山越え
二週間後。スレイアも山道を登る事に慣れたため、私達は予定通りゴールデンイーグルを出立する。春になり雪も完全に溶けたらしいので、諸々の危険はない。危険なのは、この山を登っている最中に出て来るアサルトゴートとロックコンドルくらいかな。
「さてと、最初の宿泊施設までは二時間くらいかな」
「全部の宿泊施設に寄るって事で良いの?」
「うん。その方が良いだろうね。エリナさんも言ってたけど、高山病は怖いからね。まぁ、私達関係ないかもだけど、苦痛とかに耐えられるだけだろうしね。安全優先で行く」
「了解」
「うん……」
高山病に罹ったら、基本的に下山しないといけない。そうなった方が進みが遅くなる。それを考えれば、宿泊施設に毎回寄る方が良い。
「急がば回れって言うしね」
「何それ……?」
「ヒナの世界の言葉?」
「これは広まってないんかい……簡単に言うと、危険な近道よりも安全な遠回りの方が早く着くよって事。危険な近道を使うとそのままおじゃんになったりするから」
「近道……ヒナは近道……?」
「確かにヒナは近道を選びがちな気が……」
「うるさいよぉ」
スレイアの頬を引っ張る。優しく引っ張っているから、痛くはないと思う。まぁ、耐性の問題で痛みはないはずだけど。
「取り敢えず、近道をする危険を冒すよりもこうして遠回りをする方が確実! 高山病に関しては冒す危険の度合いが大きすぎるから近道無し。まぁ、アリサに飛んで貰うのも危険だけど、危険はアリサの問題だから、私が信じれば問題ない。でも、これは違う」
「だから……急がば回れ……?」
「そういう事。そもそも急がば回れってのはね」
そこからことわざの由来を説明しながら、私達は山登りを続けていく。絶妙に覚えているかどうか怪しかったけど、何とか説明は出来たはず。何故かスレイアが興味津々だったから、頑張って思い出して良かった。一年以上もこっちで暮らしているから、向こうでの知識は朧気になりかけている。向こうはインターネットで調べれば、色々と情報が出て来て本当に良かったなと思う。
そうして最初の宿泊施設に入り、身体を慣らしていく。他の宿泊客はいないので、私達で貸し切りだ。そもそもここを通る人の方が少ないので、この状態の方が普通なのだと思う。
「二人とも気分悪くない?」
「大丈夫」
「私も……」
「気分が悪くなったら、いつでも言ってね。隠す方が危ないから」
「うん」
「うん……」
取り敢えず、皆の気分は悪くなっていない。一泊ずつすれば、安全マージンはしっかりと取れているはず。そのまま一泊。一泊。一泊と三箇所の宿泊施設を巡っていき、全員気分が悪くなっていない事を確認していき頂上に辿り着いた。
「アリサが飛ぶよりも高いね」
「そんな高いところを飛ばないから」
ここから見る景色は、これまで見たどの景色よりも高い。それは前の世界で見た景色も合わせての事だった。
「一人で飛ぶときはこれよりも高く行けるよ」
「まぁ、そんなアリサが高山病に罹るわけもなかったか……」
「身体の構造……?」
「だね。ドラゴンの時の体構造の一部が残ってる感じだと思う。スレイアは人間だから駄目だと思うけど」
「真っ白……」
「真っ白なだけの人間かな。アリサはドラゴンの一部が残ってるけど、スレイアは白い以外は残ってない。だから、やっぱりスレイアの方は高山病の警戒をした方が良いって感じかな」
こうしてここまで高山病を警戒して歩いてきたけど、それは正解だったと今は言える。アリサの体構造を考えれば、アリサは問題ない。でも、スレイアに残っているのは、異常なステータス、異常なスキル、真っ白な身体だけ。それを考えれば、高山病に罹る可能性は十分にあった。
「スレイアは、私基準で考えていくかな。ところで、二人とも記憶は?」
「特に」
「私も……」
「そっか。ここまで高い場所になると記憶がない……いや、そもそもこの山が記憶に繋がらないって考えた方が良いか」
下手に全てが関係なしと考えるよりも、ここは関係ないと考えた方が選択肢を狭めすぎない済む。もしかしたら、他の山には記憶が残っているかもしれないから。
「さてと、ここから下山だね。ここからエスキモードッグが見えるはず……あれだ」
この高さならエスキモードッグが見えるはずと思って、向かう先の方を見てみると、遠くの方にエスキモードッグらしき街が見えていた。ここから二日から三日は掛かるかな。下山自体にも時間が掛かりそうだし。
「アリサ。周囲にモンスターは?」
「ううん。特には」
「ロックコンドルもここには住み着いてないって感じかな。崖に気を付けてゆっくり降りていこうか」
「うん……」
崖に向かわないように、しっかりと山道を歩いて降りていく。途中でモンスターが襲ってくる事もあるけど、ゴールデンイーグルでの依頼の経験が活きているので、特に大きな支障はなかった。
アリサの索敵とスレイアの防御があるから、並大抵のモンスターなら簡単に倒せる。そして、二人の圧倒的なステータスにより、Cランクモンスターは並大抵のモンスターに含まれてしまう。
こっちの下山中に一度宿泊施設で泊まり、一夜過ごしてからようやく下山が完了する。
「ふぅ! ようやく平面! スレイア疲れた?」
「疲れた……」
登山と下山により、スレイアの体力が大分使われた。なので、山から少し歩いたところに家を出して、二日休息を挟む事にする。
「さてと、アリサはまだ疲れてない?」
「大丈夫。周辺を見て安全を確認してくる」
「うん。お願い。スレイアは、家の中を調えようね」
「うん……」
アリサが安全の確認をしている間に、私達はインベントリから出したマットレスなどを家に敷いて生活空間を作っていく。取り敢えず二日過ごせれば良いから、軽くだけどね。




