20.町でお仕事
屋敷へ着いてから早速ユリアーナさんと日程調整について話し合った。
主に研究に関する内容についてだ。
正直、私に含まれている未知の物質については進捗が芳しくない。直接観測が行えない物体なので、魔力と相対的に比較して進めている状態。
遠回りしながら解明していく手段しか取れないのだ。
さらに言えば、魔法の開発もあるので私だけに構っている余裕もない。研究費はパトロンから援助を受けてるので定期的に成果を提出しなければいけないのだ。
その結果、数日の時間を確保できた。魔法開発に対して私が手伝えるのは文字通り、己の体を差し出すことだけだ。
そのため、昨夜から庭で武器の扱いを練習している。戦闘が得意じゃない以上、技術の向上を成すのみだ。
短剣は浮遊で狙った所に飛ばせるように、槍は怨霊化した際の動きを思い出しながら振り回す。
カ、カ、カンッ
そして、只今は3本の短剣を全て同一個所に当てる練習中だ。
「目標をセンターに捉えて射出っ!」
よし、今度は良い感じに当てれた。なかなか中心を捉えるのが難しいな、複数同時に狙おうとすれば少しづつ離れた位置に着弾してしまう。
それに、刃の向きに注意を払わないと、片刃の短剣なので射出時に刺さらず弾かれる。槍と一緒だと安易に考えていたが想定よりも苦戦していた。
刃先が目標へ垂直を向くように調整しながら様々な角度から差し込む。
カ、カンッ キンッ
2本は的にしている丸太へ深々と刺さったが、残り1本は跳ね返って地面へと落下してする。
「こんなに刃を立てるのって難しかったんだ」
日が昇り始めるまで何度も挑戦していたが成功率は3割ほどだ。夜通し鍛錬を積んだが、まだまだ経験不足は明白である。
最終目標は槍で戦闘をしながら短剣を縦横無尽に動かすことだが難題ばかりだ。寝なくても済むから使える時間は多いんだけどね。
「んっ、眩しい」
今回はここら辺りで切り上げて、部屋で考えに耽っているとだまちゃんに会いに行こうかな。
「とだまちゃんおはよう。大人しくしてた?」
『……ん? うん。そもそも、大人しくする以前にわたしは何も出来ない』
「あー、それもそっか」
別段悪さするとも思っていないけど、茶化しながらでないと最近はちょっと気まずい。話しかけても反応が悪いからスルーされた時が辛いのだ。
きっと真剣に考察する事象が存在するのだろう、相談されないのは寂しいけど。
「ユリアーナさんも起きたと思うし、声を掛けに行こうよ」
『武器は置いて行くの? 今日もギルドに行くはず』
「荷物運びを頼まれてるからね、ギルドはその後だよ」
『そう、わかった』
部屋に装備を置いて、食堂へと向かう。ユリアーナさんは寝起きが弱く、朝起きると目を覚ますために食堂へと移動して席に付いているからだ。特に何をする訳でもなく、虚空を眺めて食事を待ってるだけなんだけどね。
ちなみに、初めて会った時は外で調べ物をしていたら朝だったそうな。寝るために屋敷へ戻った際に私と出会ったのだ。少しテンションがおかしかったのは睡眠を取っていないのも関係していたのだろう
「起きてるかな?」
顔だけ突っ込み、食堂を覗き込む。ユリアーナさんは席に付いて、まだ何も配膳されていないテーブルを見つめていた。
よし、起きてるね。これは実行できそうだ、驚いてくれるかな?
壁を透過して食堂へと侵入を果たす。こちらに背を向けてるのでバレてない。
ゆっくりと物音を立てないように浮遊して机の下を目指す。時折、意味にならない言葉を発して身じろぎするので振り向かないかソワソワする。
そして、数分を掛けて、ユリアーナさんに気付かれないように机の下へ潜り込んだ。
位置はユリアーナさんの真下、目線の先を予想して机をすり抜けて飛び上がる。
さあ、おはようございます!
「ばあ!」
「キャッ」
ビクンッと体を跳ねさせ、可愛らしい悲鳴を上げた。作戦大成功だ、フフフッ。
「な、なにするのよっ!」
「いやー、いつも寝ぼけてますんで目覚めを促してあげようかと!」
一体何をしていたかというと、寝起きでポヤポヤとしてるユリアーナさんを驚かして目を覚めましてあげようとね。
まあ、お世話になっているから、こういう所で恩返ししてあげようと移動中に思いついたのだ。
未だにビックリした猫みたいに目を丸くしてる、いつも余裕のある姿ばかり見ていたから新鮮な表情だ。
「もう! 心臓止まるかと思ったわ、まったく。確かに目は覚めたけれど」
「最初に驚かされたお返しですよ」
「貴方いい性格してるわね…」
「あと時間は有効に使わないとですよね?」
「はあ、手荒すぎるわよ。それで、他に用事は無いのかしら?」
「手伝いを終わらせたら冒険者ギルドへ行くので、挨拶でもしようかと」
「だったら普通に声を掛けて頂戴ね」
「あはは、ごめんなさい」
『…この顔はきっとまたやる。間違いない』
とだまちゃん、そんなこと無いよ。私は言われたことは守るもの。ねえ?
「初依頼といったところかしら? お仕事、頑張ってきなさいね」
そう言って頭を撫でられた。成人済みって伝えてあるんだけどな、親戚のお姉さんって感じがして嫌じゃないけどさ。
「ほら、もう行かないと依頼なくなるわよ」
「そうですね。では行ってきます」
さて、冒険者ギルドへ向かう前にお手伝い。老年執事のジェリックさんに倉庫から小麦の袋を厨房へ運んで欲しいと言われているのだ。
重くて腰にきそうだが私の浮遊にかかれば余裕だ。直接触れて浮かせれば、サクッと終了。
すぐさま部屋へ直行して、準備を済ませたら冒険者ギルドへ出発だ。
今日は町中での依頼を受けるつもりである。薬草採取など町の外での依頼も貼りだされているそうだが、草の見分け方なんて微塵も知らない。時間も掛かりそうなので選択肢からは除外だ。
そうなれば、残るのは町中でこなせる依頼という訳だ。可能なら浮遊を活用できる物にしたいと考えている。
持ち上げているように見せかけて、浮遊させれば力仕事でも問題ない。
ということで、冒険者ギルドへ着いた私は依頼書の貼り付けられたボード前で物色中。もちろん槍の中にはとだまちゃんも一緒だ。
「うーん、あんまり残っていないね」
『既にあさられた後、もっと早く出るべきだった』
とだまちゃんの言う通り、あらかた依頼は受けられてしまったようだ。ギルド内も人影は少ない、冒険者の朝は早いらしい。
依頼書はランクに応じて分けられて掲示されているので、Fランク依頼がまとめられた箇所を漁る。
んー、ここら辺ならいけそうかな。
石材の搬送に引っ越しの手伝い、空き家清掃の依頼書を剥がす。
石材搬送は建築資材を荷車5台分指定位置に持っていくみたい。残りの2つはそのままで、引っ越しの荷物を家の外まで移動させるのと空き家を清掃して住める状況にする依頼だ。
浮遊を使えば全て今日中に終わらせられるだろう。もし、終わらなくても依頼期間は余裕がある、問題なく片付けれる。
「確かこれをカウンター持ってけばいいんだよね」
依頼書片手にカウンターまで移動すると、前回とは違い3つほど稼働していた。その1つにルフレミさんも受付に座っていたが群を抜いて並んでいる人が多い。
きっと、彼女の素朴ながら整った容姿が手が届きそうで人気なのだろう。
3つの内、一番空いているカウンターに並ぶ。受付はキリッとした鋭い眼差しをした黒髪の女性だった。淡々と客を捌いている、人が少ないのは効率の良さもあるようだった。
5分ほどして私の番が回って来る。
「これお願いします」
「はい、依頼の受注が3件ですね。処理しますので暗証番号とギルド証の提示をお願いします」
番号を入力してギルド証を首から外して手渡せば、黙々と作業を進めていった。
「石材搬送と引っ越しの補助は力仕事が求められますがお間違いないですか?」
どうやら、私の見た目で依頼に適していないと思われたようだ。まあ、普通こんな小柄な少女が重い荷物を運べるとは考えないよね。
「力には自信があるので大丈夫です」
「…失礼しました、これで完了となります。依頼をキャンセルされる場合は期限内にお願いします」
依頼書を返されながら忠告をもらった。さすがに信用されていないみたいだ、最後の言葉は絶対に辞退すると予想してる。残念だけど私には浮遊があるので無問題なんだけどね。
「ありがとうございました」
「ご武運を。それでは次の方どうぞ」
ギルド証に首を通しながら扉を目指す。
さて、時間の掛かりそうな石材運搬から行こうか。ひとまず依頼書に記載された場所に行けばいいらしい。運ぶ予定の荷車もきっとそこにあるのだろう。
「よーし、気張っていくぞ」
指定されている場所はギルドからほど近い石材屋だった。早速店主らしき人物へ依頼で来たことを伝えると、驚きながらも荷車まで案内してくれた。
成人男性が数人は乗れそうなサイズ。ちょっと予想外だ、イメージしていた大きさよりもデカいぞ。これ運べるだろうか、人力で引いて行くにしても大き過ぎやしないか?
「お嬢ちゃん、本当に運べるのかい?」
「だ、大丈夫です!」
ええい、こうなれば絶対に運んでやるぞ。荷車に浮遊を念じながら思いっきり押す。
「ぐぐぐっ」
ミシミシと音を立てるがビクともしていない、これはまずいぞ。あんだけ啖呵きっておいて出来ませんは恥ずかし過ぎる。
私が何とか動かそうとしていると、見かねたようにとだまちゃんが声を掛けてきた。
『まだ未完成だけどしょうがない、わたしも手伝う』
「はい?」
『グラッジスピアを使う要領で思い浮かべて。そしたら、体全体を包むように纏わせる』
よくわからないけど、とだまちゃんに言われたように試してみようか。憎らしいあいつを思い浮かべて、感情を溢れ出させる。次に体に沿うようなイメージを持つ。
うーん、こんな感じかな?
すると、フッと軽くなる感覚があった。その感じを忘れないように何度か試みる。ウエットスーツみたいに体にピッタリと貼り付くように…。
そして、何度目かの試行の末ゆっくりと車輪が動き出きだした。
「や、やった」
店主さんは私が本当に荷車を動かせたことにかなり驚愕していたが、配送場所の書かれた地図を渡して送り出してくれた。
それにしても、浮遊とはまた違った不思議な感覚がある。全身を外側から動かされているようだ。
ゆっくりと移動しながらとだまちゃんに聞いてみる。
「これ何なの?」
『簡単に言えば身体強化。手を見て』
その言葉に手へと目線を向けるとモヤモヤとしたものが覆っていた。
とだまちゃん曰く、グラッジスピアと同じように憎悪を利用して体の動きを補助しているらしい。私の感情を呼び水に憎悪を引き出して全身へ纏わせるようだ。
それと、制限をいい塩梅で緩めるのに苦労するらしく、出力が低いとか。現状でもかなりのパワーが出ているから技として完成したら凄いことになりそうだ。
『これで少しはわたしも役に立てる』
最近悩んでいたのは、この技を考えていたのか。相談してくれなくて寂しいとか思っていた私が恥ずかしくなって来るよ。
「そんなこと気にしなくてもいいのに。でも、ありがとね」
『うん』
早いとは言えないが着実に歩みを進めて行く。これで依頼は何とか達成できそうだ。




