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3.私は幽霊

少し、能力の設定を変えました。


 え? 何? 何が起きたの?


 呆然とレンガブロックが吸い込まれていった夜空を見上げる。


 先ほどと同じように念じたつもりだった。それが何故、打ち上げ花火の様になったのだろう。もしかして、感情によってパワーが変わる?


 そうだ、陶器の欠片を自由自在に飛び回らせるのが楽しすぎて、いつの間にか興奮していた。


 今は打ち上げレンガのおかげで冷水を浴びせられたように冷静だ。さすがに我を失い過ぎていたかもしれない。


 よし、もう一度試してみよう。次はそっと、ただ宙に浮くだけになるように。


「動け」


 目の高さぐらいでレンガブロックは停止し浮かんでいる。


 できた、やはり感情の強さによってパワーが変わるみたいだ。今知れて本当に良かった。空に飛ばしたからよかったものの壁にでも向けていたら廃墟は完全に潰れていただろう。


 でもこれで完全に確定した、私が幽霊であると。昔から名前のせいで『ゆうれい』なんてあだ名付けられてたけど、本当に幽霊になってしまった。


 それなら体が透けている事も発光してる事も幽霊であるなら説明がつく。


 幽霊になった事に対する恐れや不安などは無く、むしろ晴れやかな気持ちである。何も私を縛る物はない、自由だ。


 大切な人が亡くなった事で、ずっと憂鬱な気持ちだったけど今はそれが無い。もちろんその事を思うと悲しい気持ちにはなるが、ただそれだけだ。これも幽霊になった為だろうか。


 そういえば、髪や目の色が変わった事、体が幼くなっている事に関してはまだまだ謎が残っている。


 いや、体が中学生の頃になったのは、死の間際に思い返していた事が原因? 可能性はありそうだ、あの時は心から戻りたいと願っていたのだから。


 ただそれを証明する方法が無い。髪や目に関しても同様に、予想は立てられるがどうする事もできない。今の私の体はこれなのだ。それならばこれ以上悩む必要も無いか。


 なんにせよ、これで私の正体は判明したのだ。


 であるなら次はここがどこなのか調べるべきなんだろうが、まだ壁のすり抜けや私自身の浮遊も試していない。


 映画とかで主人公が追いかけると壁に消えていったり、浮遊しながら近寄って来たりする。


 幽霊になったのだ。どうせなら同じ事をやってみたいじゃないか。私にはまだまだ時間はある、なんせ幽霊だ。やりたい事を優先してもバチは当たらないだろう。


 よし、善は急げだ。物は浮かせられたから、体も浮遊させる事も簡単にできるだろう。


 自分の体が浮かび上がる様に念じる。ふっと軽くなるような感覚を感じ、ゆっくりと上昇した。足は完全に地面から離れ、つま先は地面を向いている。


「なんか面白い感覚。浮いてるのに落ちないなんて、上から吊られてるみたい」


 私は嬉しくなり色々と試しながら廃墟内をふらふらと移動した。


 まず、浮ける高さだが5メートル程は余裕で上昇できた、それ以上は試していない。何故かって?それは高いところが苦手だからだ。


 移動速度は思ったよりゆっくりだった。とはいえ普通に走った時ぐらいの速さはでている。


 これで移動は凄い楽になったね、念じるだけでスーって動けるし。よし、このまますり抜けの方も挑戦してみようかな。


 既に見慣れてしまった崩れかけの壁まで移動する。そして恐る恐る壁に手を伸ばす。


 ピトッ

 

 伸ばした手は、すり抜ける事なく壁に着いた。


「……ってそうじゃん! 普通にガラスも陶器も触れてた!」


 あれ? もしかしてすり抜けできない? いや、ただ触れてるだけなのがダメなのかな。


 浮かせるのと同じで念じればできるかも。やってみる価値はある。気を取り直して、再び壁に手を触れさせる。


 そして、腕がすり抜けるイメージを持ちながら念じる。


「……できた」


 予想的中である。見れば手首の先から壁に埋まり、見えなくなっていた。腕をさらに押し込むと壁に飲み込まれていていく。壁を貫通している手には物が触れている様な感触がある。


 よし、腕はすり抜けた。このまま全身通り抜けてみよう。そのまま壁に向かって進む。


 壁が迫りくる。顔に当たる直前、思わず目を閉じる。


 全身から触られる感覚が無くなり目を開いた。月に照らされる花々が目に映る。後ろを振り向くと壁が見えた。どうやら問題なく通り抜ける事ができたようだ。


 思わずガッツポーズを取る。


 いいね、幽霊してるよ! 私! でもさすがに壁が目の前に来た時はちょっと怖かったな。


 目の前で花々が揺れている。


 さてと、壁を通り抜けれる事はわかったし、とりあえず中に戻ろうかな。花は綺麗だけど、廃墟の中の方がなんか安心するし。


 ちょっと疲れた気がする。でもこれで映画の幽霊役でも恥ずかしくない位にはなれたかな?


 「……なにこれ」


 廃墟に戻ると、そこには禍々しい人魂の様な物が浮かんでいた。


 こんな物はさっきまで居なかったはずだ、いつの間に現れたのだろう。人魂は別に何をするでもなく漂っている。


 危険な存在ではないのか? 


 一見ただの炎にも見えるが、中心に丸い芯の様な物がありそこから湧き出ている。


 近寄ってみるが特に反応は無い。傍に来たことで気付いたのだが熱くない。燃えている様な外見をしているが一体何を出しているのだろうか。


 なんだろう、禍々しいのにどこか懐かしく感じる。好奇心から触ろうと手を伸ばす。


 まず、手をかざしてみたが何も起こらない。熱くも無いし冷たくも無い、なんなんだ。次に芯部分に触れてみる。


 あ、これ掴めるんだ。なんかプニプニしてるなぁ。グミみたいだ。


 先ほどと同様触れないと思ったがこちらには実体がある様だ。手触りの良い感触に何度もニギニギとしていると、手からするりと抜け出した。逃げるのかと思いきや手から少し離れた所で漂っていた。


 私が再び手を伸ばすとゆらゆらと逃げ回る。何回か試したが捕まえる事は出来なかった。何度も握られたため、嫌われたみたいだ。だが何故か私から遠くまでは逃げて行かない。


 とりあえず、敵意は無いとみていいだろう。ただ、どのようにして現れたのか。長い時間外に出ていた訳じゃない。せいぜいが1、2分程度だったはずだ。


 相変わらず漂うばかりの人魂を見ていると、一つ気になる事があった。


 人魂が浮いている場所、私が最初に寝ていた所だ。


 もしかして、この人魂も私と同じで何者かに連れてこられたのだろうか?


 


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