは怖すぎる

「絶対入らないからな」


 僕は念押しした。


 大学のキャンパスを歩きながら、

 隣の友人――健太が呆れ顔をする。


「見学だけでビビりすぎだろ」


「いや絶対暑苦しいじゃん」


「偏見だって」


 偏見ではない。

 だって相手はウエイトサークルだ。

 “筋肉”を趣味にしている人種である。


 怖い。

 単純に。


 でも。

 なぜか、今日は妙な胸騒ぎがしていた。

 嫌な予感。


 最近の僕は、この感覚を信用している。


 というか、

 怪異関係で外したことがない。


 ポケットの中では、祖父の石が静かに温かい。


『……近いな』


「やっぱり何かあるの?」


『濃い』


「何が」


『想いだ』


 嫌な思い出しか出てこない。

 体育館の地下トレーニング室。


 扉を開けた瞬間。


「「「ウオォォォォ!!!」」」


 圧だった。


 声量が。

 熱量が。

 汗が。

 空気がもう筋肉。


 鉄と汗の匂いが混ざり、

 室内は完全に異世界だった。


 ベンチプレス。

 スクワット。

 ダンベル。

 男。

 男。

 男。


 むさ苦しさの暴力である。


「帰りたい……」


「早いって」


 健太は笑っていた。


 でも僕は気づいてしまった。

 この空間、妙に“揺れている”。


 熱気じゃない。

 空気の奥に何か別の圧がある。


 先輩たちが後輩へ指導している。


「ラスト一回!!」


「はいッ!!」


「筋肉は裏切らねぇ!!」


「はいッ!!」


 宗教か?

 いや、宗教だった。

 筋肉教だ。

 その時だった。


 ドン!!


 床が揺れる。

 視線が集まる。

 中央。


 一際大きな男が、

 バーベルを持ち上げていた。


 でかい。

 とにかくでかい。

 身長も筋肉も声も全部大きい。


 短髪。

 鋭い目。

 焼けた肌。


 そして。


「――限界の先に、筋肉はあるッッッ!!!」


 うるさい。


 でも。


 なぜか全員が感動していた。


「部長だ」


 健太が小声で言う。


「三年の鬼塚先輩」


 鬼塚。

 名前まで強い。


 鬼塚先輩は、後輩たちへ熱血指導をしていた。


「自分を追い込め!!昨日の自分を殺せ!!殺してから筋肉は成長する!!」


「「はいッ!!」」


「筋肉とは魂だァァァ!!」


「「はいッ!!」」


 怖い。

 圧がすごい。

 そして。

 見えてしまった。


 鬼塚先輩の背後。

 黒い。

 巨大な。

 何か。


「……っ!?」


 僕は思わず息を呑んだ。


 筋肉だった。


 いや、

 筋肉の形をした闇。


 異様に巨大な上半身。


 隆起した腕。

 僧帽筋だけが異様に発達し、筋繊維が、呼吸するみたいに脈打っていた。

 それが鬼塚先輩の背後で、ぬらりと蠢いている。


 しかも、増えていた。

 歴代の筋肉たち。


 何人ものマッチョな影が、鬼塚先輩の背後へ重なっている。

 そして、部員たちの背後にも、それぞれ重なっていた。


 祖父の石が、低く唸る。


『……まずいな』


「何あれ!?」


『積みすぎだ』


「また!?」


『鍛錬と執念が、土地と共鳴している』


 もう何でも共鳴するじゃんこの土地。


 おやみの言葉を思い出す。


 “積もった想い”。


 つまり。


 筋肉も、積もる。


 鬼塚先輩がこちらを向いた。


 ギロリ。

 目が合う。


 瞬間。

 背後の巨大筋肉霊が、ぬるりと笑った。


「――見学かァァァ!!」


「ひっ」


 声が腹へ響いた。


 鬼塚先輩が歩いてくる。


 床が揺れる。


 なんで人間が歩くだけで振動するんだ。


「ようこそ!!筋肉の世界へ!!!」


 バン!!


 肩を叩かれる。

 死ぬかと思った。


 物理で。


「えっと……見学だけで……」


「素晴らしいッ!!」


 会話が成立しない。


「筋肉に興味を持つ!!それが第一歩だァァァ!!」


 背後の筋肉霊たちが、一斉にこちらを見る。


 怖い。


 圧迫感がホラー映画。


 祖父が呟く。


『正人』


「なに……」


『逃げろ』


「理由!!…もう?」


『あれは“鍛えたい”ではない』


 鬼塚先輩の瞳が、異様に輝いていた。


『“鍛えねばならない”だ』


 その瞬間。


 鬼塚先輩が、僕の肩を掴む。


「君」


「は、はい」


「細いな」


 嫌な予感。


 ものすごく嫌な予感。


 鬼塚先輩は、真っ直ぐな笑顔で言った。


「救わねば」


「何から!?」


 背後の筋肉霊たちが、ドクン、と脈打った。


 そして。


 体育館中に、低い声が響く。


『鍛エロ』


『鍛エロ』


『鍛エロ!』


 怖すぎる。


 恋愛怪異より方向性が違って怖い。


 おやみが突然、

 僕の背後へ現れた。


「うわぁ」


「助けて!!」


「これアカンやつや」


 おやみは真顔だった。


「筋肉バカ、想像以上に厄介やわ」


 鬼塚先輩が、満面の笑みで叫ぶ。


「今日から君も!!“仲間”だァァァ!!!」


 その瞬間。


 筋肉霊たちが、

 一斉にこちらへ腕を伸ばした。

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