恨みは晴れることなく
アリサと合流しに向かったリタは、街の喧騒の中に気になる声がある事に気付いた。
「聞いたか? 近くに盗賊の目撃情報があるらしいぞ」
「またか? まぁ、隊商が多く出るこの辺りは一番稼げるだろうしな。護衛の数を増やすか。どっち方面だ?」
「ガビアル方面だ。しばらくはレオパルド方面に行くのは難しいかもな」
「ゴールデンイーグル経由も難しいからな。盗賊問題が解決してくれるのを待つのも有りか……」
その話はリタにとって他人事と流すには、身近な内容過ぎた。
(盗賊……最近は近くに出なかったのに……)
自身が誘拐されたという経験。これがリタにとって他人事と流せない大きな理由となっている。両親の職業が商人という事もあるが、それよりも自身で経験してしまった事の方がリタの中で大きなものとなっている。
(後で、ヒナにも伝えておこう)
そう考えつつ、リタは買い物をしているアリサと合流する。
「アリサ。問題ない?」
「リタ。うん。普段ヒナが選ぶようなものを選んでいるつもりだけど……」
アリサはリタに買い物カゴの中を見せる。買っているもの自体は特に問題はなく、鮮度なども特に悪いものがある訳では無かった。
「うん。良いと思うわ。取り敢えず、肉類が多すぎるって事を除けば」
「あっ……」
アリサは、基本的に肉の方が好きである。野菜も嫌いではないが、やはり肉の方が欲しくなってしまうのだった。その点では、ヒナはメイリアに健康を考えろと言われているために、バランス良く買うように意識していた。
リタが目利きして、野菜も足していく。そうしてバランス良く食材を集めていく。
「そういえば、アリサは聞いたかしら? 近くに盗賊が出て来たって」
「どこの情報?」
「噂話。ここに来るまでの中で、その話をしている人達がいたのよ」
「確証があるって感じじゃない?」
「そういう事ね。でも、ここは商業都市だから、こういった噂の信憑性は高いのよ。それだけ警戒するから」
商人にとって情報はかなり重要なものだ。知っているのと知らないのでは、雲泥の差が生じる。それが販路などになれば尚のことである。
「ヒナが暴れないと良いけど……」
「ヒナに伝えた方が良いと思ったのだけど、やめた方が良いかしら?」
「う~ん……ヒナって、相手が盗賊だと分かったら全く躊躇せずに殺しに行くから」
「あぁ……まぁ、気持ちは分かるわ。私達よりも長く囚われていたヒナがそうなるのも仕方ないと思うわ。下手に固執されると、ヒナのストレスにもなりそうよね」
「でも、噂されている事なら、いずれはヒナの耳にも届くと思う。それなら先に言っておいた方が良いかも?」
「まぁ、ヒナも大人になっている事を祈る事にするわ」
「うん」
方針を決めたリタとアリサは、食材の買い足しを終えて家へと戻る。
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ふと目が覚める。目が覚めた理由は、良い匂いが漂ってきたからだ。
「ん……」
「起きた……?」
スレイアの優しく綺麗な声が、くぐもって聞こえる。それは当然だ。耳を上下から塞がれているのだから。
「起きた。ごめんね。膝にずっといて。疲れたでしょ」
「ううん……」
「そっか。ありがとう」
「帰ってきたら、結局寝てるんだから驚いたわよ」
リタが配膳をしながらそんな事を言う。買い出しからご飯が出来るまでの時間を寝ていたらしい。一時間から二時間くらいかな。お昼寝としては、少し長かったかな。
「キティは?」
「まだ上。起こしてくるから、配膳頼める?」
「は~い」
リタがキティを起こしに行くので、代わりに夕飯の配膳をしていく。並べ終える頃に、寝ぼけ眼のキティを連れてリタが戻ってくる。キティは大分深く寝ていたみたいだ。
そうして夕食の時間に入る。皆で夕食を食べていると、リタから手が止まるような内容の話が出てくる。
「そういえば、近くに盗賊がいるかもしれないって」
「え?」
「街で商人が話しているのが聞こえたのよ。ここからレオパルドに向かうための道の一つになるガビアル経由の販路にいるみたいよ」
「ガビアル方面……それって依頼になってる?」
「そこまでは知らないわ。依頼になっているなら、もっと話題になっていると思うけど」
「じゃあ、確証があるって訳では無いって事ね。まぁ、商人達が話しているなら、結構怪しいけど」
こうした情報は、商人にとって命ともなり得る。その事を私はマンチカンでの一件で知っている。商人にとって盗賊は天敵も天敵。さっさと排除するに限る。
「う~ん……明日は休みで」
「盗賊を倒しに行くって事かしら?」
「それは今日の夜。ちょっと行ってくる。どんなのがいるか分からないから、私一人で行ってくるよ。アリサは街の入口付近で待機してて。私が特大の雷を三回連続で放ったらピンチって思って」
「分かった」
少数精鋭というよりも一人だけだけど、大人数でぞろぞろと行くよりも動きやすい一人で突っ込む方が確実に盗賊達を仕留められる。私よりも強い相手がいるなら、アリサに合図を出して焼き払って貰えば良い。
「だ、大丈夫なの……?」
キティが心配そうに私に確認する。顔が少し青くなっているような気がするのは、盗賊が相手って事もあるのかな。
「大丈夫。無理はしないから。スレイアは、こっちにいて」
「うん……」
「本当に気を付けなさいよ? 本来なら、ヒナがやるべき事でもないんだから」
「分かってるって」
夕食を食べ終えた私は、雷獅鷹の衣に着替える。そして、アリサと一緒に家を出た。リタとキティは最後まで心配そうにしていたけど、こればかりは譲れない。私が抱く盗賊への恨みは私自身の事だけじゃない。ジルさんがされた事を思えば、許せないという気持ちは存在して当たり前だ。
だから、ここでジルさんが受けたような悲劇を起こさせない。そのためにも私は盗賊を殺す。




