14.ジラールの町
道なりに飛ぶこと2時間。
これまでは順調に進んできていた。おおよそ、折り返し地点と言った所だろうか。
メリル村とジラールの町の間に宿場町などは無いと聞いている。
コテージ風の休憩小屋は設置されているようだが、よく魔物に襲われて至る所に穴が開いているそうだ。使用頻度は高くない。
雨風は防げるので野宿するよりは快適に過ごせると思う。まあ、私達が利用する機会は訪れないだろう、そのまま直進だ。
「それでね、あの時は…」
『待って、何か前にいる』
砂利が敷設された道路上に何かを見つけたようだ。そちらに視線を向ければ見覚えのある小型の人影。
なんだゴブリンか、また道路に出て騒いでるよ。何をしたいんだろう? 道路を破壊して流通を妨害する目的…ないか。
どう見てもそんな陰謀など、考え着く頭脳なんて持ち合わせていない。
ただ、砂利が大量に敷いてあるのが珍しいだろう。
さて、無視しても良いけど馬車とかの通行を妨げるし、お掃除と行きますか。
数は2匹、以前と変わらず枝を装備している。彼らの愛用武器なのだろうか、脅威は感じられない。
敵対する身としては容易く倒せるから別にいいけどね。それに、新技のお披露目も兼ねれそうだ。
とだまちゃんから教えてもらった、憎悪を利用して槍を模した遠距離攻撃。
その名もグラッジスピア。
まだ、庭で練習したのみで戦闘では試していない。おあつらえ向きの標的となり得るだろう。
浮遊で背中から槍を外し、目の前に持ってくる。
そして、憎らしい相手を思い浮かべ力を引き出す。撫でつけた髪、ニタニタとした顔、無遠慮に触れてくる節ばった指。
あの日、心が軋み歪んだ元凶。
お門違いと言われようとも私は実際に砕けたのだ、その噴煙を形にしてイメージを固めた。
眼前には槍を模った感情の刃。あの血煙漂う瞬間の一部を再現することに成功したのだ。
「喰らえ、グラッジスピア!」
金属製の槍と共にゴブリンに向けて発射する。
「グガッ」
胸を穿たれた2匹はもんどりを打って倒れ伏す。まだ、心のざわめきが収まらないが無事に処理できたようだ。
これで戦闘がより一層楽になるだろう。撃ち放った後の不快感は慣れないけど。
「上手くいったね」
『うん、練習通り出来てると思う』
「後は素早く気持ちの切り替えをする練習だね」
撃ち終わった後も落ち着くまで集中が途切れてしまうので乱戦などではまだ使えない。
危険と隣り合わせの攻撃なのだ。
その分威力は絶大だ。庭の石は粉々に砕け散り、ゴブリンも一撃だ。動いてる的に直撃させる自信は無いけどね。
ちなみに、グラッジスピアと言う名前はとだまちゃんが付けた。憎悪の槍という意味らしい。別に中学生男子が主に発症するアレで着けたのでは無い、ちゃんとした理由がある。
名前を付けることでイメージを掴みやすくするためである。
また、魔法の発動時には術式名を発声するので、魔法の一種だと周りに認識を植え付ける目的だ。
一時期本格的に憧れていた時期もあったので凄くカッコいいと思う、ネーミングセンス有るよね。
さて、ちゅるちゅるしたら後片付けのお時間だ。道路脇に浮遊で移動させて、地面に埋めたら完了。魔石は取り出さない、解体はまだきついのである。
『それじゃあ、町に向かう。まだ道のりは長い』
「おや、とだまちゃんも町に興味が湧いた?」
『違う、時間は有効に使うべき。ただそれだけ』
「ほんとかなぁ? 実は気になって来たんじゃないの?」
『そんなことは無い。早く進む!』
「はいはい」
とだまちゃんに急かされるまま、移動を開始した。草原を横目に夜道を浮遊する。
異世界に来てから夜に行動する割合が圧倒的に増えた。
幽霊になったのも理由の1つだけど、単純に夜中の雰囲気が好きになったからだ。
空で星が輝き、月明かりが周囲を優しく照らす。都会ではあまり見れない光景だった、昔はいつも眺めていた景色のはずなのに。
いつ頃から空を見上げなくなったのだろうか。
静かで落ち着いた感じがして、穏やかな気持ちになれる。好きだな本当に。
町に入ればまた見えなくなるのか、もしそうだったら偶には野宿するのもありだろう。
『……』
ゴブリンを倒してからは特にイベントは起こらず、1時間弱が過ぎた。
地面の砂利道は様変わりして、綺麗に舗装された石畳に変化している。どうやって作ったのか、隙間も無く石材が嵌っていた。魔法を使ったのかな?
そうなると手間も大分掛かっているはず、町が近い証拠だろう。
道の奥には森があり、反対側を確認することは出来ない。
きっとあの裏側には想像する景色が広がっているはず。ジラールは丘に建設された町、ようやく対面だ。
木々を抜けた先は波打つように連なる丘。その彼方には小高く盛り上り、壁のような物がそびえ立っていた。
「見えた!」
立派な外壁だ。メニル村とは比べるべくもない程の巨体で守られている。
外壁の一部は穴が開いており、上から矢でも打ち下せそうだった。魔物を撃退する意図で設けられているのだろう。もしくは、監視が目的か。
なんにせよ、堅牢で強固な防衛を展開出来ることが見受けられる。
「見てよ、あの石壁! アレがジラールの町だよね」
『たぶん。嘘をつかれてなければ間違いないと思う』
「コーディアルさんが嘘を付くはずないよ?」
『さあ、どうだか。どうでもいい』
とだまちゃんは本当に興味なさげだ。別にいいもん、私だけでも楽しむんだから。
石畳の先はジラールの町に通じており、木製の扉が確認できた。あそこから出入りするのだろう。門前には周囲を照らす明かりが灯っている。
外壁の上部には凹凸が作られ、チラチラと明かりが見え隠れしている。上には巡回が配備されてるらしい。
村のザル警備とは段違いだね。
そろそろ地面に降りて、自分の足で歩くとしよう。大分近づいたから、浮いている所を目撃されそうだ。浮遊して移動可能な魔法使いは希少、不用意に警戒させたくない。
町に入るための準備を進めていく。
とだまちゃんは槍の中に潜んでいる。怨霊化と同様に、黒く染まったが異様な威圧感は発していない。これで問題は起きないはずだ。
人魂が封入された槍を背負い、歩いて行くが途中でこっそり浮遊させた。
背中に括り付けて、歩行するには重すぎたよ……。
・・・・・・・・・・・・・
「ん? むっ、何者だっ!」
人の形がハッキリと判別できる距離まで来ると、門番達は武器を突きつけて誰何してくる。
「あっ、えと、旅人ですっ。メニル村から来ました」
門番2人は眉をひそめ、顔を見合わせた。
「こんな時間に君1人でかい? 悪いが日が昇るまで門は開かないぞ?」
年若い高めの声で警戒を解いたのか、武器を下し口調まで優しくなった。幼さはやはり正義か…?
「えっ! そうなんですか……」
「済まないな、開門までは通せない決まりがあるんだ」
「どうしよう、待つしかないですよね?」
「そうだな、その通りだ」
入場に時間制限が設定されていたのか。深夜営業は行っておりませんでした。
「ところで、君は何をしに来たんだい?」
「えっと、おじいちゃんの知り合いに会うためです」
門番の1人である赤髪を短く整えたおじさんと会話を続ける。
焦りでコーディアルさんをおじいちゃん呼びしてしまったが、気持ち的には問題ないよね。とりあえず、町に来た理由を所々ぼかしながら伝えた。
正直フードを取れと言われないかドッキドキである。うーん、紹介状を見せるべき場面だろうか。でも、門は開けられないと言われたし、大人しく会話でもしながら待つか。
両親のことも聞かれたので、家族はおじいちゃんだけと伝えたら泣きながら謝られた。
嘘ついているみたいで、ちょっと心苦しい。事実だけどこの世界で起きた事ではないのだ。
門番さんはとっても良い人達だった。
フードに関しても恥ずかしいと言えば、気を悪くする素振りは微塵も見せず、被ったままでも良いと許してくれた。
近所の子供を相手するような対応は、むずがゆかく感じる。精神年齢はあと1年でアラサーです…。
それからも話は続き、最終的におじさん達の武勇伝を聞く、ただの相槌マシーンと化していた。ごめんなさい、それ2回目なんですよ。
だが、そのお陰もあり開門の時間まで過ごすことができたのであった。
「おや、もうこんな時間だ。お嬢ちゃん待たせたね」
「あ、ははは。そう、ですね。はは…」
「さて、入場料は200ラジンだ」
「っと、あの、これがあるんですけど」
腰に付けたポーチから紹介状を取り出して手渡す。差し出した際に袖から手が覗き、焦りが出たが気付かれずに済んだ。幽霊で無ければ冷や汗でびっちょりしていただろう。
「うん? 開けても良いのかい?」
「はい、大丈夫です」
赤髪のおじさんは封を切り、手紙を読んでいった。
「なっ、これは。 ランジュレ様の紋章じゃないか! 君はあのお方の縁者なのか?」
「あ、いえ。おじいちゃんがお知り合いみたいで」
「なるほど、そうかそうか。よし、直ぐに町に入れてあげよう」
彼が開門の要求するとガタガタと音を立て、木製の門が開いていく。
異世界に転生してからひと月、ついに町へ入場するのだ、固唾を呑んで門を見つめる。
「自己紹介が遅れたね、警備隊のランベリクだ。ようこそ、我らが敬愛するジラールの町へ!」




