果たされた約束
朝食を食べ終えた後、ジルさんはいつも通り戻っていった。若干不満そうな顔をしていたけど。
「それでどうだったの?」
ご飯を食べ終わって、私の口を拭いていたアリサがそう言う。今日は、ソース系は付いていないはずと思ったら、パンに付いていたバターでテカテカになっていたらしい。最近少しずつ改善していたというのに、私もまだまだ甘い。
「んぐ……取り敢えず、全ての元凶を見つけたら、襲われたから返り討ちにした」
「それって大丈夫?」
「最後の一人は自首するって言うから見逃したよ。もし、これで私が手配されるような事があったら、その最後の一人の命を取ってから街を出るかな」
「その時は空から逃げる?」
アリサが私を抱えて空を飛べば逃げるのは容易い。でも、絶対に目立つ。
「う~ん……目立つしアリサも手配されるから、アリサは先に街を出るって方が良いかな。まぁ、そうなったらの話だよ。軽く騎士団の人に盗賊の件がどうなったか聞いて確認してみよう」
「うん。それでその後は?」
「え?」
「その後は?」
アリサが、私をベッドに追い詰めながら訊いてくる。完全にユイリナさんとの事がバレている事と分かる。首に跡が残っているのだからバレるのは当たり前かもしれないけど。
「ユイリナさんと鉢合わせて匿って貰った。ユイリナさんも私が家にいたって証言してくれるって。実際家にいたから……」
「ふ~ん……ユイリナさんの家にいたから遅くなったって事ね。なら良かった」
アリサはそう言って私を抱きしめながら頭を撫でてくる。
「ヒナがちゃんと気持ちに正直になれて嬉しいよ」
アリサ的には、私がユイリナさんと関係を持てた事が嬉しいらしい。アリサが不機嫌そうにしていたのは、私がどことも知れぬ人と関係を持ったのかもしれないと思ったからなのかな。
「もし娼館とか行くなら、私に言ってくれれば良いから。お金の無駄遣いは駄目」
アリサに言えば行って良いではなく、娼館に行くくらいなら自分としなさいという話だった。確かに傍にアリサがいるので、無駄遣いではあるかもしれない。
「それにミラさんもユイリナさんもジルさんもいるから、この街では絶対に必要ないと思うしね」
「あ、うん。そうだね。ん? いや、なんでジルさんも入れてるの?」
「え? だって、ジルさんの反応を見ていれば分かるよ。ヒナの事が好きなんだって」
確かに好意を持たれているという事は分かる。さっきばったり会った時以外にも、マンチカンに来るまでの間にも、ジルさんからそういう気持ちを向けられているかもとは思っていた。自惚れの可能性もあるから、あまり意識してかったけど。
でも、ジルさんは盗賊によって心も身体も傷付けられている。だから、私から何かをお願いするという事は絶対にしたくなかった。そして、ジルさんもトラウマになっているだろうから、ジルさんから来る事もないと思う。
「まぁ、ジルさんの事は置いておいて。騎士団のところに行ってからギルドに行こう」
「うん」
準備を整えてから、私達は騎士団の詰め所に向かう。すると、その途中でグレイズさんもこっちに来ているのが見えた。それはアリサも同様だ。
「ヒナ」
「待って。まだ分からないから。ここで逃げたら罪を自白するのと一緒。隠蔽するなら堂々としてないと」
「そうだね」
何か犯罪者としての動きが出来るようになってしまったようで嫌な気分になる。まぁ、彼奴らを生かしておいた方が嫌な気分になっただろうけど。グレイズさんは私を見つけて険しい顔をするどころか笑顔で手を振ってきた。
「まだ街にいてくれたか。良かった。詰め所かどこかで話せるか?」
「丁度詰め所に行こうと思っていたところです。盗賊の件で何か進展が?」
「ああ。ここでは話しにくい事だからな。付いてきてくれ」
「はい」
グレイズさんに付いて行って、詰め所の中に入る。そして、前にも入った部屋に入り、そこにある椅子に座った。正面にはグレイズさんが座る。
「盗賊の小屋は現在調査中だ。山頂という事もあり、時間が掛かる。だが、今日の朝。男が自首してきた。どうやら今回行商へと向かった商会への妬みから盗賊に情報を流して襲わせたらしい。まぁ、その商会内で揉め事が起こって金槌で殺し合いが起きたらしい。生き残った一人が自首をしてきた」
どうやら本当に自首してくれたようだ。すぐに行動する辺り、本当に脅しが効いたのだと思う。
「こっちの書類でも、依頼をした時のものが残っていた。証言とも一致するため、今回の事件の計画犯として捕まえた。残り三人の遺体も確認した。金槌と短剣による殺し合いがあったみたいだな。だが、最終的には、生き残った一人が全員の醜い考えに付いて行けず殺してしまったようだ」
ちゃんと内輪揉めにしてくれたらしい。
「なるほど……これに関してジルさんへの何かはありますか?」
「商会が溜め込んでいた金の一部を慰謝料に充てる。商会への補償金も出るな。ひとまず彼女や商会への損失は出来る限り埋められる。自首してきた奴は懲役刑だ。鉱山での無償労働になるだろうな」
「無償?」
「出されるはずの報奨金も賠償金に充てられる。生きているだけマシという生活だな。仮に懲役を終えても社会に復帰出来るかはそいつ次第だ」
割と厳しいと思ったけど、やっている事がやっている事だけに妥当だとも思ってしまう。まぁ、簡単にやり直しが出来てしまう事の方がおかしな話か。間接的に何十人という人の人生を奪うような事をしているのだから。
「分かりました。これはジルさんにも伝えるんですか?」
「ああ。当事者だからな。そこで、出来れば二人から伝えてくれないか? 俺が伝えるよりも耳に入りやすいだろう。それに俺達よりも心に寄り添えるだろう?」
「まぁ、グレイズさんよりは付き合いがありますから。分かりました」
「ああ。助かる」
そう言ってグレイズさんが立ち上がる。なので、私達も同時に立ち上がった。
「じゃあ、失礼します」
「ああ。これで貸し借り無しだな」
「?」
何の話だろうとグレイズさんを見ると、自分の手首を指差していた。そこには何もない。だが、その行動は、私をジッと見ている事で別の意味を持つ。私の手首には雷鎚ミョルニルがある。
つまりグレイズさんは、犯人が金槌で撲殺されていた時点で、私の犯行を見抜いていた。しかも、犯人が私と接点のあるジルさんを陥れたというところから完全に絞ったという風に見られる。
でも、グレイズさんはそれを黙っている事にした。その理由までは分からない。ただ罪に問わないという事は確定した。
だから、私も返事をする。
「何の話かは分かりませんが、そういう事にします。ありがとうございました」
「ああ。出口まで送ろう」
部屋を出れば、互いに今の会話は忘れる。ここであった事は、事件の詳細を関係者であった私達に話し、私達から被害者であるジルさんに伝えて欲しいと頼んだという事だけだ。
グレイズさんに見送られて詰め所を後にする。
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小さくなっていくヒナとアリサの背中を見送ったグレイズは、長めのため息を零す。
(こういう時は騎士団の無力さを感じるな。頼りにされなかったのは、何も証拠を掴めなかったからか。俺達がもっと調査を急いでいれば、嬢ちゃんの手を汚させずに済んだものの。まぁ、私刑は良くない事だが……今回のこればかりはな……大元を止めるために、俺達も動かないといけないな)
グレイズは、両手で頬を叩いて気合いを入れてから詰め所へと戻っていった。




