2.輝く世界にこんばんは
全てを思い出した。そう、私は…自分の部屋で……。なんで生きているのだろうか?
いや、もしかしたらここは、死後の世界なのか? もしそうだとしたら、ここは地獄? 改めて周囲を見渡す。
最初に目に着いたのは崩れ落ちた壁の残骸だった。隙間から植物が生えているあたり最近崩れた物ではないようだ。既に管理する住民が居なくなった事で荒れ果てたのだろう。
どうやら廃墟のようだ。一体ここはどこなのだろう? なぜ私は廃墟で寝ていたのか。疑問が次々と湧き出てくる。私はさらに情報を得るため、視線を巡らせた。
そして、崩れた壁から覗く景色に心を奪われた。風に揺らめき地の果てまで生える花々、その上をホタルのような淡い光が所々で煌めいていた。
幻想的な風景に心が動さられ、息を呑んだ。
「綺麗…」
思わず口から零れ落ちた、それほどに美しかった。崩れた建物も相まって退廃的な雰囲気を醸し出していた。ただ美しいだけでは無く、美しさの中にもの悲しさも併せ持っている。
世の中にはこんなに綺麗なものがあったんだ…。
って見惚れてる場合じゃないや、まずこの廃墟を調べてみよう。
起き上がるため視線を下に向けたことで気付く。
あれ? なんか私の体光ってない? 気のせい? だがそれよりも衝撃的な事実が発覚する。
す、透けてる! 透けてるよ! 体を透過し奥にひび割れた床が見える。
いや、待って。透けるってどうゆう事なの? た、ただの見間違い、そうに違いない。目を擦り再び視線を向ける。先ほどと同ようの景色が視界に入ってくる、どうやら現実らしい。
「もしかして……ゆ、幽霊になってる!?」
なんの冗談? 夢かもしれないと思い、頬をつねってみる。痛い……夢じゃないみたい。
幽霊に痛覚があるのもおかしな話だが、さしあたり夢ではないことは確かみたいだ。
私は自分の体を見下ろした。何度見ても相変わらず透けており、廃墟の床がばっちりと確認できる。なんかちょっと恥ずかしい…。
とりあえず、一旦無視することにした。それと体が光ってる事も棚上げしておくことにしよう。どっちも超常現象すぎるよ。
次は服装についてだが、いつの間に着替えたのか白色のワンピースを身にまとっている。動くたびヒラヒラと裾が揺れ動く。
私が幽霊であるなら普通は死ぬ直前の格好をしているものではないのだろうか。
「あ、この服…私が昔よく着てた服だ……」
なにやら既視感があると思ったら、私が中学生の頃に着ていたお気に入りのワンピースだった。成長するにつれて体が大きくなり、着れなくなったので処分したはずだ。
なぜ、今そんなものを着ているのだろうか? いや、そもそもある一部が収まらない、収まるはずがない。
改めて体を見下ろす、なるほどつま先がよく見える。
膨らみがだいぶ縮んでいるではないか。あんなに頑張ったのに…。無性に悲しくなってくる。
いずれにせよ、どうやら体が幼くなっているようだ。
不思議な出来事が続く。髪が黒じゃない。生まれてこの方一度も髪を染めた事は無いのにである。
「…もしかしてあの時に全部白髪になったのかな?」
首元まで垂れる横髪を手に取る、白というより銀色に近いようだ。過度のストレスで白髪になるらしいが今回は別の原因があるのだろう。
指から零れ、さらさらと流れるようは自分の髪ながら美しく感じた。
雲が途切れ煌々と輝く月が姿を見せる。
顔を照らす月に吸い寄せられるようして夜空を見上げた。背中の中ほどまで伸びた髪の毛がふわりと揺れた。私が知っている星座は見つける事が出来なかった。きっとここは日本ではないのだろう。
別に日本に未練があるわけじゃない。でも、いきなり見知らぬ土地に放りだされるなんて。戸惑いからか瞳が揺えていた。
月明かりを受け揺れ動く瞳は、まるでサファイヤのようで綺麗だ。
「一体どこに来ちゃったんだろう」
姿を現した月は、心なしか大きく見える。堂々としていて、なぜか励まされてるような気がした。
しばらくの間眺めていると視界の端にキラキラとした光りに気付いた。近寄り手に取ると割れたガラスだった。窓ガラスの一部かな? 私はそれを覗き込んだ。
ガラスが鏡のように景色を映し出す。そこには随分と懐かしい顔が映りこんでいた。
やはり、今の私は中学生時代の姿だったようだ。もっとも銀髪、青目という現実世界では滅多に居ない容姿を除けばだが。
「わぁー! 自分じゃないみたい!」
少しはしゃいだ口調で声を発した。色彩が変わることでこんなに印象が変わるとは私自身もビックリだ。ふむ、なかなかの美少女じゃないか。
なんどか角度を変えて自分を見つめる。実にナルシストじみているが気付くよう子は無い。
そ、そうだ。いつまでも自分に見惚れてる場合じゃなかった! 体同ように心まで若返っているのか、落ち着きが足りずすぐ脱線してしまう。
さて、もしも本当に幽霊だったら浮いたり、壁とかすり抜けれるよね? あとはポルターガイストで物を動かしたりできるはずだ。
どれから試そうか……よし、幽霊と言えばポルターガイストかな ホラー映画はそれなりに嗜んでいた為なじみ深いのだ。
とはいえ、どうすれば動かせるかな。念じてみればいいかな?
試してみるには実験体が必要だ。やるなら小さい物の方がいいだろう、たとえ実際に能力があってもいきなりデカい物を動かせる気はしない。
何より下手に動かして廃墟が崩れたら生き埋めだ、それは勘弁したい。
―――まあ既に生きてないのだろうけど。
そうと決まれば早速いろいろ物色だ。
廃墟内には、ごみが散乱していた。壁から落ちたであろうレンガブロック、腐食した木製の何か、割れた陶器の欠片、錆びだらけの棒、そしてガラスの破片。こうして見てみると私が寝ていた所だけ妙に綺麗だ。
誰かがごみを退かして私を寝かせた? あり得ないだろう、わざわざこんな廃墟にまで来てやることではない。そもそも、そんな事をして何の益があるのか疑問である。
「うーん。小さい物、小さい物…。陶器かガラスかなぁ」
割れた陶器の欠片を拾い上げた。以前は皿であったのだろうか、緩く湾曲していた。また、装飾が施されており、一見ラーメン丼ぶりの渦巻きのようだがこちらの方がより細かく描かれている。
「うん、君にしようかな」
手のひらに欠片を置いた。もしかしたらポルターガイストが使えるとかも、と考えると凄くワクワクする!
「ふぅんっ」
不思議な鳴き声を漏らしながら、欠片に念じる。動けぇ…動けぇ…。
しばらく念じ続けていると、手のひらを欠片が滑る感触がある。いい傾向だ、動くイメージを描きながらさらに強く念じた。先ほどよりも大きく、ぐっと動いたかと思うとカチャンと音を立て落下した。
「や、やった! 動いた!」
嬉しさが溢れ出し髪を踊らせながら跳ね回った。ほんの数センチ動いただけだが、それで十分だ。
「物が宙を舞うのはポルターガイストの鉄板だよねっ」
興奮冷めやらぬまま、浮かび上がるように念じる。先ほどと同ようにほんの少しずつ、ゆっくりと持ちあがる。
よし! もうコツが掴めたかな。私、幽霊の才能があるのかもしれない。
それからは時間を忘れて陶器の欠片を飛び回らせた。一度感覚を掴んでしまえば後は意のままだ。二つ三つと数を増やし、宙を舞わせ歓声を響かせた。
ああ、こんなに楽しいのはいつぶりだろう。
もし常人が見ていたならば恐怖のあまり腰を抜かしたかもしれない。だが幸いな事にその狂乱を目にする者は存在しないのである。
幽霊達はこんな面白い事をしていたんだ、そりゃポルターガイストも起こしたくなるよ。
思う存分暴れまわったが、飢えた獣のように次の獲物に狙いを定める。
「ふっ、ふふっ、ふ、ふふふっ」
幼げな容姿の割に心持ち重たげな唇を歪ませる。
陶器はもう十分ね、次は…レンガ! もう念じるのにも慣れたしレンガぐらいの質量があっても、余裕で操れるに違いない。
廃墟に転がるレンガブロックに向けて念じる、そして、持て余した興奮を現すように腕を勢いよく振り上げた。
「さあ! 飛べ!」
ズガァァン!
轟音と共にレンガブロックが打ちあがり夜空に消えていく。
「……え?」




