6.深夜徘徊
「ふー、美味しかった」
今まで感じた事の無い感覚だった。舌で感じるのとは違い、体全体で味わっているような不思議な感覚。味がある訳ではないのに美味しいと思える、そんな時間だった。
私達は獣魂を全て食べ尽くした。
バスケットボール大のサイズだったが、あっという間に全て吸収してしまった。そして、全身傷だらけだった私は見事、回復を果たしたのだ。
今度こそ三途の川を渡る直前だったが、人魂のお陰でまだ生きている。幽霊だからややこしいけど生きているのだ。
何だかとても体の調子が良い、奥の底から力が漲ってくる。体の輪郭もボヤッとしていたのが心なしかはっきりとしているようだ。気のせいかな?
手を空にかざすと手の平に、薄ぼんやりと月が浮かぶ。
うん? 転生当初はもっと透き通っていたはずだよね。
これは、もしかして? 獣魂を吸収すると色が濃くなっていく?
希望が湧き上がってくる。
おや? このまま取り込み続ければ、いずれ半透明じゃなくなる?
もしや、さらに続けたら実体化出来たり? できちゃったりする?
もしそうだったとしたら……。
私はこの世界で幸せになりたいと思っていた、だが幽霊でどのように幸せになるのか、明確なビジョンは思いつかなかった。
だけど、実体化できるなら話は別だ。
もしかしたら、人に戻れるかもしれないのだ。そうすれば人とも暮らせるだろう、この異世界で。
人として普通に暮らし、いつか家庭をもって、幸せの中老衰で死んでいく。元々そんな未来を夢見ていたのだから。
「それ、いいじゃん」
可能性はあるだろう、なんせ実際に色が濃くなっているのだから。であるなら試して見るのも手だ。
問題があるとしたら、またオオカミと戦って生き残れる保証が無い事だ。下手すれば検証する前に昇天してしまうだろう。試みるなら私でも簡単に御せる獲物の必要がある。
小動物でもいないだろうか、小さければ魔法も弱そうだし。
周りを見渡すが私達以外には何もいない。そりゃそうだ、こんだけ暴れたら、万が一いても既に逃げているだろう。
なんにせよ、目標は固まった。まず、人に戻る事を目指す。そして、戻った時に私が暮らす町を探す事だ。どうせなら、暮らしやすい街に住みたい。
ひとまず、人里に向かっていこう。実体化に関しては道中なにか出てくるだろう。
では、そろそろ移動を開始しますか。あんまり長居しすぎてオオカミの集会所になったらお仕舞いだ。
ということで、現在は森を進行中である。もちろん、またオオカミと出会いたく無い為、耳を澄ませながらだ。
物音はしていないため、近くにはいないとは思う。だが、オオカミは本来群れで動くものである。他にはいないのか?
「まあ、その方が助かるから良いんだけどね」
そのまま移動を続け、森を彷徨い続ける事数時間。
いつの間にか高低差が激しくなり、山に突入した事が判った。最初に入った森は山に通じていたみたいである。
視界に広がる光景に辟易する。行けども行けども木また木。圧倒的自然、全く代わり映えしない景色に嫌になってくるよ。
何でもいいから木以外の物を見つけたい……。
「実はグルグル森を回ってるとか、無いよね?」
同じような光景がずっと続いている。遭難者の気持ちがよく分かる、これは不安になる。
いや、木を避ける必要が無い私は一直線に移動しているのだ。
余計な事を考えるのはよそう、森林散歩を精一杯楽しむ事にする。それに今更だがオオカミが撃ち込んできた光についても考えたいし。
異世界で初めて出会った住人ならぬ住獣は、光る半円で私をズタズタに引き裂いてくれた。
間違いなく魔法だろう。魔法と言えば詠唱して発動するイメージがあるのが、この世界では必要無いのか、何のアクションも起こさずに連発してきた。
実はあいつが特別なだけで本当は詠唱するのか? もし事実ならちょっと見てみたい。かっこいいじゃないか、詠唱。
ちなみに、私もできないかと試みたが時間を無駄にしただけで終わった。むー。
オオカミが使用してきた魔法は一種類だったが、恐らく複数存在するだろう。また、オオカミ以外にも魔法を操る動物が生息している可能性がある。
恐怖でしかない、出会わない事を願うばかりだ。
そういえば、オオカミの魔法はそこまで威力が無いように思えた。速度重視の魔法だったのだろうか。
だが、個体が違えば使う魔法も変わっているかもしれない。用心することにしよう。まあ、用心していてもどうしようも無い事もある。
たとえば、ドラゴンとか負け確定の恐ろしい奴が現れる可能性もある。そんなものに襲われたら最悪だ、到底逃げ切れるものじゃない。
見てみたいとは思うが安全圏からお願いしたい。
「出てこないよね? 振りじゃないからね?」
少しビクビクしながら移動していたが何ともエンカウントしなかった。一安心、ここには私と人魂だけしか居ない。
人魂はこの世界で唯一の味方だ。
異世界転生を果たしたが、廃墟がポツンとあるだけの場所に生まれ落ち、近辺には町どころか人すら存在しない未開の地だ。
そんな中私の傍に現れ、今もこうしてついて来てくれる。目的は何であれ助けて貰ったし、プニプニと感触も良い。あわよくば無聊を慰めるために握ったり、だめ? そうですか…。
後ろを付いてくる姿は子カルガモみたいでちょっと可愛く思えてくる。見た目は禍々しいけどね。
それにしても、いつまでも人魂、人魂と呼ぶのも味気ない。あだ名でも付けてあげようか。
「どんなあだ名ががいいかな?」
人魂だし、うーむ、たまちゃ…、まーく…、いや、止めておこう。
それならば、『とだまちゃん』でいいか、なんか名字っぽいし。
よし、改めてよろしくね、とだまちゃん!
「……」
そんなこんなで、人魂のあだ名も決まった。現在私は、山の天辺にいた。浮遊できるから山登りも容易にできるのだ。
山の上からだと周りを一望できた。
森、山、そして、砂利道。ようやく人の痕跡を見つけられたのだ。山の麓に一直線に道が作られている。
さっそく道の傍まで降りてみた。道は左右に伸びており見た限りずっと続いている。
「よし! これを辿れば人に会えそうだ」
道沿いにひたすら進む。地面には馬車だろうか、車のタイヤにして細い轍の跡が残っていた。時代風景的にはやはり中世ぐらいの文明かな?
道の両脇は草原が広がっている。やはり広い所にでると気持ちがいい。もちろん、森も良いがずっと木しかない所にいるとさすがに気が滅入る。そう木だけに!
冗談はさておき、前方に人影らしきものが見えてきた。3人程だろうか? 道の真ん中で何やらやっているようだ。
私は急停止し、道路脇の草に身を屈める。このまま進んでいたら見つかっていただろう。幽霊と言えば見える人にしか見えない筈だが、オオカミには見えていたし一度様子を伺おう。
この世界で幽霊がどのような扱いなのかわからない、無いとは思うがいきなり魔法を撃ち込まれるのは勘弁だ。
「うーん? なんか、身長低い気がする……」
宙に浮かんでいた為だろうと考えていたが、こうして地面から見てみると大人にしては身長が低い。だいたい120センチ程度か、どうみても小学校低学年ぐらいだ。
こんな夜中に子供だけで集まる事などあるのだろうか? ここからだと少し遠い、もう少し近づこう。
そして、近づくと身長が低い理由がわかる。
そもそも人間では無かったのだ。そうファンタジーの代名詞、ゴブリンだ。
ぐぎゃぐぎゃと騒いでいるが何をしているのかは判別できない。近くの森から出てきたのかだろうか。太めの枝を手に振り回していた。
どうしようか、私の頭には二つ選択が浮かんでいた。
選択肢は単純明快、あいつらを倒すか、倒さないかだ。
あいつらを倒せば、きっと獣魂みたいな物が出現するだろうと予想できる。実体化に一歩近づくだろう。
今のままでは完全に人外だ、人と暮らす事などできない。それでは私の目的である幸せになるという目的は果たす事は出来ないだろう。
そうなれば、倒す選択肢しかないだろうか。
だが、もしゴブリンが魔法を使用できた場合、とても不利になる。
どうするべきか、ふむ。ゴブリンと言えば近接メインで攻撃してくるイメージだが、ゲームなどでは魔法を使用するやつもいたはず。ゴブリンの格好を見る。
木の枝に腰みの……さすがに使ってはこないか。
よし、倒そう。作戦は先手必勝、近くまで近寄り木の枝を奪って突き刺す。
私は浮遊を念じ、ゴブリンの元まで移動を開始する。
さあ、私の養分となれ!
読んでいただきありがとうございます。
初いいね、初評価に思わずガッツポーズしてしまいました。
本当にありがとうございます! このまま投稿を続けていけるように頑張ります。




