13.別天地へ
コーディアルさんから話を受けてから4日目。
私は自室でマントを身に纏っていた。
厚めの生地で透けて見えることも無いだろう、水色で綺麗に染められている。異世界初の衣服だ。
元々着ていたワンピースは脱ごうと思えば脱げたが、その必要は感じなかったので服に頓着しなかった。
鏡の前で仕上がりを確認する。
うん、フードまで被れば体が透過していることはバレないね。長めのブーツも用意してもらったので万全だ。すり抜けれなくなったが最悪その場で着替えれば問題は無い。
マントだけだが、こうして着てみれば立派な異世界人だ。
旅人は皆マントに身を包み、風や埃から体を守るらしいので違和感はないだろう。問題なく溶け込めるはずだ。
マントの次はブーツに取り掛かる。
こうして準備をしている理由は、町に向かいユリアーナさんに会うことを決めたからだ。
ここでは私の求める情報が入ってこない。辺境であるため基本的にみんな農家で魔法に関係する本なども大して存在はしないのだ。
コーディアルさんが詳しいと言っても知識には限度があるし、専門分野ではないため最低限しか持ち合わせていない。
魔法の発動に関しても彼は感覚派だったから、魔力を操る方法を教わろうにもアバウトすぎてわからなかった。
コーディアルさんの友人は魔法を幾つも開発しているらしいのでそちらで教わるのが良いだろう。
そして、最大の理由は魔法開発の一環として魔物も研究しているからだ。人間に戻る方法について糸口が見つかるかもしれない。
正確には私に魔石は生成されていないので魔物では無いが、似た形態の魔物から情報が得られれば御の字だ。
また、小物の魔物をいくら倒しても実体化には至らないと分かったので、もっと強い魔物を倒したいとも考えていた。
場所が変われば魔物の分布も変化するのだ。
「これでよし」
ブーツも履き終え、着替えが完了したのでコーディアルさんの待つリビングへと向かう。
「似合っているじゃないか。うむ、これで大丈夫だろう」
「はい。本当にお世話になりました」
「気にすることは無いよ。あいつによろしくと伝えてくれ」
「はい、伝えておきます」
「きっと元に戻る助けになる、ここに居るよりもね」
「絶対に達成してみせます!」
「頑張るんだよ。それじゃあ行っておいで」
「ありがとうございました。それではお元気で!」
「ああ、君たちもね」
最後に別れの挨拶を交わし、玄関へと移動する。
ドアを開ければ夜空に月が昇っている。現在の時刻は夜、村は寝静まっている。私は居ないことになっているので白昼堂々と出ていくわけにはいかない。
なんだかこの村に来たことを思い出す。コーディアルさんの家に忍び込んで何とか和解して、家に置いてもらい色々教わった。彼のお陰で本当に良い時間を過ごせた。
次会う時は実体化を果たして、人間としてかな。よし、気合を入れていこう。
街道を目指して浮遊する。後ろを見ればコーディアルさんが玄関先で手を振っていた。
私も大きく振り返し、夜道を駆けていく。
マントがヒラヒラと揺れ動き、背中で固定された槍がカチリと音を立てる。夜の風が気持ちいい、門出を祝われているかのように優しく吹き抜けていく。
新しい町はどんな所だろうか、ちょっと不安だけどワクワクもしている。
メニル村より断然発展をしており、住んでいる人の数も倍以上だ。何より街中に入るのだ、今までは誤解を与えないため村の中にも一切入っていない。早く見てみたい物だ。
「楽しみだね、町」
『わたしはそうでもない。ただ付いて行くだけ』
「とだまちゃんはクールだねぇ」
『……』
砂利道を進む。私達の目的地はジラールの町だ、周辺では一番大きい町らしい。コーディアルさんの説明によると住民は1万程度、冒険者ギルドもあるとのこと。
村からは馬車で1日ちょっと掛かるみたいだ。
私の移動速度は全力で走るぐらいだから、えーと。50メートル走が9秒だったかな? それで馬車が確か徒歩よりちょっと速い程度。休憩とかを含めれば……。
私は現在の速度をずっと維持できるから4、5時間で着きそう。
そう考えると浮遊はチートだね、金属製の武器を背負ったまま、何時間も全力疾走できるってことでしょ? 凄い能力であるのは間違いない。
とはいえ、移動に長時間かかるのは変わりない。新幹線で大阪から東京までを往復できてしまうだろう。とだまちゃんと会話でもして時間を潰そうか。
「そういえば口とか無いのに、なんでとだまちゃんと会話できるの?」
『それは底の方で繋がってるから』
「繋がってる?」
『元は1つだった。その関係で意思が伝えられる』
「ふーん、なるほどね」
何やら繋がっているらしい。見えないコードでも私から伸びているのだろうか。
「じゃあ、あの力が使えるのもそのお陰なの?」
『そう、わたしを媒体として引き出してる。普段は制限をかけてるけど』
「制限がなくなったらどうなるのかな。怨霊化するとか?」
『そうなったら終わり。一気に憎悪に飲み込まれる、怨霊化の時も緩めてるだけ』
「うそっ! それはまずいね」
とだまちゃんが居ないとパワーアップどころか感情に塗りつぶされて終了だったのか。恐ろしい、本当に居てくれてよかったよ。
まあ、どの道私1人だったらとっくの昔に冥界に落ちていただろうけど。
オオカミ戦で1回、白ウサギで2回。薄氷の上でタップダンスしてる状況を覆せたのはこの子のお陰なんだ。しっかりと感謝をしないとね。
「ありがとう」
『……なにが?』
「とだまちゃんが居てくれてありがとうって」
『気にしなくていい』
「そうだ、とだまちゃんは何かやりたいこと無いの? お礼に協力するよ」
『別に、レイと一緒に居れればそれで良い』
なんていい子なんだろう。それに、私と居れればいいって、そんなの告白されてるのと同じだよ!
「ふふっ、へへへっ」
『? なんか気持ち悪い』
「そんなっ!」
人影も無い静かな砂利道を二人で仲良く話しながら飛んでいった。
―――――――――――――
時を同じくして、花畑の続く廃墟に動く影があった。
その影は壁の穴から荒れ果てた室内へと歩みを進めていた。
「なんだよ、誰も居らんじゃねぇか」
ちっ、と舌打ちが廃墟にこだまする。
「あの女狐めっ。何が誤差など無いだ、法螺吹いてやがる」
鬱憤を晴らすかのように大型の刀を振り回した。刃が触れる度に深い傷跡が刻まれ、既にボロボロの廃墟はさらに荒廃していく。
長い金髪を振り乱し怒りをぶつける。その巨大な刀を扱うには不釣り合いな程、体は華奢であった。
白柳を思わせる白く透き通った肌。刀の柄を掴む指は、すらりとして長くしなやかだった。
体の前面で服の左右を合わせ、腰には帯が巻かれている。大きな膨らみがダボッとした衣装を内側から押し上げ、首元を惜しげも無く晒していた。
「ちくしょう、探さないといけないのかよ?」
刀を肩に担ぎながらダルそうに空を見上げる。
なんてこった。俺はお使いなんぞしたくて付いてきたんじゃねえんだぞ、くそっ。
「早く切らせろよ。こいつが錆びついちまうだろうがよぉ!」
突然の咆哮に空気が振動し、壁から新たな欠片が落ちてくる。
そもそも、最初から好きにできると聞いていたんだぞ。なのに見付けてくれば後は自由? どこに居るってんだよ。
「だりぃぞ、無視して暴れるか?」
いや、あいつに逆らうと取り上げられちまう。形は違うがそれなりに馴染むからな、奪われるのは好みじゃねえし。
「仕方ねえ」
さて、一体どこに行ったんだ、お前の主がお探しだぜ? お嬢ちゃんよぉ。
刀を引っ下げ、女は廃墟を後にした。
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