18.冒険者ギルド
きらびやかな室内に置かれた豪奢なソファ。
そこに寝そべりながら金髪の男女をつまらなそうに眺める女が口を開く。
「それで汝らは、何も成さずに帰ってきたと申すのか」
「も、申し訳ございません! 不測の事態が発生しため、至急ご報告に伺うべきと判断した次第です」
着崩した着物を纏い、扇子に煽られ金色の髪がなびく。男が頭を下げる度に、右へ左へ揺れる尻尾。
そして、頭上にはヒョコヒョコと動く耳が生えていた。
この世界で獣人と呼ばれる姿をしている女は呆れたような表情をしている。
「何故、簡単な使いすらできぬ? 誠に役立たずな奴らよ」
「至極当然な評価でございます。ですが、所在は把握しておりますのでお時間いただければ、ご期待に沿える結果をお渡しできるとお約束いたします!」
なんで私が怒られないといけないんだ、全て一柳さんの短慮が原因じゃないか!
いつもそうだ、私ばかりが貧乏くじを引かされる…。一柳さんもくだらなそうにしてないで謝罪の1つでもしてくださいよ!
「はあ、もうよい。苦悩、愉悦、汝らは別の思念の回収を進めよ。しばし、憎悪は放置する」
「は、はい。承知いたしました」
「ああ? まだこき使うのかよ! そもそも、てめぇが法螺こいたのが悪ぃんだろうが。あと俺は愉悦じゃねえ、一柳 一斎だ!」
もう大人しくしててくださいよ。これ以上怒らせたらどうなるか考えるだけでも恐ろしいのに。
「ほう? 又ぞろ閉じ込められたいようじゃな」
「い、いや、待てよ。別にそんなこと言ってねぇだろう」
「誰が連れてきたのか忘れたのかえ? 汝を封ずるなんぞ容易い、わかったら我に逆らわぬことじゃ」
「ちっ、クソ女狐め」
「……こやつを引き入れたのは間違いであったか。まあいい、早う役目を果たせ」
「それでは準備がありますので失礼いたします」
性格を表すように男は早足でそそくさと女は大股でドシドシ歩き、部屋を退出した。
横になっていた女性はソファから立ち上がり、窓の外に広がる街を見つめる。
「我が悲願の達成までどれほど掛かろうか。あやつらにはいつか必ず、目に物見せてくれよう」
傾き始めた太陽が茜色に照らす瞳には、決して揺るがない執着の想いが宿っていた。
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ここ数日は屋敷に引きこもってユリアーナさんから魔法を教わったり、私の実態解明に協力したりして過ごした。
魔法については未だ魔力を操る感覚が理解できず発動には至っていない。
本来数年を掛けて覚えていくらしいので当たり前ではあるがちょっと悔しさが滲む。
私だっていきなり凄い魔法を使って周りに驚かれたかった…。
研究は関してはついにとだまちゃんの調査に乗り出した。ユリアーナさんにギュッと掴まれ逃げれずに悶えている姿は、いつものクールぶりが剥がれて可愛かった。
『レイ! 助けて! このままだと潰される!』
「どうでしょうか?」
「面白い感触ね。スライムに似ているけれど核は無いわ、どうやって維持しているのかしら」
『無視しないで! この女に止めるように伝えて!』
「構成は貴方と同じみたいね。でも、湧き出ているこれは何なの?」
『バカ! レイのアホ!』
プニプニとした感触を思い出し、私も握りたくなったが我慢して最後まで付き合った。
途中から諦めたのか抵抗もせずに大人しくしていた。私に向けて呪詛を吐き続けていたけど。
色々とあったが今日は冒険者ギルドへ向かっていた。
金髪の女性について調査を続け、町に滞在していないと判明したので、漸く外出禁止令が解除されたのである。
また、調べてくれたのは執事のお爺さんで報告の際に初めて顔を合わせた。
背筋がピンと伸びているダンディな紳士であった。若い頃は娘子に好かれ、現在はマダムにモテそうな容姿をしている。
ついでに庭師の人とも鉢合わせたがこちらも年相応に皺が刻まれていた。衰え知らずなのか筋肉ムキムキで仙人みたいな髭が生えている。
そんな訳で安全が保障されたので冒険者として登録するために出かけているのだ。
理由は単純で魔物を狩るために町の外に出る必要があるから。
実体化を目指すには獣魂の吸収が必須となるだろう。
それに、村で戦っていた魔物より強い個体を倒していきたいので、各地から情報が集まる冒険者ギルドは打って付けだ。
冒険者になれば依頼料から天引きされるから、いちいち通行料を支払う手間もないからね。あとは普通に出入りするより安くなるみたいだし、一石四鳥の良いこと尽くめだよ。
「てなわけで再び冒険者ギルドへやって来ましたよっと」
『……』
冒険者ギルド内部はガラガラで初めて来た時の喧騒が嘘のようだ。酒場に幾ばか溜まっている程度でカウンターは空いている。
人が少ないのは良いことだ、喧嘩に巻き込まれる心配も少ないだろう。ギルドで絡まれるのは現実では嬉しくもないからね。
利用客の減少に伴ってかカウンターの受付も1人だけのようだ。まあ、世界が変わっても人件費というのは馬鹿にならないのだろう。出費を抑えるために苦労しているのが目に浮かぶよ。
不意にカウンターの受付と視線が交わった、何やら好奇の目を向けてくる。暇そうにしていたから客の対応でもして時間を潰したいんかね。
対応するべき人物かどうか見定めているだけかもしれないが。
どちらにしても登録するためにカウンターに行く必要があるので足を運んだ。
「こんにちは。ご依頼ですか?」
先んじて声を掛けてきたので慌てて返答する。
「い、いえ、冒険者になりたくて来たんです」
「あー、登録ですか。わかりました、少々お待ちくださいね」
バタバタと何やら準備をし始めた。確か登録には試験や資格などは要らないと聞いているから登録書類の類だろう。
「お待たせしました。今回対応させていただく、受付のルフレミです」
「よろしくお願いします」
「はい、それではお名前からよろしいですか?」
「レイ・フェイバレーです」
冒険者ギルドに来る前に家名も考えてきたのだ。元の姓は幽谷なので、幽かでfaint、谷はvalleyで合わせてフェイバレーだ。
「レイ・フェイバレーさんですね。では…」
年齢や主に使用する攻撃方法など幾つか聞かれたぐらいで終了となった。少し文字は読めるようになったが書きは全くできないので受付が書いてくれて助かった。
「次に6桁の暗証番号を設定してもらいます」
「暗証番号?」
「はい、ご本人確認に使用させていただく物です。また、紛失や盗難時に悪用されないためでもあります。ギルド利用時に暗証番号とギルド証の提示が必須なので忘れないように注意してくださいね」
こちらでお願いします、と渡されたのは電卓みたいな四角い板だった。数字の書かれた9つボタンと決定、キャンセル用のボタンが配置されている。
随分ハイテクに思えるがこれも家電魔法を用いた機器なのだろう。
ちなみに、家電魔法を使用した物は魔道具と呼ばれている。ユリアーナさんから受け取ったブローチも魔道具だ。
「はい、ありがとうございます。では最後に注意事項をご説明します」
まずは、冒険者ギルドに登録されていることを示すギルド証についてだった。
ギルド証は首から下げるタグのような物で紛失・破損した場合はギルドに再発行を申し出ること、その際には登録料の倍額である2,000ラジン掛かる。
冒険者を管理するために、魔石が埋め込まれた魔道具をギルド証として使用する関係で高額になるみたい。
絶対に紛失には気を付けようと思う。
ギルド証は2枚組で1枚は個人認証用に魔道具になっている物、もう1枚はギルドランクを証明する物らしい。
ランクはFランクからスタートしてランクが上がるとタグが更新される。F、Eだと木、Dが鉄、Cが銅、Bが銀、Aが金、Sは赤色の魔石だ。
ギルドの依頼は、冒険者ランクに準じた依頼しか受けれず、基本的に上下1ランク差までの依頼まで受注可能。
一定数の依頼を完了することで、ランクアップの試験を受けられる。依頼を連続して失敗すると降格処分となる。
また、一定期間依頼を受けなくても降格処分。もし、Fランクだった場合は除名される。
冒険者同士の争いは関与しないがギルド内では処罰が下ることもあるらしい。
そして、今更気付いたが受付のルフレミさんは初めてギルドに来た時に、金髪の女性に絡まれていた人だった。
あの時、私の方に殴り飛ばして来た冒険者は処罰を受けたのだろうか。出来ればそう願いたい、お陰で散々な目に合わされたのだから。
「こちらがギルド証です。これで登録は以上ですが質問等ありますか?」
「Fランクで魔物を倒す依頼ってありますか?」
「残念ながらありませんね。Fランクは経験を積むためですから危険の少ない依頼しかありませんよ」
「そうですか…。Eランクなれば受けれますよね?」
「はい、その通りですよ」
「うむむ、頑張って上げるしかないか」
「相当厳しいですが、試験官に勝てばEランクに上げることは出来ますが…受けます?」
「うーん、負けてもペナルティとか無いなら挑戦したいです」
「もちろん、ありませんよ。でも、本当に良いんですね?」
何でそんなに確認してくるの、怖くなって来くじゃない。でも、最初から魔物討伐できるなら試すしかないだろう。
「はい、お願いします」
「わかりました、案内します。頑張ってくださいね」




