19.町内探索
「はっ!」
ヒュッ
「ま、負けました」
はい、無理でした! 試験開始直後、一瞬で距離を詰めてきたルフレミさんに木剣を突きつけられて完全敗北。
受付のルフレミさんに案内されて着いた場所は、土が敷き詰められた広めの運動場。
誰と試合をするのかと考えていれば、膝丈のスカートを履いたルフレミさんが、木剣を掴んで正面に立ったから驚きだ。
驚き冷めやらぬまま、開始の合図を掛けられて終了だ。暗めの茶髪で黒目というオフィスの入り口に座って居そうな見た目なのに手も足も出なかった。細身で綺麗なお姉さんが強いってずるくないか。
そんな訳であっさりと試験が終わりカウンターまで戻って来た。
「ルフレミさん強いんですね」
「ビックリしました? 実はギルド職員になる以前は冒険者だったんです」
「なるほど、結構高ランクだったり?」
「元Bランクです、幼少期から父親に付いて活動していただけですけど」
通りで強い訳だ。私なんぞ相手にならない理由がわかったよ。
でも、そんな人が試験官だったら合格者なんて出るのかな? 疑問に思ったので聞いてみる。
この昇格できる制度は、実力を持つ人材が早めに高ランクに到達できるように制定されたらしい。故に試験官も相応の力量を兼ね備えた職員になるそうだ。
元騎士だったり傭兵として活動していた経歴がある人などが試験を突破してるみたい。
それにしても、Bランクであの速度ならSランクは一体どんな化け物なんだ。山を消しとばしても不思議じゃないぞ。
「依頼を受けますか?」
カウンターに戻ったルフレミさんがそう聞いてきた。
どうしようか。昼過ぎに屋敷を出発したから、現在の時刻は夕暮れ前だ。今から依頼をこなすには遅すぎるし、さすがにやめとこうか。
「今日はやめておきます」
「わかりました、ご用命ならいつでも声を掛けてください」
ルフレミさんに断りを入れてから冒険者ギルドを退出する。
登録後に酒場の冒険者から罵倒でも飛んでこないかとビクビクしていたが、彼らは私のことなど微塵も興味が無いらしくジョッキを傾けていた。
依頼を受けないなら何をするかだが、町の散策に向かおうと思う。結局これまで屋敷に籠りっぱなしだから気分転換に歩き回るのもいいだろう。
「どこに行こう、やっぱりここは市場がいいかな?」
『……』
「とだまちゃん?」
『……ん?』
「どうかした?」
『別に何もない、なにかあった?』
「いや、これから行くところ市場がいいかなって」
『別にどこでもいいと思う』
最近この具合で声を掛けても反応が悪い。もしかして、ユリアーナさんの魔の手から救わなかったからだろうか。
「ねえ、ユリアーナさんのことでまだ怒ってる?」
『そういう訳じゃない、気にしないでいい』
考えごとでもあるのだろうか、何か懸念でも湧いているなら相談の1つでもして欲しい物だ。何度聞いても気にするなとしか言ってくれないし、私には伝えられない事柄なのか。
まあ、問い詰めても答えてくれないから、時期を見て再び聞いてみよう。
市場は噴水から南下した位置に開かれていた。人で賑わい様々な店が立ち並び、通行人を呼び込む声が辺り一帯に響く。
食料品や日用雑貨、武具に宝石まで何でもござれだ。
良さそうな品物があれば買うのも有りかな。コーディアルさんのお陰で2,000ラジン程ある、安めの武器ぐらいなら余裕でいけそう。
色々目移りしながら市場を歩いて行く。
美味しそうなスープや炒め物も売ってる。私に嗅覚が残っていたら匂いでおかしくなっていただろう。
それにしても、あまりに不用心に商品を並べている。いつか見た南米の屋台も似たような雰囲気だったが盗まれたりしないのかな。
この町は比較的治安がいいらしいがそれでも窃盗や殺人も普通に起きている。実は裏路地に逃げ込んだ時も危なかったのだ。身持ちを崩した住人やうだつの上がらない冒険者などがうろついてる。
「あれ、何だろう?」
催し物でも開催しているのか、人だかりができていた。人垣の隙間から覗くと青色の髪を後ろで束ねた女の子が、宙に投げた果物を細い剣で貫いていた。
ブドウ程の果実を連続で串刺して行くたびに群衆は歓声を上げ、女の子の前に置かれた袋には硬貨が投げ込まれる。
「すごいね、あの子。1回も失敗してないよ」
『レイには絶対に無理、夢は見ない方がいい』
「わかってるよ…、それくらい」
もう少し眺めていたいが人が多すぎてよく見えない。多少は大道芸を楽しめたし、移動を再開しようか。
その後も市場の探索を続け、端の方まで辿り着く。結局何も買っていないが、異国情緒溢れる光景は私の好奇心を刺激して十分に楽しむことができた。
さてと、もう日も落ちてきたし次の店を最後して帰ろう、あそこは何を売ってるかな?
近づいてみると綺麗に並べられた短剣が陳列されている。シンプルな物から刀身にまで装飾が施された煌びやかな物まで種類が豊富だ。
「どうだいお嬢ちゃん、1本買わないか? 安くすぜ」
「うーん、どうしようかな」
「見た限り冒険者だろ? こいつがあれば採取に解体、投げてもいい。なんでも出来るぜ」
そう言って取り出したのは少し厚めに作られた片刃の短剣だった。
「かっこいいです」
「だろ! 今なら3本セットで2,500ラジンだ。どうだい?」
槍以外にも射出できる武器があれば、手数が増えるため一考にする価値があるのだが残念ながらお金が足りない。
見た目も無骨でかっこいいから欲しくなるが、致し方ないだろう。
「欲しいんですけど2,000ラジンしか手持ちがないんです」
「なら、2,000でいいぜ」
「ちなみに、私の全財産なんですけど…」
チラッ
「ああ? しょうがねえな、1,800でどうだ。これ以上はまけねえぞ」
「買います!」
お金を支払い短剣を受け取る。短剣3本だけだと思っていたが、短剣を固定するホルダーも付属していたようだ。ベルトを通して腰で固定するタイプで短剣を鞘ごとホルダー差し込んで保有する。
早速マントの上から腰の後ろに着けてみる。
それなりの重量を感じるが抜刀しやすく、引っかかることも無いので浮遊でも簡単に扱えるだろう。
いい買い物ができた、財布は大分軽くはなったがこれから稼げば問題ない。
そもそも、屋敷に居候させてもらっており、幽霊だから食事は必要なし。代謝もないから風呂すら入らなくてもいいとお金の掛からない生活を送っているのだ。
まあ、その代わり研究には積極的に協力しているし、私にできることは手伝っているけどね。
さて、買い物も済んだことだし屋敷へと戻りますか。
薄暗くなり街灯が点灯し始めた町を意気揚々と歩く。
ユリアーナさんと今後のスケジュールについて話し合いたいし。魔法の習得、ランク上げ、研究協力とやることはいっぱいある。
「これから忙しくなるぞ!」




