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継承される祠守  作者: さんご


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11/30

後日談 ―恋慕の理由―

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 後になって思えば。


 玲奈が正人に惹かれた理由は、

 決して「突然」ではなかった。


 ただ、

 本人ですら説明できないほど、

 静かに、

 深く、

 積み重なっていただけだ。


 篠崎玲奈は、

 何をするにも全力だった。


 講義も、

 研究も、

 ボランティアも。


 中途半端が嫌いだった。


 誰かが困っていれば助けるし、

 頼まれれば断れない。


 だから周囲からは、

「すごい人」

 と言われていた。


 けれど実際は。


 常に張り詰めているだけだった。


 期待に応える。

 役割を果たす。

 ちゃんとしている自分でいる。


 それを続けすぎて、

 玲奈自身、

 自分が疲れていることにも気づいていなかった。


 あの日までは。


 大学図書館の閉館間際。


 資料を抱えたまま、

 玲奈は廊下でしゃがみ込んでいた。


 頭痛。

 寝不足。

 空腹。


 でも、

 まだやれると思っていた。


 やらなければならないと、

 思っていた。


 そこへ、

 正人が通りかかった。


「……大丈夫?」


 ただ、

 それだけだった。


 特別な言葉じゃない。


 ドラマみたいな展開もない。


 けれど。


 玲奈は妙に覚えている。


 正人が、

 無理に励まさなかったこと。


 頑張れとも、

 偉いとも言わなかったこと。


 ただ自然に、

 コンビニで買った温かいカフェオレを差し出して、


「頑張りすぎると壊れるよ」


 そう言った。


 その言葉に、

 玲奈はなぜか泣きそうになった。


 正人の仕草は、

 どこか古かった。


 席を譲る時の動き。

 物を渡す時の手。

 人の話を聞く時の目線。


 まるで、

 長い年月をかけて磨かれたみたいに自然だった。


 後から思えば。


 あれは、

 代々この土地を見守ってきた家系の癖だったのかもしれない。


 人を慰めるための所作。


 不安を鎮める声。


 傷ついた誰かへ、

 無意識に寄り添う在り方。


 正人自身は、

 そんなものを自覚していなかった。


 けれど玲奈は、

 確かに感じ取ってしまった。


 この人のそばは、

 少しだけ安心できる、と。


 だから気づけば、

 目で追っていた。


 声を探していた。


 会えない日が落ち着かなくなっていた。


 それは恋だった。


 きっと普通なら、

 そこで終わっていた。


 ただ好きになって、

 少し勇気を出して、

 少しずつ距離を縮める。


 ありふれた、

 春の恋。


 ――もし。


 この土地が、

 人の想いを喰らう場所でなければ。


 玲奈の想いは、

 真面目すぎた。


 一途すぎた。


 そして、

 全力すぎた。


 願い。

 恋慕。

 執着。


 その境界が、

 少しずつ曖昧になっていく。


 知らぬ間に。


 土地が、

 その感情へ応え始めていた。


 夜。


 おやみは珍しく静かだった。


「……まあでも」


 畳へ寝転がりながら、

 ぽつりと言う。


「あの子、

 本気でまさとくん好きなんは分かる」


「そんな改めて言われても困るんだけど」


「怪異抜きでも、

 ちゃんと恋してる顔やった」


 おやみは天井を見る。


「せやから余計に危ないんやけど」


 祖父の石が、

 小さく唸る。


『想いは力になる。

 昔からそういうものだ』


「ロマンチックに言うなよ」


『実際ロマンだ。

 怪異の大半は、

 人間の願いから生まれる』


 その言葉に、

 正人は少しだけ黙った。


 窓の外では、

 春の風が吹いていた。


 どこか遠くで、

 鈴の音が鳴った気がした。

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