ヌートリアでの初依頼
翌日。朝起きた私はいつも通りのルーティンで動いていく。祈りを済ませてミナお姉さんの元に行けない事を嘆きつつも、寝間着から雷獅鷹の衣に着替えて、ぬいぐるみをインベントリに入れてから宿を出る。
ここはイースタンの宿舎じゃないので、安全が保証されていない。まぁ、ぬいぐるみを盗むという物好きは少ないだろうけど、この子達が嫌な思いをするのは、私が嫌なのでこうする事に決めた。
ギルドの飲食店で軽く朝食を摂ってから、掲示板を見て依頼がないかを探す。討伐依頼を持って受付のお兄さんに手続きをして貰う。
「これで手続き完了です。お気を付けて」
「ありがとうございます」
今回受けた依頼は、マッチョボアの討伐。この辺りではよく出るモンスターらしく、ホーンラビットと並ぶくらいに出て来るらしい。ただし、こっちはEランクからのモンスターであり、かなり凶暴みたいだ。
Fランク冒険者がホーンラビットを倒そうとして被害に遭う事も珍しくないみたい。そう考えると、イースタンは割と初心者に優しい場所だったのかもしれない。
ヌートリアから出て、湖がある方向に向かう。道中でホーンラビットが群がってくるので、雷鎚トールで次々に叩き潰していきながら、売りや食事に使うものを集めていく。
ヌートリアに来るまでで、私のインベントリは時間停止機能があるという事が分かっている。なので、どんどんと食料が溜まっていく一方という事になる。旅をするのに有り難い機能だった。必要な食料分は確保して売っていけば良いしね。
「森の中に入らないと、マッチョボアは出てこないのかな?」
ここまでホーンラビットしか会っていないので、マッチョボアは森の中にいるのかもしれない。そう思って近くの森の中に入ってみると、【気配察知】に大きな反応があった。そっちを向くと、少し離れた所に丸々と太った猪がいた。私と同じくらいの高さだ。普通の大人くらいかな。あんなのが突撃してきたら即死すると思うくらいにはヤバそう。
(あれでEランク……グリフォンよりも弱いのか……なら、それだけの理由があるはず)
私が見つけたのと同じようにマッチョボアも、私を見つけた。ホーンラビット同様、即座に敵認定したのか、真っ直ぐこっちを見てくる。そして、勢いよく突っ込んで来た。
(例えば……急な方向転換は出来ないとかね!)
命中する前に横に跳ぶと、マッチョボアは目を剥きながら、横を通り過ぎようとしていた。私の動きに付いていく事が出来ないみたい。
『ブモッ!?』
驚きの声を上げたマッチョボアの横っ腹を雷鎚トールで思いっきり突いた。マッチョボアの脇腹に雷鎚トールが刺さってから吹っ飛んでいった。地面を転がって行って木にぶつかって止まった。ぴくりとも動かなくなったので、これで倒せたと思う。慎重に近づいてマッチョボアの死体を回収する。
「レベルは上がらないか。まぁ、いいや。横からの一撃に弱いなら、色々とやりようはあるかな」
雷鎚トールを固く握った私は、森の中を駆けていく。【気配察知】でマッチョボアを探しつつ、道中のホーンラビットを叩き潰して回っていき、マッチョボアを見つけたら一気に駆け寄って、その頭に雷鎚トールを叩き付ける。頭蓋は硬いけど、私の筋力なら砕いて倒す事が出来る。
横からの一撃よりも突撃される前に頭を狙って即死を狙うのが、一番安定した狩り方だった。
向こうに気付かれたら、攻撃を避けながら横から一撃加えるか、突撃の勢いを利用して正面から雷鎚トールで突いて頭蓋を砕けば倒せる。ただし、正面から突く方法は、危うく轢かれかけたので危険だった。なので、基本は攻撃される前に倒す方向で、突撃を始められたら横からの一撃で倒すという風にした。
走り回りながら次々に倒していくと、レベルが上がった。
『ヒナのレベルが上昇しました。10SPを獲得』
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ヒナ Lv19『雷鎚トール』
職業:槌士Lv9
MP:5435/5435
筋力:3893(180)『2000』
耐久:3985(135)『1000』
敏捷:1609『500』
魔力:996『500』
器用:1297
運:190
SP:190
スキル:【槌術Lv14】【両手槌術Lv3】【体術Lv2】【投擲Lv3】
【雷魔法Lv2】
【MP超上昇Lv51】【剛腕Lv26】【頑強Lv49】【疾駆Lv18】【知力Lv2】【至妙Lv18】
【騎乗Lv2】【採掘Lv58】
【MP回復力超上昇Lv40】【重撃Lv21】【暗視Lv69】【見極めLv10】【気配察知Lv10】
【火耐性Lv8】【風耐性Lv6】【雷耐性Lv5】【斬撃耐性Lv5】【打撃耐性Lv10】【毒耐性Lv3】【痛覚耐性Lv10】【苦痛耐性Lv10】【精神耐性Lv10】
【高速再生Lv78】【竜の血Lv3】
【生命維持】【不死】【女神との謁見】
職業控え欄:旅人Lv1 平民Lv18 採掘者Lv48
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ヌートリアに来るまでにしていた依頼や旅路のおかげで、二週間前から3も上がっている。【槌術】が10になった時に【両手槌術】を獲得した。これは、雷鎚トールが両手で持つ大きさが基準になっているから両手になったのだと思う。片手で持つ大きさにしていたら、片手のスキルも獲得出来るかもしれない。
後は、手足で攻撃する事が出て来たからか、【体術】のスキルも手に入れた。筋力と耐久にステータスが入るので有り難い。後は【雷魔法】をちょくちょく使っていたから、レベルが上がって、【知力】も手に入った。
ステータス的には殴られなくなった事もあり、耐久の伸びが悪くなっていた。まぁ、こればかりは良い事だから、特に気にしないでも良いかな。
取り敢えず、マッチョボアを二十体倒したところで切り上げて、ヌートリアに戻る。これでどのくらいの稼ぎになるかによって、今後マッチョボアを倒す数が決まってくる。
ヌートリアのギルドに戻って、受付のお姉さんに報告する。
「マッチョボアですね。【アイテムボックス】からとなりますと……このまま解体場に向かって提出をお願いします」
「分かりました」
マッチョボアは大きいから直接解体場で提出した方が良いと判断されるらしい。血の匂いが漂ってくるような大きな施設の中に入っていく。そこの中で広い場所に向かい、マッチョボアを提出していく。
「全部で二十体ですね。他に討伐したモンスターはいますか?」
「ホーンラビットが六十匹です」
「多いですね。そちらも買い取りが出来ますが、如何しますか?」
「じゃあ、五十匹をお願いします」
「はい。では、査定させて頂きます」
受付のお姉さんが手早く査定をしていってくれる。見るポイントがあるからか、本当に素早い。
「マッチョボア二十体で六万リル。ホーンラビット五十匹で四万リル。依頼報酬の八千リルを合わせて、十万八千リルになります」
「おぉ……思ったよりも多いですね」
「いえ、正当な報酬ですよ。マッチョボアをここまで綺麗に倒している方は、あまりいらっしゃらないので。頭蓋も残っていればもう少し高値が付きますが……正直物好きが剥製にするくらいですので、そこまで気にしないでください。安全第一です」
「なるほど。分かりました」
それなら頭蓋は割る方針で行くかな。そっちの方が安全に倒せるし。打撃武器の強みは活かさないとね。
「じゃあ、失礼します」
「はい。お疲れ様でした」
解体場を出て、ギルドの飲食店でお昼ご飯を食べていると、正面にカトリーナさんが座った。唐突な事なので、ちょっと驚いた。カトリーナさんの手にはトレイがあるので、昼食の時間である事が分かる。
「ご一緒しても?」
「はい。どうぞ」
カトリーナさんは微笑んでから食事を始める。
「依頼は達成したようですね。湖は綺麗でしたか?」
「あっ……」
カトリーナさんに言われて思い出した。マッチョボアを狩る事に夢中になりすぎて、湖に行くのを忘れていたという事に。モンスターがいるとはいえ、遠目から見るくらいは出来たはずだし。
「お忘れだったようですね」
「うぅ……討伐の仕方を模索するのに夢中で……模索して確定したらしたで、お金稼がないとって思っちゃって……」
「安定した狩りは、安全や生活に重要ですからね。こちらとしても街道に出てこないようにモンスターを減らして貰えるのは有り難い事です。次の機会には、見に行けると良いですね」
「明日こそは! そうだ。この街に図書館みたいな建物ってありますか?」
本を読んで学べる事は多いので、図書館があれば利用したい。いつもは宿舎の図書室を使っていたけど、宿屋にそんな施設がくっついているわけもないから探さないといけない。
「図書館はないですね。本屋であればありますが」
「そうですか。残念です」
それなら午後も依頼を受けて、今度こそ湖に行こうかな。そのくらいの時間はあるし、ここにはメイリアさんとかがいないから、午後は稽古を付けて貰うとかは出来ない。それなら依頼を受けて貯金を殖やす方が良いかもしれない。
街の観光でも良いけど、湖の方が興味あるし、そっちを優先しようかな。
「午後は何をされるのですか?」
カトリーナさんが話題として午後の予定を訊いてくる。
「もう一度依頼を受けて、今度こそ湖に行こうと思います。図書館がないのなら、午後も丸々空く事になりますから」
「午後も依頼ですか……張り切るのは良い事ですが、あまり無理はされないように。連続の依頼は集中力を落とし、本来はしないような失敗をする事も珍しくありません。実際、そういった事で命を落とすという事例もあります」
「はい。気を付けます」
冒険者として活動するのなら休憩も重要。三日毎に休息日を設けるし、そこら辺は大丈夫だと思うけど、午前午後依頼続きは、そこまで連続してやらないようにした方が良いかな。
そのまま食べ進めていったけど、食べ終えたのはカトリーナさんと同時だった。休憩時間が限られているから、早めに食べ終えるようにしているのかな。一口の差もありそうだけど。カトリーナさんは仕事に戻るまえに紙ナプキンで、私の口を拭ってから手を振って戻っていった。




