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7.ゴーストマッチング


 ゴブリン戦の火蓋(ひぶた)を切る。


 まずは、見つかりづらくする為、低空から地を這うように接近した。


 ゴブリンの持つ太い枝を操るためだ。ここは道路、森の中とは違い大きめの石や枝などそう落ちている訳も無く、唯一武器にできそうな物は奴らの持ち物だけだった。


 ちなみに、近づく理由だがあまり遠くの物は自由に動かせないのだ。操れてもゆっくりだし、そんなものをぶつけた所でただ怒らせるだけで終わるだろう。森を徘徊している時に気づいた、暇つぶしが役に立った瞬間だ。


「ガ? グ、グガァー!」

「グギャ?」

「グガ!グガァー!」


 途中で気付かれたみたいだがもう射程圏内だ、右端にいるゴブリンに向かって念じる。


 ゴブリンが手にする枝は、若干の抵抗を感じたが程なくして私の制御下に入った。さあ、まずは1つ。


 急に手から離れて宙に浮いている枝に、アホずらを晒しているゴブリンの喉元へ射出。


「お次は、って、速っ!」


 1匹目のゴブリンを処理してる内に、残りの2匹が突撃をして来ていたのだ。


 うそ、こんなに速く動けるの!? 


 予想以上の瞬発力を見せるゴブリンは、既に手を伸ばせば届きそうな距離まで迫って来ていた。


 ゴブリンの顔のしわが良く見える。右手の枝を振りかぶり、数舜(すうしゅん)には振り下ろされるだろう。ダメだ、避けきれない! 頭を両手で庇った。


「キャッ!」


 思わず悲鳴が(こぼ)れる。襲ってくるだろう痛みを予想して体を固くしたが、いつまで経っても訪れない。


 あれ? どうなって…


 突き出した手の間からゴブリンが見える、そこから枝が私の体に伸びていた。見下ろせば枝の先端が体にめり込んでるのが判った、貫通しているのだ。しかし、一向に痛みは現れない。


 フフッ、なるほどねぇ。


 口角が上がるのが自分でもわかる。図らずも、枝の攻撃を無力化していたようだ。全くもって試すつもりなど無かったが、これで判明した。物理的な攻撃は私の幽霊ボディの前に意味をなさないのである。


 相手は物理攻撃しかできない、私は物理攻撃を全て無効化できる。どういう意味かお分かりかね、ゴブリン君。


 そう、君たちは約束されし敗北が、待ち受けているのだっ!


 つい先ほど殴打されると怯え、可愛らしい声を漏らした事は何処へやら。一瞬にして元気を取り戻し、上空へ飛び上がる。攻撃が当たらないとは言え、近くで眺めていたくもない顔からおさらばだ。


 身長が低いゴブリンが枝を振り回してもかすりもしない高さだ。眼下で滑稽な踊りを披露する2匹は、無駄だと悟ったのか枝を投げつけてくる。


「おっと、貴重な武器を投げないでよね」


 私に届く前に浮遊を念じて支配下に置いた。そして、そのまま両肩のやや上に停滞させる。


 こうして改めて見てみると異世界である事を実感する。魔法に関しては観察する事など出来はしなかったが、この不細工な生き物は好きなだけ自由にできる。


 肌の色は緑色と言うより黄緑に近い、顔面はしわが刻まれ老人の様にも思えるな。それと、どう見ても不衛生で汚れていたが不思議と臭いは感じなかった。もしかしたら、臭いを感じない体なのかもしれない。


「これもイメージ通りかな」


 ゴブリンの服装は腰みのだけだ、一体どこで入手しているのか。随分とボロボロだが、きっと洗濯などしていないだろう。


 なんだか、気分が悪くなってきた。こんなのに近寄られていたと思うと身の毛がよだつ、さっさと終わらせてしまおうか。


 私は狙いを定めるように左手をゴブリンに向ける。


「行けっ」


 両肩の上で保持していた枝に念を送って射撃する。


 2本の枝はゴブリンの喉元へ狙いたがわず、吸い込まれていった。2つの影は地面に倒れ伏し、これにて試合終了だ。


 途中少しだけゴタゴタしたが、無事に勝利を収められた。怪我も負っていないし、見事な完全勝利と言っても過言ではないだろう。


 オオカミとの死闘とは違い、随分とあっさりだ。私も成長しているのだよ。


 さて、それでは勝者の特権、略奪タイムとしゃれこもうか。


「……」


 ただ浮いているだけだが、何だかとだまちゃんも嬉しそうに見える。


 今美味しいものをだしてあげるから、ちょっと待っててね。


 あの甘美で幸福なひと時を堪能できるのだ。


 ゴブリンの傍に降り立ち、いざ獣魂を出現させようとして、はたと気付く。たしか、とだまちゃんの指示通りにオオカミの亡骸に触ると現れた。もし今回も同様ならゴブリンにこれから触れる必要があるのだ。


 え、やだ。 


 思考が止まる、正気の沙汰じゃない。確かに田舎育ちで土とか虫とかは別に平気だが、老廃物まみれの不衛生な遺体に手を置くのは、話が別ではないか。


 心ときめく気持ちが一転、どん底へと落ちる。


 いや、何か別の方法が無いだろうか。例えば念じてみれば行けるとか、さあ、出てこい魂! 数分粘ってみたが、もちろん意味は無かった。


「ねえ、本当に触らないとダメなの?」


 こうなれば最後だ、最初にやり方を教えてくれたのはとだまちゃんだ。何か知っていないだろうか。


 一縷(いちる)の望みにかけてとだまちゃんに話しかける。


「……」


 人魂は頷くように上下に揺れた。


 ああ、現実とはなんと非情なのだろうか、私に希望は無かった。何故なのだ、確かに獣魂は欲しいがこのような仕打ちはあんまではないか。


「うぅー、なんでぇ」

 

 仕方がない、触れるしかないのだ。これも私の幸せ実現の為、致し方ない犠牲なのだ。


 いや、でもやっぱり、やだー!


 そして、私は3匹分の肩に手を触れた。


 問題なく獣魂は私達の前に姿を現す。苦痛を味わったが今は至福の時間だ、手の平から吸収を始める。なんだか、以前より美味しい気がする。


 私は二つ、一つはとだまちゃんが吸収した、美味ではあるが少し物足りない。


 ゴブリンの獣魂はオオカミより見劣りするサイズであった。魔法を使用できることが要因か、体積の大きさが影響するのか、仔細は不明だ。


 また、それが理由だろうか今回はさほど色は濃くならなかった。残念ではあるがやむを得ない、そう簡単に上手くいくほど、生易しい物ではないのだろう。


 僅かずつだが着実に目標に近づいているのだ、気長に進めていこう。


 さて、獣魂も食べ終えたし、気持ち切り替えて人里目指しますか。私は再び上空にワンピースをはためかせた。


 ゴブリンとの遭遇現場を後にして、移動を続けていると石垣の跡らしき瓦礫が道の脇に点在するようになった。人の痕跡だ、きっと人里は近いのだろう。期待が膨らむ。


 そして、前方で灯りを遂に発見する。ようやく見つける事が出来たのだ。


 心待ちにしていた光景に浮足立ち、人里へ急いだ。


 すぐに目的地に着いた、人里は幾つもの家が連なっており遠くで見た時より大きい。


 町というには小さいが、それなりの人数が暮らしを営んでいることが伺える。そこそこ発展してきた村のようだ。


 村の中に人影は見えないが時間的に既に寝静まっているのだろう。村は石垣で囲まれており中々頑丈そうだ。村の傍には農地が見えた、何やら野菜でも育てている事が予想できる。


 守衛でも居そうなものだが村の門前にも人の姿は確認できない。そこまで危険な場所ではないのだろうか。


 門前まで来たがこのまま中に入るのは勇気が必要だ、人影は見えないが街灯らしい灯りが等間隔に配置されている。誰か巡回しているかもしれない、少し様子を見るか。


 ひとまず、村の周囲を回り村の中を見回る警備の人が居ないか調査だ。壁の高さは2メートル程、顔が覗く程度に浮かんで石垣に沿いながら移動する。


 現状巡回してる人は見えない。そんなに不用心なのだろうか、それなりに安全な日本でさえ警察が見回っているのに。もしくは田舎と同じノリだろうか、ドアや窓にさえ鍵をかけないからね。


 そうして、村の裏手までやって来た。こちらにも門が設置されている。まだ半分だがさすがに居なさそうだ。


 建物は木とレンガを組み合わせて作られていた。廃墟と同じような建材だ、一般的な家なのだろうか。


 家を横目に移動を続ける。


 と、おや? 村外れの小高い丘にも家があった。そちらにも家を守るように石垣が積まれている。何のための家だろうか、村の家と比べると少しばかり堅牢そうな作りだった。


 家の背面には木々が生い茂っていた、森に面しているあたり狩人でも住んでいるのか。そこには一軒だけ建っている。


 だがちょうどいい、他の家から見られる事も無いし悠々とできそうだ。住人もベットで寝ているだろう。


 私は狩人の住処と思われる家に向かった。


 石垣をすり抜け窓にはりつく、カーテンの隙間からは中を覗き見る事ができた。部屋の灯りは消えており誰もいない。


 よ、よし。ちょっと忍び込んでみようかな……すぐ出ればバレないだろうし。


 部屋の中は物で一杯だった、そこまで広くなく埃っぽい。壁には棚が置かれ、何やらいろいろ物が保管されている。ここは倉庫として利用されてる様子だ。


 なんだか見た事が無い物が沢山あるなぁ。あ、指輪だ、素で置いてある何て、管理が雑じゃない?


 棚の一つに近寄ると銀色を反射する指輪が放置されていた。台座には深い透き通った緑の石が嵌っており、リングには全体に彫刻が施されていた。


 綺麗、エメラルドというにはちょっと色が深いかな? なんて名前の石だろう。リングも凄いなぁ。


 私は指輪に見とれていた、自分が今どこに居るのかも忘れて。もう少し耳を研ぎ澄ましておくべきだった。


 ガチャッ


 私が侵入した倉庫の扉が唐突に開かれた。焦燥感が駆け上がり、体を支配する。反射的に音の方向に首を向ける。


「おやおや、なんとも可愛らしいお客さんだ」


 そこには灰色の髪をした男性が、黒い棒を片手にこちらを見下ろしていた。


 紫の瞳を細め、堀の深い顔にしわを刻みながら私に告げる。


「さて、一体どのようにして……忍び込んだんだ?」


読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけたのなら幸いです。

毎度の事ですが評価、ブックマークありがとうございます。

こうして可視化されると嬉しいものです。

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